第14話 バルナ王国
第二章、決意と共に。スタートぉ!
今回からは火、金の週二更新!
この章からは物語の主人公達の内容を掘り下げていきます。
お待ちかね、恋愛要素もちょこっと……
舞台はこちら。
バルナ王国
どうぞ。
カガミの不安とはよそに物語はどんどん進んでいく。行き着く先は望む結末なのかそれとも……。
その結果は誰にもわからない。
——小さな村や町ばかりを転々としていた一行、道中ではアバン、フラッツと帝国に抗う同志を募っていく。
そして、彼らはついに、街の中心に王宮を構えた国、バルナ王国に到着した。
「やっとついたけど……王国?」
「そう、ここは……バルナ王国だ」
王宮に目を奪われ、ここが今までの村や街とは違う王国だと気づくルキ。
二人を連れたマルクが、街の通りをどんどん進んでいく中、少し後ろの方で……。
『王国のようですが……見たところかなり小さな王国ですね?』
街の中心に佇む、小さな王宮を見据えながら、カガミに問うラキ。
(確かに、ギルバディアなんかに比べたら小さい国だな)
大陸の二大国の一つと呼ばれるギルバディア王国に住んでいたラキにとっては、バルナ王国は小さな国だった。
『確かに小さいですが、なんだか街の人々に活気がありますね! ここは一体、どんな国なんですか?』
ラキが言うように、道行く人の顔からは明るさが絶えない。
笑顔が飛び交う温かい街を進みながら、カガミは続ける。
(このバルナ王国はアリヴェル、ギルバディアの二国に比べると、ずっと若くて小さな国で、王国としてまとまったのはここ数十年の話だ)
『へえ……そんなに新しいんですね』
(他二つの王国とも昔は結構仲が良かった。同盟を結ぶ一歩手前までいったぐらいだからな)
『えっ、そうだったんですか!? でも、同盟はしなかったんですか?』
(ちょうどその時だ、帝国が二大国へ一気に進撃を始めた。……結果、同盟を結ぶ前に——)
『……ギルバディアは、半壊。アリヴェルは滅びちゃったんですね』
(……そうだな)
ラキは、故郷が滅ぼされた辛い過去を思い出し少し感傷に浸る。
『マルクさんは、ずっとこのバルナ王国を目指して旅をしていたのでしょうか?』
すぐに上を向き直り、さらに聞くラキ。
(ずっとではないが、以前の街でナナの父親であるテスカのある情報をもらってな……それでここまできたんだ)
実はマルクは、テスカから密かにバルナ王国の、“ある情報”を得てこの国に足を運んでいた。
『ある情報って? 私にも聞かせてください!』
ラキは目を輝かせるが……。
(すまん、今は下手に喋れない。俺の声は意外にもだだ漏れだからな)
今は話せない理由が、カガミにはあった。
『カガミさんのケチ……』
唇を尖らせながらも、ラキは人にぶつからないよう上空からカガミと共にマルク達についていく。
——城下に入ると、マルクは他には目もくれず、ルミナとルキを連れ王宮の門をくぐる。
「えっ、マルク……王宮って、どういうこと?」
許可なく他国の王宮に入るマルクを見て、戸惑うルミナの声に、ルキも目を丸くする。
だが、ふたりの不安とは裏腹に、門番はマルクの顔を見るなり一礼し、すんなりと通してくれた。
そんな疑問を、ラキが見逃すはずもない。
『マルクさんって確かアリヴェルの騎士ですよね? あんなに簡単に他国の騎士を王宮に入れてもいいのでしょうか?』
(実はマルクは、バルナ国王にかなりの信頼を置かれているからな。だから特別に王宮の出入りは認められている)
同盟が一歩手前まで進んだ国同士、アリヴェルの騎士マルクとバルナ国王に信頼関係があったのも不思議な事ではない。
マルクはそのまま、王宮内をどんどん進みついには王の間に足を踏み入れる。
——王の間。
そこには白髪髭を蓄えたバルナ王国の国王と、隣には物腰柔らかな表情の騎士が一人、佇んでいた。
「おお、マルク! 無事だったか!」
国王は立ち上がり、マルクの肩を叩いた。
「アリヴェル王国の滅亡はこの耳にも届いておる。そなたが生きていて、本当に嬉しいぞ」
「ありがとうございます、陛下。ご無沙汰しております」
互いに旧交を温めるように言葉を交わした後、マルクはルミナとルキを紹介する。
「この二人は、共に旅している仲間です。ルミナとルキと申します」
ルミナは深々と頭を下げ、ルキの頭もルミナの手によって下へと降りていく。
「おお、そうかそうか。マルクの友ならば、我が国の客人として歓迎しよう」
マルクと国王の意外な関係や、とんとん拍子に話が進むこの状況に、どこかきょとんとしているルミナとルキ。
「マルクって……やっぱりすごい人なんだな」
事情はわからないが、ルキはマルクに尊敬の目を向ける。
——すると姉の方は、よそを見て言った。
『すごい! あの騎士さんすごいですよ! 80点!』
(おわっ! 急にどうした?)
