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第2話

 出発した朝6時過ぎ、僕の住む山里に雨は降っていなかった。LINEの向こうのきみは「こっちはすごい雨だから、運転気をつけて」と言った。2時間と少しのきみの街までの道のりは降ったり止んだりで、時間の節約も兼ねて朝マックをドライブスルーしてかじりながら着いた頃にはすっかり雨はあがっていた。

「先にランドリーに行きたい」ときみから。なんだかぼーっといつも渡る橋を見過ごして少し道に迷った。時間はお昼まで、ああ、もったいない。それにランドリー。そんな気持ちを打ち消して、過去数年暮らしていたのにすっかり忘れてしまった街を迷いながら、9時少し前に着いた。僕は全部忘れてきみと会うんだ。知らないきみと、会うんだ。そう思うと、僕は何も知らなかった。着いた連絡をして少し助手席を片付けてるときみが来た。深緑の服の襟と袖に赤と紺色みたいな縁取り。僕からすればイカれたセンスの、変な服を着てきた。変な服は、可愛いんだ。車を出してランドリーに向かうと「見るな」と言われた。たいして見てないよ。恥ずかしいそうだ。「わたしは昔から人の目を見て話したり、苦手」。初めて聞いた。そういえば、そうかも知れなかった。僕はすごく人の顔を見て、目を見て話すタイプだ。きみはやたら手振りを交えて話すのは知っていた。僕はずっと若い頃に、根暗な僕よりきみはずっと社交的だと決めてしまっていた。

 ランドリーに着くときみは手を繋ぎたがらなかった。誰かに見られるかもしれないし、歳だから、と。僕を恥ずかしいのかと思ってたけど、照れていた。自分が恥ずかしいんだ。ランドリーの待ち時間を、きみの好きなパン屋でパンを買って少し車を走らせながらお喋りして潰した。あんなに嫌だったきみの愚痴を聞いた。嫌な表情を繕えないきみが可愛いかった。洗濯物を一緒に畳んだ。僕はタオルしか畳まなかった。ぞうきんみたいなグレーになったタオルを畳みながら、僕の余ってる新品のタオルをあげる事にした。僕らはまるで夫婦みたいだった。

 それからいつもの(と言っても2度目だけど)ホテル、朝だから安い部屋が空いててふたり気分良く、僕の点描画は血液でまとまってきみとひとつになるとそこから徐々に身体の末端まで、最後に脳みそがかたまった。それと引き換えに僕はきみの中に血液を放つと、そこから手足の先までひと通りきみと同じ様に脈打ったのち、点描画に戻って瓦解した。きみはいつもの様にうつ伏せのまま眠りに落ちて、僕は脳みそだけが浮かんだみたいにきみの寝顔を見た。きみが仰向けで眠るときいつも口を大きく開けてる事について。きみは眠たそうに返事する。珍しく熱かったきみの身体はすっかりいつもの冷たさに戻っていたから、布団を掛けた。その寝顔が可愛くて、見せたいと思ってスマホで写真を撮った。僕は少し隣に寝たり、頭を撫でたりしたけどやっぱり眠れなくて煙草を吸って窓の下の新幹線のホームを眺めた。


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