第21話 チクり作戦
ラキが笑ってくれてるおかげで、カガミはなんとか前を向けています。
チクり作戦
どうぞ〜
——随分と遅いな、ラキのやつ。
俺は訓練を終えたルキとルミナについて行き、宿屋にてラキを待っていた。
すると扉の方から誰かがくる気配がした。
——ラキ? 帰って来たか。
ガチャリ。
扉を開けて入って来たのは、見慣れた主人公様の姿。
なんだ、マルクか……。
今朝の喧嘩の件もあり、俺は気まずかったがマルクは気づかず通り過ぎる。
すると今度は遠くから——。
『ひぐっ、ひぐっ……』
(なんだ? 子供か?)
鳴き声の主はだんだんと近づき、ついにはカガミの前で泣き崩れた。
『ガガミざ〜ん!』
(どうした? どうせ迷子にでもなったんだろう……)
『違いますよぉ!』
勘違いをした俺を、くしゃくしゃの顔のまま睨むラキ。どうにか彼女を落ち着かせ、今までの経緯を聞く事に。
——数分後。
『ずずず……つまり王様は、こっそり街へ行って子供達のために——』
(なるほど。俺も知らなかったが、あのバルナ国王がねぇ……)
ラキの追跡のおかげで、俺は国王の意外な一面を知る事ができた。
『私、感動しました!』
だろうな、顔におもくそ書いてあるよ。
『バルナの人達のためにも、絶対に皇帝をやっつけましょうね!』
(……そうだな)
国王の行動により、さらにやる気になったラキは、空返事をする俺に問う。
『そう言えば今朝。マルクさんと何を話してたんですか?』
やっぱり気になるか……。
せっかくやる気になってるラキに、計画が失敗する未来の話なんて言えないよなぁ。
(大した話じゃない。計画のことについて、マルクと話していただけだ)
俺は適当に答えるが、隣から鋭い視線が刺さる。
ジーっ。
(な、なんだよ)
俺をジッと観察していたラキは、突然閃いたように声を上げた。
『その反応。何か嘘をついています!』
(はぁ!? 何を言ってんだ…….)
根拠はないが、彼女の勘の良さに、俺は内心焦った。
『私わかるんです! 嘘をついた人のエギルは何かこう、ボボボって動くんです!』
ラキ曰く、人が嘘をつく時には、エギルが変わった動きをするらしい。
(うそ、だろ……?)
『ふっふっふっ、その反応やはり図星ですね!』
ラキが国王についていったのも、彼が部屋で休むと言った嘘に気付いてのことだった。
事あるごとに人のエギルを観察している彼女の行動を振り返り、俺はそう確信する。
『さあ! 観念して、話してください!』
(むぅ……)
嘘発見器と化したラキには、いつまでも隠し通せないか。俺は観念し、覚悟を決め全てを話した——。
——俺が話を終える頃には、皆はもう寝静まっていた。
『なるほど』
全てを聞きようやく理解したラキ。俺は、恐る恐るラキの方を見るが、彼女は目を瞑りため息を吐いた。
やはりマルク同様、怒ってしまうだろうか。
『なんだ、そんな事ですか……てっきりもっとやばいことかと』
俺の不安とは裏腹に、彼女は気にもとめてない様子だった。
暗殺に失敗したらマルクもバルナにいるみんなも、タダではすまないのを分かってるのだろうかこの子は。
俺は、ラキが事の重大さをわかっていないと思っていたが、彼女はこう言い放った——。
『誰だってそうですよ。やる前に失敗するかもしれないって不安になるものです。でも、そんなものやってみなきゃ分かりませんよ』
(……ラキ)
彼女はいつもの笑顔を、俺に向けている。
——そう……かもしれない。
やってみないと、何もわからない。
『だから、やりましょうよ。カガミさん!』
それでも迷う俺に、ラキはさらに追い打ちをかける様に言う。
(俺は……)
繰り返し背中を押す彼女のおかげで、俺の中で、少しずつ勇気が湧いてきた。
確かにそうだよな。やる前にあれこれ考えるのは俺の良くない癖だ。
勘違いしているのは、俺の方だったな。
(ああ——やってやろう)
意識するより先に、俺の心はすでに決意を形にしていた。
この子の笑顔を見ていると、俺はなんだってできる。本気でそう思えたから。
『——そうこなくちゃ!』
その一言を待っていたかの様に、ラキは嬉しそうに頷く。
ありがとうな、ラキ……。
——そして、翌朝。
よぉし! 出てこいラキ!
『おはようございまぁす……』
掛け声と共に、目を擦り現れたラキ。
しばらくの間、出しっぱなしにしていた為か彼女は、少し疲れた様子だった。
やはりエギルも消耗していくものなのか……。
これからは、こまめに引っ込めておかないとな。
『さて、カガミさん。今日は何をいたしましょう!?』
昨日のラキの言葉で俺の決意はかたまっていた。
ズバリ、次の目的は……!