『あの王様の隣にいる細目の騎士さんのエギルです! あんなにニコニコしてるのに……』
ラキは王の間に入ってから、ずっと彼らの観察をしていたようだ。
(マールだな。彼はバルナ王国一の騎士で、バルナ王国では絶対の信頼を置かれている)
俺もよく知るバルナの要人、俺はすぐさま解説役に徹する。
『王様もあんなにおじいちゃんなのに70点ぐらいはありますよ! この国にはお強い人がいっぱいですね!』
(そうだな、バルナ王国の歴史はこの二人が作り上げたと言っても過言ではない。そしてなりより、この二人は強いだけではなく国民からの支持も厚いんだ)
ラキの頭の中には、先ほど見た国民の健気な姿が駆け巡る。
『なるほど! あの活気ある街は、この二人の存在があってこそなんですね』
解説役が近くにいるラキは、新たな情報をどんどん腑に落としていく。
——その日の夕刻、三人は城下の最も格式高い宿へと案内された。
バルナの城下町は、夜になっても灯が絶えず、露店や大道芸人が通りを賑わせていた。
すると……。
「おい、あれマルク様じゃないか!」
「本物だ、本当に生きてたんだ!」
噂を聞きつけたバルナの民。
マルクの周りにはすぐに人だかりができた。
「すごい……まるで英雄みたい」
マルクの人気に感心するルミナだったが。彼が少し遠くに行ったように感じ、少し寂しそうな表情を見せる。
『わわっ! マルクさんて、バルナの街でも有名なんですね……おや?』
次々と明かされるマルクの一面に、空を漂うラキも驚く。
人だかりをうまく対応していたマルクだが、今度は華やかな衣装を纏った娼婦たちの一団がマルクを取り囲んだ。
「まぁ、あなたが噂のマルク様?」
「アリヴェルのマルク様のお顔を見られるなんて光栄だわ」
「ちょっとお茶でもどう?」
鼻を通り抜ける香水の甘い匂い、異常に近い距離感。こういう事には慣れていないのか、思いがけない好意の視線に、今度はマルクは頬を赤らめてうろたえる。
「い、いや……その、宿が……あの……」
最強のマルクも大人の女性相手には、こうなっちゃうんだよな……。
手慣れた仕草でマルクの腕に手を回し、引っ付いている娼婦達。すると……。
俺は何かに気づいた——。
一人の娼婦が何やら怪しい動きをしていた。
「……うふふ」
一人だけ異様に手つきがいやらしいな……。
馴れ馴れしくマルクの体に触れる娼婦だったが、その娼婦の手はだんだんと下の方に降りていく。
全く……。ラキっ!
『——わぁ!』
俺はその娼婦からラキを引きずり出した。
(どさくさに紛れて“確認”しようとするんじゃない!)
