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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
第三章 希望と共に
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第27話 奇襲

迫り来る半妖による奇襲!?

彼らはどう立ち向かうのでしょう?


奇襲


どうぞ。

 無言のまま王の間を取り囲むのは、剣を下ろしたバルナ兵。彼らに戦意の気配はなく、そこにはただ、乾いた筆音だけが響いていた。

 それに続いて、玉座の前に歩み出たパルメシア帝国皇帝が、己の名を記す。


 ——これをもって、バルナ王国とパルメシア帝国との同盟は公式に成立した。


「ふはははっ——これで我が帝国はますます磐石だ!」


 皇帝は高らかに笑い、王に向かって誇らしげに言う。


「感謝するぞ。バルナ王国、国王殿。」


「こちらこそ、陛下をこの地に迎えられたこと、光栄に存じます」


 快い面持ちで頭を下げる国王。それに対し、皇帝はある言葉を口走った。


「——胡散臭い肩書をぶら下げた雌犬と違い、国王殿が話のわかる方で、本当に良かった……」


「雌犬?」


「そう……アリステラのことだよ」


 ——その言葉に、俺の隣に佇む鎧がピクリと反応する。

 それに焦った俺は、すぐさま皇帝の方へと目を向けるが、幸いなことに帝国の人間はこちらの様子を気にも止めていない。


 特にあの男——四天王シュダ。

 本来の物語では、こいつの気づきによって計画を阻止された。この男だけは要注意だ。


 ——事なきを得、胸を撫で下ろしていると、皇帝の口からさらに辛辣な言葉が並べられた。


「あれはいい見世物だったな、忘れられん。英雄気取りだったが、女神族も首だけとなってしまえば——」


「無力なものですねぇ——ふふふ」


 皇帝の横にいたシュダも、女神アリステラの死を嘲笑う。


 すると——。


 王の間に、悪魔のような笑いが響き渡る中——怒りを宿した一つの鎧が、俺の横から消えていた。



 「——おっと!」



 王の間に、剣と剣がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響く。

 ガンツの剛剣が、一介の鎧兵の攻撃を受け止めていた。


「……何っ⁉︎」


 驚いた国王は、思わず声を上げる。

 

 何をやっているマルク⁉︎ 暗殺の実行は、皇帝の護衛を十分に離してからのはずだ。このタイミングじゃ、いくらお前の剣が速くても見切られる。


 予定にはない奇襲に戸惑っていたが、マルクはそのまま二太刀、三太刀と剣を叩き込む——。


「へへ! 中々速えな!」


 大太刀を壁にし楽々と対応するガンツだったが、次の瞬間、細身で鋭い剣がマルクの鎧を貫いていた。


「——どちら様でしょうかねぇ?」


 剣の持ち主はシュダ——。


 しかし、彼が振り向いた視線の先には、既に鎧を脱ぎ捨てあらわになったマルクの姿。


「ほう……うまく避けたな」


 この一連の出来事にも、笑みを崩さない皇帝。

 全ては予定通りと言う余裕だろうか。



 ——マルクの動きをどうにか目で追い、俺はやっとの思いで彼を捉え、そこでようやく気づく。


「よくも——アリステラ様を」


 マルクの顔に、初めて浮かぶ鬼の形相。

 いつも冷静だった彼をそうさせた原因は、もう明らかだった。


 ——女神の晒し首。


 アリステラの死を弄び、あまつさえそれを嘲笑う皇帝。この屈辱的な仕打ちに、黙っていられるマルクではなかった。


 きっと皇帝の姿を見た時から、この心の鬼は、マルクの中に生まれていたのだろう。


「この動き、お前——光速剣だな⁉︎」


 ずっと沈黙を貫き通していたガンツも、獲物を見つけた獣の様に生き生きとしている。

 その様子を見ていた皇帝は、今度は王座へと向き直った。


「これは、どういうことかな? 国王殿——余興にしては笑えないが?」


 皇帝の圧を浴びる国王だったが、負けじと睨み返しゆっくりと剣を抜く。


「我が国が、悪政に塗れた帝国の傘下に下ると、本気でそうお思いか?」


 暗殺の失敗にも物怖じせず、真っ直ぐな目で皇帝を見据える国王は、やがて手を挙げ合図を送った。


(始まったか……)


 その合図は兵から兵へと伝えられ、それを追っていくかのように俺はルミナの元へ飛んでいった——。



 ——王宮の入り口にて。


(——合図だ)


「ええ、聞こえていたわ……」


 俺が二人に知らせる頃には、既に騎士長マール率いる伏兵隊が、王の間へと駆けていっていた。

 だが、彼らの中には不穏な空気が漂っている。

 

 それもそのはず、皆が受けた合図は作戦失敗の合図だったからだ——。


『カガミさん。今の合図って……』


(……ああ、しくじった。だが次の作戦だ)


 不安を隠せないまま、俺とラキはルミナの後へとついていく。


「——やるべきことは変わりません! 我々が守るべきものも」


 マールは、冷や汗をかいていた兵達に、声援を送り戦意を保った。

  

 

 ——先頭を走るマールはついに、王の間の扉を勢いよく開ける。


 バタンっ——!