(暗殺計画の事を、ルミナ達にチクろう!)
『チ、チクる!?』
ここ最近、早朝から姿を消しているマルクに二人は不信感を抱いている。
俺の知る話だと、ルミナとルキは計画の事をいずれ知る事になるのだが、もはや待っている暇はない。こちらから二人に知らせ早い段階で暗殺計画に加担してもらうと言う作戦だ。
(早速、行こう!)
『待ってください!』
いち早く動こうとする俺に、今度は珍しくラキが止める。
『アリステラ様の一件もありましたし、カガミさんの口から、真実を伝えてもイマイチ信用されないかもしれませんよ?』
確かに俺は自分を神だと名乗ったが、皆の信頼をそれほど得れていない。
むむむ、中々鋭いとこを突いてくるな……。
『マルクさんが、二人の前で口を割ってくれたら早いのですが——』
ラキの言葉に、俺は閃いた。
(それだ!)
『はい?』
(耳を貸してくれ……ごにょごにょ——)
まあ、こっそり話す意味はないが……俺は、チクり作戦の内容を説明した後、俺は時を待った。
——作戦を遂行すべく、ルミナとルキがいる訓練所にラキを送り届けた後に、俺はマルクの元へと飛んで行った。
案の定、そこは王の間——。
……やはりここにいたかマルク。
マルクは、暗殺計画のシミュレーションとして、剣を振りながら、敵との間合いを測っていた。
——すると。
「はぁ……また、君か」
マルクは立ち止まり、呆れたようにこちらを振り向く。
以前のように、感覚を研ぎ澄ませた人間には俺の存在は確認できるようだな。
だが、そんなのは想定内。
「用がないなら、どこかへ行っててくれないか?」
全く、昨日は心配して言ってやったのに……。
しかし今日は、ちょっと付き合ってもらうぞ。
(昨日の続きだけど……なんでルミナにあんな事したんだ?)
「あんな事?」
(唇——奪っただろ)
俺が言い放った事実に、マルクは顔を真っ赤にして狼狽える。
「さ、最低だぞ! ひ、ひ、人の情事を覗き見るなんて!」
あらあら、かわいい反応しちゃって。
最も、あんなシーンを作ったのはこの俺だがな。
(俺は仮にも神として、全てを見届ける義務があるのだ。そんな事より、これから死ぬつもりのやつが彼女にあんな事したら罪だと思わないか?)
俺は適当な理屈を押し付け、マルクを責め立てる。
でも、間違いは言っていない。残された彼女の事を考えたら彼は想いを伝えるべきではなかった。
「し、仕方ないじゃないか。……彼女の正体を、本人の口から、言わせるわけにはいかなかったんだ」
マルクの言い分としては、ルミナの正体を誰かに聞かれてはならないと言うもの。
最もらしい言い訳をしていたが、その行動の真意を知る俺は、敢えて彼の図星を突き、さらに冷静さを削いだ。
(そんなこと言って……本当は大好きなルミナの心に残りたかっただけだろう)
「……ぐ」
大方そんなもんだろう、ずっと好きだったお姫様が、あんな綺麗な格好で出てきたもんだから、気持ちが抑えられなかった。当然の心理だ。
(そんなに一緒にいたいなら、彼女も連れて行けよ?)
「ダメだ! ルミナを危険な目にはあわせられない」
その提案に首を横に振るマルクだったが、俺は声を上げて言い放つ——。
(ならもうバラしちまうか! ルミナの正体は、アリ——)
突然の天の声による思わぬ大暴露に、必死に叫び止めるマルク。
「やめろぉぉぉ!!! どう言うつもりだ君は!?」
廊下にまで響き渡るであろう彼の叫び。しかし、焦りに焦ったマルクには、そんな事を気にする余裕はなかった。
だがそれこそが、天の声の狙い……。
(うそうそ、焦った?)
恥じらいと怒りが渦巻き、いつもの冷静さを完全に失うマルク。俺はあの手この手を使って、彼を弄ぶ。
あと少し……。
(なら言ってみろよ。お前一人に、何ができるんだ?)
天の声の挑発のままに、言葉を続けるマルク。
「僕には背負ったものがある! 奪われた仲間と、滅んだ祖国と……そして守るべき彼女がいる! だから——」
(だからぁ? なんだよ?)
「だから……たとえ僕一人でも、暗殺を成功させてみせる!」
勝った——。
狙い通り、王の間にマルクの思いを響き渡らせた俺は、マルクにそっと呟く。
(マルク、後ろを見てみな)
マルクはハッとなり、恐る恐る後ろを振り返る。そこには——。
「……どういうこと? マルク、暗殺って……」
——そこには、ルミナの姿があった。
神様の手のひらで踊るかわいいマルクでした。
さて、ルミナはどうする?
お次は火曜日にお待ちしております〜