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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第一部】 第三章 希望と共に
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第34話 獅子

いざ執筆してみると、キャラクター達のことをどんどん好きになりますね。

マール、ありがとう。


獅子


どうぞ。

 パァン——。


 ルミナの耳に乾いた音が響いた。


「——いつまでそうしてんだよ!」


 頬の痛みで我に帰ったルミナは、目の前に立つルキを見上げる。

 彼は息を荒げ、険しい顔で叫んだ。


「しっかりしろよ! そんなだから、マルクに足手まといだって言われんだ!」


 ルキに強引に立たされ、ルミナは戸惑いながらも走り出す。


「逃げるぞ! 今はそれしかできねぇんだ——」


 その様子を、血煙の向こうで見届けていたマールは言う。


「退路は、私が切り拓きます。急いでください」


 結界の中で敵と剣を交えるマルクは、一瞬だけ背後の二人に視線を向ける。ほんの一瞬、彼の瞳が穏やかになった。

 

 ——マールはその意味を察し、小さく頷いた。


 今ここで彼のためにできる事は、ここにある二つの希望を未来へと繋ぐ事だ。

 その思いを胸に刻み、迷いなく剣を振るうマール。


 ——王の間を後にするルミナ達の背中を見送りながら、傍観しかできなかった無責任な神様は、ただ自分の無力さを噛みしめていた。


『——カガミさん!』


 ラキの呼びかけにやっと気づいた俺は、彼女にルキ達の後をついていくよう促す。


(二人を頼む。俺は——)


 王宮の外へと飛んでいくラキに背を向け、俺は王座へと体を運ぶ。


 そこには、絶望的な状況の中でもなお、帝国兵へと果敢に挑むマルクの姿。


「くっ! ……なぜそこまで」


 ——ガンツには理解できなかった。

 もはや勝機などないはずなのに、命の火を燃やし剣を振るう彼の行動が。


 数の暴力に囲まれながらも、マルクは一度距離を取ると、再び構え直す。

 その姿に、俺は——。


(——マルク、すまない。何の役にも立てなくて)


「……君か」


 本当に——すまないと思った。

 皇帝の力を見誤った俺のせいで、何もかも失敗だ。

 それなのに俺は、ただ傍観する事しかできない。


(もっと、力になりたかった……)


 言葉なんか伝えたってなんの力にもならない。

 だが俺は、伝えずにはいられなかった。

 

 ——しかし。


「……気にするな、君だけのせいじゃない」


 マルクは、背を向けたまま淡々と言った。


 その声に、責める色はなかった。

 むしろ、静かな優しさが滲んでいた。


(……俺よりも辛いはずなのに、どうして……)


 込み上げるものを飲み込み、俺はただ彼の背中を見つめていた。


 ——そこで、王座に腰掛け高みの見物をする皇帝が言い放つ。


「声の主は、アリステラだな?」


 何気ないマルクの独り言を拾い、俺の存在を察したのか、皇帝ははっきりとこちらを見据えている。


 ——アリステラだと?

 何言ってやがる、俺は元々この世界の人間じゃないし、女神の一族なんて大層な肩書は持っちゃいない。


 (おいおい、冗談じゃねえ。俺がアリステラ? 寝言は寝て言えよ、このイカレ野郎が……!)


 怒りが込み上げる。

 今まで抑えてきた想いが、ついに爆発した。


(お前ら帝国はな……)


(近いうちにぶっ潰されて、泣きながら敗北するんだよ!)


(それが真実だ。覚悟しとけ、このタコ野郎!)


 ——傍観するだけのつもりだったが。

 悔しくて、腹立って、つい全部言ってしまった。


「ああ⁉︎ なんだ今の声……」


 空間に響き渡った姿なき声に、ガンツを含む帝国兵たちが思わず動きを止めた。

 ざわつき、剣を構える手にも迷いが生じる。


 ——だが、その中心にいる皇帝だけは、ただ静かに笑っていた。


「はっはっはっ! 面白い事を言う……では」


 俺は、皇帝の周りの空間が真っ黒に染まっていく様に感じた。

 

 そして次の瞬間——!


