第24話 決意
もう迷いはありません。
皆張り切っています!
決意
どうぞ。
——気がつくと俺は、冷たい牢屋の中にいた。
足元は石の床で、ひんやりとしている。
……また、これか。次は一体、何が来るんだ?
まあ今回も捕まってるし、いい予感は全くしないが。
いつもの如く、手足には自由を奪う錠。
俺は再三に渡る夢の世界の出現に、もはや驚くことはなく、ただ時間が過ぎるのを待つ。
——すると、牢屋の扉がガチャリと音を立て、ゆっくりと開いていく。
しかしそこには、いつもの黒甲冑男の他に何者かがいた。
暗闇に光る装飾を備え、真っ黒なローブに身を包んだ白髪の男。
暗い上に、目が霞んでいる俺にはそれしか確認できなかったが、その男は不敵な笑みを浮かべながらこちらに何かを話していた。
疲労困憊で、相変わらず会話の内容が頭に入らなかった俺だが、男は目の前にある物を投げよこした。
——そこにあったのは、丸く青白い“何か”。
ぼやけた視界で輪郭を追ううちに、鼻、口……そして目が形を結ぶ。
それは……。
——男の生首だった。
げぇぇーッ! く、首ぃ!?
さらに俺の心の衝撃と同時に、耳元から脳の奥まで女性らしき叫び声が響き渡る。
「——キャアアーっ!」
うわっ!? 今度は何だ……!
まさか、俺の専売特許だと思っていたが、俺にも天の声が聞こえるって言うのか!?
あたりを見ても女性の姿なんてなかったぞ?
いや、それよりも…‥胸が……。
呼吸が乱れ、胸の奥が締めつけられる。
……いや、痛みというより、胸の奥が重く沈むような感覚だった。
この感覚、覚えがある。
大切な人を失った、あの日と同じだ。
——そう、それは深い悲しみ。
なぜか、目の前に転がった男の首を見ていると悲しみが溢れ、涙がとまらない。
俺の体は、胸に空いた穴を埋めるように、その首を抱き抱えていた。
くそぉ……どうなってんだ?
苦しいよ……母さん。
すると——。
『——カガミさん!』
(はっ!?)
俺は再び、ラキの声で現実に戻された。
気がつくと周りはいつもの宿屋。彼女は俺を見つめ、心配している様子。
(ここは……?)
『宿屋ですよ。もうっ! ボケちゃったんですか?』
そうだ、今朝マルクが、二人と共に戦うことを決意し、作戦の内容を話した後宿屋に戻ったんだった。
見慣れた景色に安心する俺だったが、先ほどの夢の余韻が胸に残る。
——俺の体は変になっちまったのか……?
何度も何度もあんな夢を……やっぱり、何かおかしいぞ。
『カガミさん。さっき、母さんって……』
あまりの苦しさに母の名を呼んだ俺だったが、この子に聞かれていたらしい。
全く、恥ずかしい話だ。
(気にするな、忘れてくれ)
『……むむむ、えいっ!』
いつも通りの感じで俺は答えたが、ラキは俺を思い切り抱きしめた。
(何を……!?)
彼女はゆらゆらと体を揺らしながら、目を瞑り呟く。
『泣いてるルキを慰める時、これが一番効いたので』
(ラキ……)
やはりラキには、何も隠せない。
平静を装ってはいても、彼女は俺の中の深い悲しみをすぐに見抜いていたんだ。
『どうです? あったかいですか?』
(はは……よく、わからないや)
体温を感じない今の俺には、温もりなんてのはよくわからなかった。
でも、ラキの気持ちは心底嬉しかったよ……。
ありがとうな——ラキ。
——次の日、早速マルクは一人で王宮に足を運び、騎士長マールに、二人の参列の許可を申し出ていた。
「ルミナさんとルキくんを? また、どうして急に?」
「二人は僕の仲間だ。信頼もできるし二人も共に戦うことを望んでいる。……だめだろうか?」
マールは少し考えた後、すぐに口を開く。
「——かまいませんよ。お二人の事なら、私たち兵士一同も信頼を置いていますから」
目を見張る成長を遂げ、バルナ兵たちと切磋琢磨するルキ。
傷ついた兵に寄り添い、優しく魔法で癒すルミナ。
皆と打ち解け、信頼を得ていた二人の参加に、マールはあっさりと承諾してくれた。
「もしもの時は、私がついていますのでご安心を」
さらに心強い言葉を添えるマール。
バルナ王国軍の正式な一員として認められた二人も、計画に向け、ますます訓練に励むのだった。
——そして、訓練所では。
「ルキぃ! 足引っ張んじゃねえぞ!?」
「へっ! 帝国なんて、俺が全員ぶっとばしてやる!」
ルキはバルナ兵たちの弟分として、すっかり馴染んでいる。
「——いざとなったら、私がルミナ殿をお守りしますから!」
「いやいや! ルミナ殿は俺が!」
「……はは、ありがと」
戦場に出るルミナを真っ先に守る意を表し、彼女の周りに群がる兵士。
今日も訓練所には、人々の笑顔が絶える事はなかった。
『——皆さん張り切ってますね!』
二人の奮闘を見ながらますますやる気になるラキだったが、一つの疑問を俺に投げかけた。
『ところで……カガミさんって、今回の作戦にどう関わるつもりなんですか? 王様やマールさんに、名乗ったりは……?』
最もな質問だな。
(俺なんか、生きてる人からしたら眉唾物だからな。今言っても混乱を招くだけだろう)
俺の存在を信じてもらうには時間がかかる。下手に名乗れば、不信を招くだけだ。
だから俺は、信頼できるマルクたちにのみ伝えた。
——帝国の奥底を知る俺にしかできない“秘策”を。
かつての俺なら、仲間の誰かが死んでも“物語の都合“として片付けていただろう。
だが——ラキは違った。
あの子は、最後まで伝えられなかったんだ。
血に濡れながら何度も口を動かして……結局、言葉にならないまま消えていった。
伝えたいことを抱えたまま死んでいく姿が、俺はどうしようもなく悔しかったんだ。
(もう二度と、あんな思いはさせたくない……)
俺は小さく呟いた。
——こうして、ようやくこの世界の戦いに、真正面から関わっていくことを決意するカガミなのだった。
後は計画に向けて進むだけ!
ですが第二章はあと1話……。
短めなのでもう少しだけお付き合いくださいm(_ _)m
お次は金曜日!
では!