第23話 本当の仲間
珍しくカガミが活躍!?
本当の仲間
どうぞ。
今にも砕け散ってしまいそうなその背中を、ルミナは堪らず抱きしめた。そして、孤独な青年騎士にそっと囁く。
「一人で全部、抱え込まないで。——アリヴェルが滅んだのも、あなたのせいじゃない」
ルミナの声は震えていた。けれどその腕には確かな力がこもり、彼女自身も必死に伝えようとしているのがわかった。
その温もりに触れた瞬間、マルクの胸にかすかな記憶が蘇る。
——あの時と同じだった。家族を亡くし、一人だった自分を抱きしめてくれた、女神アリステラ。
あの温もりがあったからこそ、どんな孤独にも耐えることができた。
「アリステラ様……」
彼の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
アリステラを思わせるルミナの抱擁に、心の奥底に眠っていた温もりを、思い出すことができたからだった。
涙を流しながら抱きしめられたまま、マルクはただ目を閉じていた。
そのひとときは、永遠のようにも、一瞬のようにも感じられた。
——気づけば、ラキが俺の隣で啜り泣いていた。
『なんかいいですね……こういうの』
マルクの涙を見て、何かを感じ取っていた彼女だったが、弟の方はよくわかっていない様子。
「一体、どうしたってんだよ……」
涙を拭い、二人に向き直ったマルクは、口を開く。
「——ああ、もう大丈夫だ」
自分の気持ちに整理がついた彼は、ついに全てを話す事を決意した。
「皇帝暗殺について、黙っていてすまなかった。……全て、本当の話なんだ」
マルクの口から出てきた確かな言葉に、二人の顔から再び不安が漂う。
「……二人が足手纏いになると思い、一人で戦おうとしていた」
苦しい告白に二人は胸を痛めたが、それでもマルクが本音を口にしたことが嬉しかった。
そして彼は、続けて“気づき”を吐き出すが……。
「——でも、僕はもう一人じゃなかった。だから……」
そこで言葉が途切れる。
伝えたいのに、怖かった。自分の願いを口にした瞬間、もう後戻りできなくなる気がして。
仲間の視線が静かに彼を待つ。
(口にしろ、マルク。お前の本当の願いを——)
背中を押すように響く天の声に、マルクの瞳が揺れる。
「……一緒に戦ってほしい。それが、僕の望みだ」
俺が思っているより、マルクはずっと口下手みたいだな。でも、不器用なりによく伝えたよ。
「やっと……言ってくれたね……」
「へっ、一人で行こうなんて言ってたら、ぶん殴ってたぜ」
助けを求める気持ちを、はっきりと示したマルクに、喜びの表情を浮かべるルミナとルキ。
ずっとバラバラだった三人だったが——この瞬間、ようやく本当の仲間になれた気がした。
『やりました! これで二人も一緒に戦ってくれますね!』
手を取り合う三人を見て、飛び上がるラキ。
やっとの思いでここまで来れた。さてと——。
(……おほん。ようやく、決意が固まったか?)
天の咳払いが聞こえる方を向き、マルクは小さくため息を吐く。
「はぁ……君のおかげで、全てが剥き出しになってしまったな」
(まあそう言うな、問題はここからだ。……それに、今回は俺も協力させてもらう)
『私も、お供させていただきます!』
人知れず助太刀宣言をするラキの横で、釈然としない様子の弟。
「……なぁ、こないだから誰の声か知らねえが、お前は役に立つのか?」
相変わらずの生意気っぷりを発揮するルキに、俺は冷静に答える。
(何度も言うように、俺はこの世界の全てを作ったと言ってもいい、神様同然の存在だ)
それを聞いたルキは、ため息をつき未だ全然信じてない様子。
全く、仕方がない。ではこの世界では神しか知らないトップシークレットをお披露目してやろう。
——俺はこの場に、一石を投じた。
(——何を隠そう。ここにいるルミナこそ、女神族の生き残り“アリシア”だ!)
