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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第一部】 第三章 希望と共に
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第31話 悪魔

ついに皇帝が、動きます。


悪魔


どうぞ。

 王の間の天井に響き渡る皇帝の言葉に、俺は耳を疑った。

 彼は、確かに“転生者”と言った——。


 転生……者?

 奴は俺がこの世に転生したことを知っていると言うのか? ……いや、そんなはずはない。

 俺は、偶然この世界に来ただけなんだから。


『今の転生って? もしかしてカガミさんの事、バレたんじゃ……』


 初めて味わう心臓を掴まれた様な感覚に、ラキも慌てふためいていた。


 一方バルナ兵達は、あらぬ方向に話しかける皇帝を見て、ついに狂ったかと呆れた様子。


「転生者……?」


「ふっ、何だそれ……」


 だがルミナ達は、皇帝の意味深な行動に、ある存在を連想させる。


「そこにいるって……まさか」


「……声のやつが、見えてんのか?」


 心配する様な目で、当たりを見まわすルミナとルキ。


「ククク……凡人には信じられまい。“転生魔法”の存在など」


 ——転生魔法。


 確かに、この世界でエギルを操るあの特別な力は、一般には知られていない。

 だが俺は、そんなものを使った覚えはない。誰かに召喚されたわけでもなく、望んでやって来たわけでもない。

 気づいた時には、勝手にこの世界に放り込まれていただけだ。


『カガミさん……』


 力のない声で擦り寄るラキに、俺は声を添える。


(心配するな、これは奴の勘違いだ。それにバレたところで、やつは俺たちには触れることもできない)


 ——すると今度は、皇帝の隣に控えていたシュダが、静かに目を閉じて口を開く。


「いやはや……まったく気づきませんでしたよ、これほど近くにいたとは。ふふ……」


 額に手を当て、ゆっくりと顔を上げる。

 その唇に浮かんだ笑みは、どこか狂気を孕んでいた。


「目を凝らせば、見えてきますねぇ——ほら、あそこに!」


 指の隙間から覗くその鋭い眼差しが、まっすぐに俺を射抜いた。


(——なっ⁉︎)


 俺は、この世界に来て初めて生きてる者の目視を許してしまった。


『あのチビ、こっちを見てますよ⁉︎ それより——』


 それよりもラキは、もっと大変な何かの“気配”を感じ取っていた。


 …….ゴ……ゴゴっ!


『黒いのが……皆さん、早く逃げて——!』


「散れ……」


 皇帝の呟きと同時に——それは起きる。


 ズズズズ……メリメリッ!


 ——白骨の触手の様な物が、地面から天へと伸びてゆく。


「まずいっ!」


 不穏な気配にいち早く気づいたマルクは、すぐに後ろを振り返り行動を起こしていた。


 

 ——その触手は次々と生い茂る。

 血飛沫が舞い、意思を持った白骨の木々が、全てを食い散らかし、辺りは鮮血の森へと化していく。


 天井には、バルナ兵の一部だった物をぶら下げた触手が次々と伸びていった。


『キャアァァ⁉︎』


 血に染まっていくバルナ兵に、顔を背けるラキ。


(お、落ち着けラキ……マルク達は——)


 彼女を宥めつつも、俺は固まっていた。

 人間がこんなにも残酷にちぎり殺される姿など、見たことがなかったからだ。



「——なんだよ、これ」


「こんな……酷すぎる」


 ——気づけば玉座から離れた場所にいるルミナとルキ、王の間に広がる地獄絵図を見て、気が動転しかける。


「二人とも、下がっていろ」


 目の前にはマルクの姿があった。

 この二人が無事だったのは、危険を察知した彼が二人をここに運んだ為である。


(こっちは、マルクがなんとかしてくれた様だな。マール達は)


