第9話 会いたい人
この街でのお話はラキ姉弟の回。
原作“小さな勇者”引用の作者的神回を四話構成でお送りします。
第一章も佳境に入って参りましたのでもう少しお付き合いくださいm(_ _)m
会いたい人です。
どうぞ。
アバンとの再会の約束を交わし、別れを告げたマルク一行。
山道ばかりが続いていたが、ようやく人気のある街道を見つけその先の大きな街へとたどり着いた。
『——おお……にぎやかな街ですね!』
ラキは街を行き交う人々や、そこに並ぶ露店に目を輝かせていた。
その下では、同じ様にはしゃぐ弟ルキの姿。
俺はラキが、街の子供とぶつかり憑依する恐れがあったので、家々の屋根上を通りマルクについていく事にした。
(そういえば、ラキ達が住んでいた旧ギルバディアってどんな街だったんだ?)
この世界を全て知ってる様で、実は知らない事が多い神様が聞く。
『……人通りもお店も多くて、まさにこんな街でした。……だから私もルキも、どこか懐かしくて……』
ラキに少し辛い事を思い出させてしまったようだな。
悪いことしたかな……。
(そうか……まあどうせマルク達もしばらくここに滞在するから、ラキはゆっくり観光でもしててくれ)
『本当ですか!? では、早速……!』
(ちょっと待った!)
ラキの背中は静止し、ゆっくりと俺の方を振り向く。
(——“憑依”は駄目だぞ? その能力は俺がいないと解除ができないみたいだからな)
『むむむ……わかりましたよ〜だ』
ラキは少し不貞腐れながらも街の中心へと飛んでいった。
(あまり、遠くに行くなよー)
盗賊の谷での共闘を終え疲れていたマルク達は、一直線に宿屋へと足を運んでいた。
——宿に着いたマルク一行だがそこにすでにルキの姿はなかった。
ラキと同様、街に興味をもっていち早く飛び出したようだ。やはり姉弟、血は争えない。
ルミナは部屋に着くなり魔導の書物を開き、日々の勉強を怠らない。
マルクは旅荷を降ろし休む間もなく、街に情報集めに出ていた。
今のこの大陸の情勢や、他の国々の動き、打倒帝国の為に役立つ情報が多くの人が行き交うこの街にあると踏んだ為である。
——大陸の情勢を知りたいのはマルクだけではない。
俺はマルクについていき、酒場や教会など情報が出入りするであろう場所を彷徨い回っていた。
そこでマルクは、かつてアリヴェル時代の知り合いで旧知の仲であった、商人“テスカ”の情報を手に入れた。
テスカはこの街で大きな屋敷を構えている大富豪であったが、今は留守中であった。
テスカに会えなかったマルクは、一人で帰路についていた。そこで……。
(……マルク、聞こえるか? 久しぶりだな)
「……!?」
マルクは一瞬剣に手をかけるが、すぐに警戒を解いてくれた。
「ずっと見てたのかい?……今度はなんの用かな?」
俺はルミナやルキがいないことをいい事についマルクに話しかけていた。
(いや……少し話がしたくてな、テスカの事だけど……)
「テスカ……!? 君は本当になんでも知ってるみたいだな」
(まあ、仮にも“神様”だからな。テスカの持ってる情報、知りたいか?)
