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第六十話 キセノパレスの復旧

 キセノパレスへ戻った俺たちは、忙しく立ち働いていた。


「魔道具を一切、使わないことを決めたのは良いのですが、これまでに故郷からキセノパレスへ移り住んだ者も多く、それらの者を元いた町や村に帰さねばなりません。この町の城壁も元に戻したいですし」


 セデューカ王は俺たちを迎えるとそう言って助力を願ってきた。


 俺はせっかく新しく作った城壁だし、大は小を兼ねるのだから、わざわざ元に戻す必要なんてないんじゃないかと思ったが、王は(かたく)なだった。


「モントリフィト様によって作られたこの町は、もともとこれほど大きくはなかったのです。ですから是非とも元のとおりにしなければ。今は神の赦しを願うばかりです」


 王はとにかく国の制度とともに、キセノパレスの町を元どおりにしたいようだった。


 俺の魔法の力が相当、恐ろしかったと見えて、俺と目を合わせようとはしない。

 彼女にとって、俺はもう魔人そのものなのかもしれなかった。



「セデューカ王の願いに応えてさしあげたいのです。できればアリスさん。お手伝いいただけますか?」


 クリィマさんが俺に依頼してきたのは、魔法で新しく作る城壁や建物の資材を運んだり、逆に不要になった城壁や建物を撤去することだった。


「もちろんです。せめて王宮を直してから山へ向かうべきでしたね」


 そのくらいしておけば、俺はあそこまでセデューカ王に怖れられることもなかったんじゃないかと思うが、さすがに俺が破壊した王宮の修復はすでに終わっていた。


 だからここは町の復旧を手伝って、俺が破壊だけをこととするわけではないってことを知ってもらいたい気持ちもあった。



「やっぱりアリス殿の魔法の力は信じ難いものだの。こんなに早く町の様子が一変するなんて驚きなの」


 ミーモさんにそう言われるくらい俺はがんばった。


 クリィマさんも「自分がしでかしたことですから」といつにない真剣さで町の復旧に取り組んでいたが、その彼女からも、


「アリスさんには(かな)いませんね。でも助かります」


 そう言ってもらえる程度には魔法を使って協力した。

 小さな子どもである俺には、魔法で手伝う以外のことなんてできなかったし、俺だってこの町でやらかしてしまったから、その罪滅ぼしって面もある。


「私たちもお手伝いしますよ」


 プレセイラさんも癒しの魔法を使って、町の修繕や引越しをする人たちの疲れを取ってあげたり、稀に出るけが人を治したりしてくれていた。


「こういう時は騎士など役立たずだな」


「それを言うなら私もですね」


 カロラインさんの言葉にリールさんが続けると、


「勇者様は別です。魔人を倒すという崇高な責務を背負っておられるのですから」


 カロラインさんは慌てて返していたが、リールさんはわずかに笑みを見せて、


「いいえ。同じです。せめて邪魔にならないように気をつけましょう」


 そう言いつつも王宮との連絡や、鍛冶や建築家との調整など、面倒な役目を買って出てくれていた。



 そうして俺たちがキセノパレスの復旧に協力したことは、もちろん町の人たちの知るところとなった。


「突然、元の町に帰れだなんて言われて大丈夫なんでしょうか?」


 俺には、そんな無茶な命令に住民たちがおとなしく従うなんて、はなはだ疑問だったのだが、大きな混乱は起きていないようだった。


「モントリフィト様の御心と、神が統治をお命じになったセデューカ王の命令に従うのです。どうしてそれに逆らう人などいるでしょう」


 プレセイラさんはそれでいいのかもしれないが、俺には理解し難い気がしていた。


「それにはアリスさん。あなたも力を貸しているみたいね。人間て不思議だわ」


 一方で、そう言ったロフィさんの発言にも俺が納得していないことに気がついたのか、彼女はその意味を説明してくれた。


「あなたみたいな可愛らしい子が健気に町の復旧を手伝う様子を見て、住民の方々も協力しないとって気持ちになっているみたいね。エフォスカザン様がご覧になったら仰天すると思うわ」