 玉座の付近を見ると、マールをはじめ謎の触手攻撃をなんとか掻い潜った十数人程度のバルナ兵達を残すのみで、その他のバルナ兵達は無惨にも命を落としてしまった。


 ——そして、攻撃を終えた触手達は、ある男の方向へと帰っていく様に縮みゆく。


 その先にいるのは——パルメシア皇帝。

 鼻孔を震わせ、恍惚の笑みを浮かべる。


「思い知りましたか? 皇帝様がその気になれば、あなた方など虫ケラ同然なんですよ?」


 嫌味を添えるシュダと、その横では剣を担ぎただ黙したガンツが、再びバルナ兵に歩み寄ってくる。


「うっ……」


 仲間のほとんどが殺され、さらにその死を笑うものの前でさえ、恐怖で体が動かなくなる生き残りの兵達。



 ——しかし、全てが止まっていたかと思われたその空間から、一つの影が飛び出した。


「——その命、もらい受ける!」


「……っ⁉︎」


 口火を切った様に、死角から皇帝に斬り掛かる国王。

 敵の攻撃を紙一重でかわし続けながら、彼はずっと、この一瞬を——皇帝の隙を突くこの時を、待っていたのだ。


「国王様!」


 老いた体に残された最後の力。

 それを込めた一撃は、誰の予想も越えていた——騎士長でさえも。


 だが——。


 ガキィンッ!


 進むはずだった刃の先には、再び現れた皇帝の“触手”があった。


「惜しかったな。国王……」


 絡みつくように剣を封じたそれは、もはや人知を超えた異形の力。

 その一撃が届かないと知った瞬間、誰もが言葉を失った。


「ぐぐぐ……悪魔め」


 ——天井から、その光景を目の当たりにしたラキは震える体で俺にすがる。


『あの、うねうねしたやつって……やっぱり』


(ああ、皇帝の体の一部。“半妖”だ)


 高みの見物も束の間——!

 俺の体を切り裂く様に、後ろから疾風の刃が横切った。


『——カガミさぁぁん⁉︎』


 しかし、エギルである俺の体は物理的な干渉を許さない。

 そしてその背後に、何かを確かめる様に刃の先をつんつんと触りながら舞う半妖。


「やはり、“エギル”というものは人には触れないようですねぇ」


『ぐぐぐ〜、このチビ〜』


 ラキは拳を握り、小さな男を睨む。


(さて、どうする?)


 手も足も出せないコイツを釘付けにしておけば、下のみんなも助かるはずだ。

 俺はそう思い、虚勢を張る様にシュダの前に対峙していたが。


「ふふふ……名残惜しいですが、また会いましょう“転生者”さん」


 そう言い残し、彼は再び戦場へと舞い戻る。

 目の前の恐怖が立ち去り、俺は内心ホッとしていた。


(奴らは、どこまで……)


 エギルの存在を知ってる様な口ぶりが、俺の脳裏を離れなかったが、戦況は無情にも進んでいく。


 目の前で多くの仲間が捻り殺されたあの惨劇が頭から離れず、バルナ兵は先ほどの勢いが嘘の様に帝国兵の進軍を許していた。



 ——玉座では。

 守りに徹していた鉄塊の様な大太刀がマルク向い振り払われる。

 剛剣と呼ばれる一撃を、なんとかいなし剣撃を加えるが有効打にまでは至らない。


 そこで——!


「もらったぁ‼︎」


 ガンツの背後から飛びかかる少年兵。

 だがすぐに——拳を見舞われぶっ飛ばされる。


「いいねぇ! その命知らず。嫌いじゃないぜ?」


 背後でそれを受け止めるルミナ、すぐに彼女はルキに治療を施す。


 そこに——ある声が響く。


(まずいぞルミナ! 奴らまた——)


 異変に気づいた俺は、ルミナの元に行き事情を説明するが……。


「——なんですって⁉︎」


 間に合わない……。

 先程、バルナ兵達が半壊に陥った隙に、シュダから“奴ら”への指示は——完了していた。


 ルミナはすぐにその方向に目を向け、掌に魔力を込め黄色い閃光を打ち込んだ。


「うぐっ!」


 雷に打たれた魔法使いはその場に倒れ伏すがその足元には——例の“落書き”があった。


 ——次の瞬間、雷鳴のような音と共に、空気が凍りつくような重圧が玉座の周りを包み込んだ。


「そんな……」


 光が弾け、瞬く間に重厚な魔力の膜が張り巡らせる。

 氷の壁のごとき結界により、一瞬にして外界との空間は閉ざされた。


「さぁ今度こそ踊りなさい。皇帝様の掌の上で——」


 黒翼を広げたシュダが、ゆらりと宙を滑る。氷壁に反射する黒い影とともに、その笑みは氷よりも冷たく戦場に染み渡った。

転生者の存在を知る帝国。

全て奴らの掌の上だったのでしょうか……


お次は火曜日!

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― 新着の感想 ―
ど、どういう展開になりますか!?ホントに予想外過ぎて別物になりかけているっ! 火曜日はやくこーい!
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