「……」
マルクは少し考えた後、再び歩き出し口を開く。
「いや、結構だ。……僕がほしいのはテスカの情報だけじゃないからね」
まあ、そうくるよな。マルクは人に頼らず自分でなんとかしようとしすぎる性格だからな。
俺はしばらくマルクとの会話を楽しむ事に。
(意外に頑固なとこもあるんだな……でも、情報だけじゃないってのは一体……)
「一つ聞きたい。君は監視する立場になってしまったと言ったが、以前は何者だったんだい?」
そんな事、覚えてくれていたんだな……。
天の声などという訳のわからない存在の俺に対して、普通の人間のように接してくれるマルクにはちゃんと答えないとな。
(俺は以前、マルク達と同じ……人間だったよ)
「……そうか、では会いたい人とかはいるだろう?」
(会いたい人……)
俺にもそんな人がいたっけな……。
「僕にはいる。……アリヴェルが滅び、死んでいった者、行方不明になった者が大勢……テスカもその一人だ」
(……そうか)
そうだった。マルクはアリヴェルが滅び、独りになった。
そんな彼が昔の友人が生きていたなんて聞いたら会いたいに決まってる。
寂しさをあまり顔には出さないが、マルクも俺と同じ人間なのだ。
「それから……姫、アリシアもきっとどこかで生きているはずだ……」
その子は、魔法使いとしてすぐ近くにいるんだが……。
ぐぐぐ……、ここでは言うべきではないが言ってしまいたい自分もいる。
「テスカの事はありがとう、感謝はしている。でも僕なんかよりルキやルミナの事を頼んだよ」
(マルクには心配はいらなかったな……相変わらず鼻毛は出ているが……)
「……!?」
ひどく赤面し、鼻を隠すマルクであった。
——一方そのラキは街の賑わいが集まる繁華街の上空を漂っていた。
『面白い物がたくさんありますね!……あっ! あんなにお菓子が!』
相変わらず露店の出し物や食べ物に目を輝かせていたが……。
『う〜ん……あんなに美味しそうなのにこの姿じゃどうする事もできません。……おや?』
歯痒そうにしていたラキは何かを見つける。
「わーわー」
「キャッキャっ!」
露店の並ぶ通りにお菓子を持って嬉しそうに走り回る子供達を見つける。
『なんて羨ましい……でも、あのぐらいエギルの子供なら、憑依できますね……』
ラキは、お菓子食べたさに腹を空かせた猛獣が美味そうな獲物を見つけたかの様に子供を見つめる。
だが……。
『ハッ……! いけないいけない! カガミさんとの約束が……でも少しだけなら……』
カガミとの約束を思い出し思いとどまるラキだが、手を伸ばせば届くところには美味しいお菓子があると言うのは彼女にとっては酷な状況だった……。
その時——!
『危ない!』
お菓子を持っていた子供がつまずき、持っていたお菓子を落としてしまった……。
「わああぁぁー!」
子供はその場で泣きわめく。
転んで痛い思いをした事よりも、落ちて食べれなくなったお菓子の方がショックだったようだ。
『そんな……どうしよう、どうしよう……』
何にもできずに困っていたラキだったが、
そこへ——。
「ほら、……これやるよ」
『……!?』
声の主はルキだった……。
「俺はもういらないから食べな。だからもう泣くな……ほら」
ルキは子供に食べかけのお菓子を渡し、その場を立ち去って言った。
『……ルキ』
ラキはそれを見てギルバディアにいた頃の幼少期を自分を思い出していた——。
……——旧ギルバディアの繁華街にて……。
「わーわー」
お菓子を持って走り回る子供……。
「ルキ! そんなに走ったら転んじゃうわよ!」
それを後ろで注意する姉の姿。
「へーきへーき!——わっ!」
ベチャッ!
つまずき、お菓子を落とす弟。
「俺のお菓子がぁぁ!」
「ほら! 言わんこっちゃない!」
泣き出す弟に駆け寄る姉。
幸い大した怪我はないが……。
「……ううう」
中々泣き止まない弟を見かねて姉は……。
「ほら、これあげるから」
弟は驚き姉を見る。
「でも、姉ちゃんの分……」
「私はお腹いっぱいだから、大丈夫!」
弟は食べかけのお菓子を受け取り、ようやく泣き止んだ。
「ありがとう! 姉ちゃん!」
「うん! さあ、帰りましょ!」
優しい姉は、弟の手を取り、そのまま家に帰っていく——……。
——ルキにお菓子をもらって泣き止む子供、それを見て昔の自分たちを重ね合わせていた。
『あの時は、まだ食べたかったお菓子をルキにあげてしまってお腹を空かせて家に帰ったんだったな……』
子供がもらったお菓子をよく見ると、ほとんど手がつけられていなかった。
『ルキったら……あんなに優しい子に……』
そう、ルキは自分が食べたかったお菓子のほとんどを子供にあげてしまっていた。
それを見ていたラキは、誇らしい気持ちでいっぱいになると同時に、寂しい気持ちが込み上げてきた。
『……また……会いたいな』
会いたい……ラキはそう呟いた。
こうして、弟の成長を見守ることはできても、もう触れる事も、話す事もできない。
もう……彼の視線が自分に向くことはない。
それは本当の意味での“会う”には到底及ばない。
命を落として魂だけになった彼女も、表では楽観的に振る舞っていたが、こうして弟を姿を目で追うたびに胸の奥が締め付けられる思いだった。
会いたい人……
作者的にはこの話は天の声の存在理由をすごく考えさせられる回です。
皆様には会いたい人がいますか?
作者にはいますね〜
天の上に