神の突然の爆弾発言に、ルミナはテンパった。
「ちょ、ちょっと! 何言いだすのよいきなり!」
「よさないか! 誰かに聞かれていたら……」
ようやく冷静さを取り戻したマルクも、再び慌て狂っている。だが——。
「アリ……シア? 誰だそいつ?」
全く驚いていない様子のルキ。
嘘だろ……。
この大陸では、誰しもが知る一族のはずだし、ルキもひっくりかえると思ったんだが……。
(……お前の弟は、何も知らないんだな?)
『えへへ。世間知らずで、すみません……』
俺はこっそりとラキにぼやき、弟のルキに女神族の事について簡単に話した。
——この大陸には、女神族という優れた力をもつ者がいて、人々に神として崇められる存在だった。
女神アリステラは、特別な力を受け継ぐ娘アリシアが狙われるのを恐れ、その存在を隠す事に。
やがて彼女自身は帝国に捕らえられるが、その前にアリシアを逃がし、彼女の行方は知れなくなったと。
「……へー」
全く興味がなさそうなルキに、ルミナは自分から補足する。
「そんな事も知らなかったの? ちなみに、アリシア……はとても、う、美しいって噂があったのよ?」
ルミナは鼻高らかに説明した。
「ルミナ……」
おいおい……何の見栄っ張りだよ。
マルクもやれやれって顔してるぞ?
「本当かよ……? ってか、自分で美しいとか盛ってんじゃねーよ!」
その言葉にピクリと反応し、少し恥ずかしそうに声を荒げるルミナ。
「ち、違うわよ! 私は噂を聞いただけなんだから!」
また、始まったぞ。
「へっ、どーだか。うちの姉ちゃんの方が、ずっと美人だったぜ」
女神の美しさとやらになびかないルキは、笑いながら、背中を向け言い捨てる。
『……ルキぃ』
それを聞いていたラキも、口を押さえ喜びを隠せない様子。
お前も一々喜ぶな!
「……ぐぐぐ」
鬼へと変貌していくルミナは、背中を見せるルキに一歩踏み出すが、それを察したマルクはルミナの手を握り必死に首を横に振る。
ルミナは、マルクの顔を見るなり唇を震わせながら、鼻の穴を膨らまし少し涙目になっている。
やばい! なんとかしないとこのままじゃ一致団結どころではない。
何かないか何かないか……あ?
(お、おい! ルキ! お前、ナナに惚れてるだろう?)
俺は、少年の甘酸っぱい恋心を人質に取った。
「な、ナナぁ!?」
声のする方へ振り返り、ルキは必死に弁解する。
「ち、ちげーよ! この前はたまたま一緒に遊んだだけで、俺は……。とにかく、そんなんじゃねえよ!」
だがそれを観察していたラキは、すかさず呟いた。
『お。ルキったら、嘘をついていますね。むふふ』
ルキの慌てている様子を見て、からかうように笑うルミナ。
(むむ、嘘をついているな。神様には人間の嘘なんてわかるんだぞ)
ふっ——生意気なガキをわからせるのも、悪くない気分だな。
ラキがいる俺にとっては、嘘を見抜くなど朝飯前だ。
まあ、あんな反応をされたらラキがいなくともバレバレなんだが。
ルキの生意気な口が閉じたところで、ルミナ達もだんだんと落ち着いていく。
(ちなみに。動物を使って二人をここに導いたのも、俺の仕業なんだぞ)
「あのカラスも!?」
「神様って、本当なのかよ……」
本当に、ラキ様様だな。
——こうして、どうにか二人を説得する事に成功した俺だった。
ルキも少しだけ俺の存在を信じてくれた様で、ルミナは女神族の秘密があったから割とすんなり俺を信じてくれた。
マルクは多分、人を信じやすい性格なのだろう。
心配だ……。
「——そろそろ、本題に戻そう」
場が落ち着く中、真剣な面持ちで空気を一気に引き戻すマルク。
こう言うところは、やはり主人公だな。
(助かるよマルク。では計画の事だけど、やはりマルクの口から話してほしい)
——暗殺計画に加担する決意をしたルミナとルキ。
二人はついにマルクの口から、その全貌を聞くこととなった。
主人公マルクが、ついに決意してくれました。
何がともあれ一件落着。
次は火曜日〜
お待ちしております!