「——さらばだ」


(……ぐっ⁉︎)


 別れの言葉と共に、俺の視点は彼方に弾き飛ばされた——。



 ——気づけばそこは、王宮前の通り。

 後ろを見れば立ちはだかる妖魔達に剣を向け、二人を隣国ギルバディアの国境を目指し走らせるマールの姿。


 どういう事だ⁉︎

 なぜ俺はこんなところに……。


 自分の意識とは関係なく視点が飛ばされた俺は、再びマルクの元へと飛ぶ。

 だが、王宮を包む黒い“何か”が邪魔をし、これ以上の進行を許さなかった。


(くそっ⁉︎ 皇帝のやつ、何をしやがった!)


 “転生者”の存在を知り、しかもそれに干渉し弾き飛ばす力を持つ皇帝。

 俺は、奴の力をまだまだ計り知れていないのかもしれない。


 (——死なないでくれよ、マルク……)


 彼の無事を祈ることしかできない俺は、王の間への立ち入りを諦め、ルミナとルキを逃す事に専念する事にした。



 ——城下町には、いつの間にか現れた妖魔が暴れ回っていたが、幸いそこにバルナの民はいなかった。

 これはもしもの時の為に、皆に呼びかけた避難命令が功を奏していた為である。


 ただそこには、その帝国兵と妖魔軍団から逃げ惑うバルナ兵の姿が残っており、愉快にもその背中に刃を突き立てる空からの刺客がいた。


「ほらほら、お逃げなさい!」


 血に染まった剣を舐め回しながら、シュダは次なる獲物を見つけ出す。


 俺は、彼が見渡した先の景色を確認する。

 そこには、ルミナの手を引き、国境に続く森にかけていくルキの姿。


 餌を見つけた猛獣の如く、今にも飛びつきそうな千里眼の男に気づいた俺は思わず叫んだ。


(まて! シュダ!)


 その声に、ピクリと反応したシュダ。

 ——その一瞬の隙に宙に舞う彼の体は、何者かに掴み取られ地面に叩きつけられる。


「絶対に、逃しません……」


 小さな体を、いとも簡単に投げ飛ばすその正体はマール。


「本当に邪魔ばかりしますね、あなたは……」


 シュダは青筋を立てながら起き上がり、再びマールと対峙する。

 

 奴の隙を突いてくれたマールの力で、ルミナとルキを森の中へと逃す事に成功した。


 俺は、ルミナ達を追おうとその場を後にしようとするが、彼の背に一度立ち止まった。


 …‥マール。

 最後まで、みんなの為に戦ってくれたな。

 お前の活躍がなかったら、ルミナ達もやられていたし、避難命令を出したのもお前だったんだよな。


 マールとは、ゆっくり話でもしたかった。

 お前は、紛れもなくこの国の英雄だよ……。


(マール……ありがとう)


「……っ!」


 俺は彼の背に言い残し、ルミナの元へと飛んでいく。


 ——空耳を聞き、マールは振り向くがそこには誰もいない。


「気のせい……でしょうか?」


 彼は疑問に思ったが、確かに聞こえた“ありがとう”という言葉にそっと微笑んだ。


 ——マールが構えを解いたその隙に、翼の男が飛びついた!


「よそ見をするなぁぁぁ! ——ふげっ!」


 今度は硬い裏拳を顔面に叩きつけられ、惨めに転げるシュダ。


 そのまま拳を開き、長く下ろしていた金髪を後ろで高く結い上げた。

 その動きは静かで、しかし獣が牙を研ぐ前のような鋭さを帯びていた。

 そして次の瞬間、剣を構え、いつもの細めの瞳を大きく見開いた——。


「あまり調子に乗るなよ? ——鳥野郎っ!」


 仲間を逃し守る対象がなくなったマール。

 牙を剥いた獅子の如く、翼の男に飛びかかっていった。

マールの本気モード。

ワルだった頃の彼に戻ったようです。


お次は火曜日!

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