 そこには大男と剣を交えるマルクと、その奥で剣を抜き皇帝と対峙する国王の姿。


 すると、次の瞬間。


「──ほぅらっ!」


 突如、天井付近の影が裂け、鋭い風音とともに一人の男が落下してくる。

 咄嗟に剣で受け止めたマールだったが、不自然なまでに空中を滑るように落ちるその姿に、兵たちは言葉を飲んだ。


「と、飛んでる……」


「あれが……半妖」


『あ、あいつ! まるで、鳥みたいですよカガミさん!』


 宙を舞う小さな男の正体はシュダ。彼の腕は、明らかに巨大な翼の様なものに見えていた。


「ふふふ……」


 半妖——。

 妖魔を操る禁断魔法を持つ帝国が、人間と妖魔を掛け合わせ作り出した存在。


 噂に聞いていたその人造兵器を目の当たりにした兵達は、初めて見るその異形な存在に恐れをなし、飛び込めなかった。


 

 ——しかし、誰しも固唾を飲んで見守る中。シュダの元へ、火球が飛んでくる。


「うぐっ——!」


 咄嗟に翼で防ぎ、身を翻すシュダだったが、その隙をつき小さな剣が迫った。


「おらぁぁぁ!」


 背後から勢いよく切り掛かるルキ。だが、紙一重でそれを避け、距離を置くシュダ。


「おかしいですねぇ……この姿を見たら、皆恐れ慄くと思ったのですが」


 彼は、半妖を前にして、恐れず向かい挑む女子供の攻撃に驚きを隠せない様子。

 

 それもそのはず。俺は以前、ルミナ達にある入れ知恵をしていた——。




 ——作戦決行の数日前の夜、宿屋にて。

 ラキを寝かしつけた俺は、仲間達とある情報を共有していた。


「半妖? なんだそりゃ……」


(妖魔の存在は知ってるな? 半妖ってのは、早い話人間と妖魔を合体させたものだ)


「噂には聞いていたけど……本当にいるのね」


 帝国が持つ人造兵器の存在を聞き、驚くルミナだったが、アリヴェル崩壊の現場に立ち会っていたマルクが、それに付け加えた。


「恐ろしい存在だ。妖魔の力を持ち、さらに人間の理性も残っている」


(俺の予想が合っていれば、皇帝側の一人が——その姿を現し、襲ってくると思われる)


 ——ゴクリ。


 いつも威勢だけはいいルキも、流石にビビっている様子だった。


(そこでだ。空から襲いかかるであろうそいつに、ルミナとルキで奇襲をかけて欲しい)


「俺たちが⁉︎」


(半妖が現れたとなったら、おそらくバルナ兵達は萎縮し戦意を失うだろう。もちろん向こうは、それが目的で不意打ちをかましてくるのだが、逆にこちらから奇襲を被せるという作戦だ。——できるか?)


 ルキはポカンとしていたが、皆と共に戦うことを決めいていた彼の気持ちは決まっていた。


「もちろんだ! そんなやつ、俺がぶった斬るぜ!」


「私もいるんだから、一人で無茶しないでよね!」


 若き二人の意気込みが、夜の宿に元気よく響き渡る——。




 ——現在、王の間にて。


 緑色の光を込めた拳を握り締め、奇襲に戸惑う半妖を見据えながらルミナは言い放った。


「半妖なんて外道な存在に、恐れ慄く私達じゃないわ!」


 果敢に立ち向かう二人の姿見て、一同はどよめく。


「……ルミナ殿」


「ルキ……お前」


 半妖だって、絶対の存在ではない。

 魔法を浴びせ、剣で斬ってしまえば絶命に至る。

 臆せずそれを実行し証明するのが、この作戦の目的だ。


『ルミナさん! カッコいいです!』


(あいつら、あんな恐ろしいやつに……二人とも——よくやった)


 その場を見ていたマールも、二人の勢いを他の兵士たちへと繋いでいった。


「その通りです! 半妖など我がバルナの敵ではない!」


——二人の勇気が、沈黙していた兵たちに火を点ける。

 奇襲は成功。戦場に、反撃の狼煙が高く上がった。

目には目をという作戦でした。

次なる作戦は……?


お次は火曜日に会いましょう!

では。

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大筋は変わってないけど、わずかにズレが出ている… 目を離せない!続きが気になる!
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