『えへへ、ばれましたか』
(えへへじゃない。ルミナを見ろ……)
「……へぇ」
ルミナは無表情だったが、明らかな殺気を漏らしていた。
「ひっ……!」
その明らかな空気の変化に怖がるルキ、以前の爆炎パニックのトラウマが蘇ったのだろう。
(全く……弟が怖がってるじゃないか)
『わぁ……、確認なんてしてたら、バルナが火の海でしたね……』
一方のマルクは全く気付いておらず、なんとかその場を切り抜け、ようやく宿にたどり着く。
——宿屋にて。
「——はぁ、参ったな……」
マルクは額をぬぐいながらも、どこか満更でもない表情を浮かべていた。
呆れた様子でマルクを見ていた俺とラキとルキは、恐ろしげにルミナの方を振り返ると……。
「……ふん。デレデレしちゃって」
ぷいと顔を背けると、自分の部屋へと足早に戻っていった。
『ふぅ……なんとか事なきを得ましたね。てっきり大爆発が起きるのかと……』
「ヒヤヒヤしたぁ……」
ラキの安心と同時にルキもベッドに倒れ込む。
だがマルクは……。
「何を怒っていたんだ? ルミナは」
このバカ主人公め、てめえのせいで街ひとつが焼け野原になるとこだったんだぞ。
ここは物語通りだったとはいえ、あの殺気を目の当たりにすると流石に怖いな……。
——そんなことよりも俺は、ルミナの事が心配になり、ラキを置いてルミナの部屋までついていく。
「……はぁ」
ため息をつくルミナに、俺は勇気を出して声をかけた。
(……ルミナ、……俺だ)
「……!?」
ルミナは席を立ち上がるが……。
再び座り、またため息をつく。
「……いたのね。何の用?」
前回、アリステラの事でルミナを怒らせてしまったからな、でもちゃんと伝えないと。
「……」
やっぱりまだ怒ってるよな、ルミナ。
だがこれだけは言わないと……。
(……この間は、悪かったな。俺……知らなくて)
俺は彼女に謝った、——だが。
「この間?……ああ、気にしてないわ」
(えっ?)
「あの時は、私も感情的になっていたから……。お母様の事、平気って言ったら嘘になるけど、今は悔やんでもしょうがないわ」
そうか、ルミナはもう前を向いているんだな……。
俺が思っているより、彼女は大人だった。
だが——。
「それより聞いてよ!? マルクったらあんなに鼻の下伸ばしちゃって!」
間髪入れずにマルクへの愚痴が始まった。
ああ……やはり子供っぽい一面もある様だ……。
「あの女の人たちだって! 娼婦さんをバカにする訳じゃないけど……初対面のマルクにあんなにベタベタする事ないじゃない!」
……すまん。半分はあの“バカ姉”のせいだ。
——くしゅん。
マルク達の部屋から何か聞こえた気がしたが、俺は気にせずルミナの話を聞いていた。
「……ごめんね、私ばかり話して……でも、やっぱり男の人ってあんな綺麗な人達の方が好きなのかな……」
まあ、否定はできないが……。
「……やっぱり私なんか、何の魅力もない女なのかな?」
(……それは)
大した恋愛経験もない俺は、うまい慰めの言葉が浮かばなかった。
だがひとつ、わかっていることはある。
(マルクの事、……好きなんだろう?)
「……」
はっきりとしたその言葉に、ルミナはしばし沈黙する。
(知っての通りマルクは、バカみたいに鈍感な男だからな。ルミナはもっと素直になった方がいい)
——ハクション!
男のくしゃみが、隣の部屋から聞こえる。
「……今の」
(……気にするな。それに、アリステラの事を何も知らなかった俺が言っても信じられないかもしれないが。マルクはルミナの事を本当に大切に思っているよ)
「本当?」
ルミナは顔を上げ、声の聞こえる方へ縋る様に問う。
(ああ、間違いない)
まあ、間違いであって欲しくないってのが、本当かな。
「……ふふ、ありがとう」
良かった……ルミナがまた笑ってくれた。
彼女を傷つけ、俺の心に渦巻いていた罪悪感が少しとれた気がする。
俺は彼女に、幸せになって欲しかった。
これは二人がいずれ愛し合う、本来の物語通りになってほしいという意味だけではない。
女神の一族との宿命を背負い、アリヴェル王国と、愛する母を失ったルミナを、その悲劇から救いたかった。
この時俺は、本気でそう思ったんだ。
悲劇のヒロイン、ルミナ。
大きくズレたこの世界で、彼女は幸せになれるのでしょうか……。
お次は金曜日に!