 確かに俺が煉瓦(れんが)漆喰(しっくい)を運んだり、家財を荷車に載せるのを手伝ったりする様子を見て、声を掛けてくれる人は多い。


 エルフから見たら俺なんて「大いなる災い」そのものなのだろうから、人間のすることは理解できないってことらしい。


「いや。俺なんて何の役にも……」


 本当はもっと派手にやろうと思えばできるのだが、プレセイラさんから止められていたのだ。


「物を運んだり、穴を掘ったりするのは構いませんよ。でも、あまり一度にしないでくださいね。町の皆さんがびっくりしてしまいますから」


 彼女はそう言って、張り切っていた俺を落ち着かせてくれた。

 別に攻撃系の魔法を使うわけでもなしとは思ったが、これまでの皆の驚きようを考えると、おとなしくしていた方が無難そうだった。


「そのようなことはないぞ。アリスさんは大人気ではないか」


 そう言われた時、カロラインさんは大袈裟だなって思ったが、実はそうでもなく、俺は町の人たちに大人気だった。


「アリスちゃんて言うの。偉いわね。ありがとう」


「大丈夫? 何かほしい物はない?」


 俺が浮遊の魔法で煉瓦を運んでいると、色々な人から声が掛かる。


「ありがとうございます。大丈夫です」


 そう答えると、皆が相好を崩して、中には「きゃー。かわいい!」なんて声を上げる人もいる。


 もともとこの世界の人は子どもが大好きなのに、滅多に見られない。

 だからこうなってしまうのかなって思ったのだが、そればかりでもないらしかった。



「アリス殿の人気は急上昇しておるの。これ以上は危険かもしれぬの」


「そうお思いなら『青い服の天使』を守ってあげてくれますか? アリスさんの貢献は大きいのですから」


 プレセイラさんにお願いされて、ミーモさんが俺に付き添ってくれることになった。


「青い服の天使って。まさか俺のことですか?」


 確かに俺は王都でマーコさんに作ってもらったあの青色のワンピースを着ていた。

 でも、まさか天使と呼ばれるだなんて思ってもみなかったのだ。


「そうよ。町の人たちはアリスさんのことをそう呼んでいるわ」


 プレセイラさんは何だか誇らしそうだった。


「そんな……天使だなんて」


 一方の俺は困惑を隠せない。

 俺は魔人になろうとしていて、天使とは対極にある人間なのだ。


 この世界の人は、どうにも見た目に惑わされているんじゃないかって俺は思っていた。



 そうしてあっという間にひと月が経つと、最初はどうなることかと思った町の復旧も、かなり形になってきた。


「こうして見ると、この町はやはりタゴラスよりはかなり小ぶりよの。これが本来の町の姿ということなのじゃな」


 クリィマさんが町の外に新たに作った城壁が取り去られ、地方の町や村から流入していた人々が住んでいた家々が取り壊されると、町は以前の三分のニか半分くらいの大きさになっていた。


 そろそろこの作業も終わりかなって思っていたところに突然、セデューカ王から呼び出され、俺たちは王宮へ向かうことになった。


「タゴラスの王宮では勇者様とその一行が行方不明となり、とても気を揉んでおりました。ご無事でなによりでしたが一度、王にお元気な姿をお見せください」


 王宮にはフェルティリス大陸を統治するセレーヌ王国からの使者が来ていて、リールさんに対してそう告げた。

 どうでもいいが、俺が女神に飛ばされた神殿のあるあの王国の名称が『セレーヌ王国』であるということを俺はここに来て初めて知った。



「この大陸の教会と連絡を取り合わなかったのはまずかったですね」


 宿に戻り、出発の準備を整えながら、プレセイラさんが反省の言葉を口にしていた。

 でも、教会とは帝国の建国について意見を異にしていたから、仕方がなかっただろう。


 その後も公用手形の発行を受けたことで、教会に泊まる必要がなかったし。


「教会と連絡を取っていたとしても、タゴラスの王宮まで情報が伝わったかは疑問ですね。海峡は封鎖されていましたし、今ごろ使者が到着したのもそのせいでしょう」


 リールさんの言うとおり、俺たちはマルディ山まで往復して、その後はここ、キセノパレスで町の修復の手伝いをしていたのだ。


 その前にはルビール王国の王都トレヴォロまで徒歩で向かっているし、馬車を使ったとはいえ、テネリフ山脈を迂回してはるばるキセノパレスまでやって来ている。


「私たちがステリリット大陸に渡ったことはメデニーガ号のモリー艦長からコパルニの町のメデラー総司令官に伝わったはずですから、すぐに王宮にも知らせが行ったことでしょう。その後のことは、今は言っても仕方のないことです」


 また何か言おうとしたプレセイラさんを制して、リールさんが続けた。


 まあ強硬に魔人の影響の可能性を指摘して、対岸へ渡ることを主張したのはプレセイラさんだ。


 でも、その元凶はクリィマさんだったわけだし、もうその辺の責任追及はやめましょうってことだろう。


 そして俺たちをフェルティリス大陸まで連れて行ってくれるのは、そのメデニーガ号だった。



「お久しぶりです。ご無事でのご帰還。歓迎いたします」


 艦長のモリーさんは相変わらずよく日に焼けた顔ににこやかな笑みを浮かべて俺たちをメデニーガ号に迎えてくれた。


「勇者様方に万が一のことでもあったら、責任の取りようもないと悩ましく思っておりましたから、個人的にも安堵いたしました」


 それは彼女の正直な感想なのだろう。

 一方のリールさんは、


「いえ。こちらが無理を言って船に乗せていただいたのです。それにこの大陸に渡ったのも私たちの意思ですから、あなたが気に病む必要などなかったのです」


 そんな風に言って、それは建前上はそうなのだろうが、とてもモリー艦長はそんな気になれなかっただろうって俺でさえ思った。

 さすがにリールさんも申し訳なく思ったのか、


「ご心配をお掛けしてお詫びします。そしてコパルニまでまた、よろしくお願いします」


 そう言って俺たちは船に乗り込み、キセノパレスを後にした。


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本作と同様に『賢者様はすべてご存じです!』
お読みいただけたら嬉しいです。
よろしくお願します。
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