暇を持て余す
三題噺もどき―さんびゃくろくじゅうろく。
窓の外から、車の走る音が聞こえる。
田舎だから、そんなに数は走らない。だから余計によく聞こえる。
今いる部屋の中にも、そんなに人が居ないから、更になのかもしれない。
まぁ単純に、私が窓際に立っているからというのが一番だろうけど。
「……」
田舎にある、唯一の葬儀場。
その二階にいる。
父と母は、何やら走り回っている。
他の親戚も来ているようだが、ほとんど見覚えがない。
「……」
式が始まるのは昼からなのだけど……準備やらなにやらをするといって、午前中から連れてこられた。
だからと言って、できることなんてものはないので、暇を持て余している。
特に何をするでもなく、窓の外を眺めている。
「……」
ときおり走り去る車。
のんびりと日向ぼっこをしている猫。
散歩中だろうか、歩いている老人。
休日なのか、自転車で走っている若者。
「……」
人が1人、この世からいなくなったと言うのに。
何も変わらないんだなぁ……なんて思ってしまう。
その程度、大した問題ではないとでも言われているような気がしてしまう。
実際そうだと分かっているけど。
「……」
昨日。
父方の祖父が亡くなった。
「……」
祖母は私が小学生くらいの頃になくなっているので、祖父はそれから昨日まで1人で暮らしていた。
それでも、元気にやっていたらしい。
さすが田舎というか、近所づきあいには酷く助けられたと言う。
あまり詳しいことは知らない。父も話したがらないし、私も祖父に会う事なんてそんなになかったから。
「……」
あの祖父との忘れられない記憶なんてものは、ない。
父に似て―いや、父が祖父に似たのか―煙草と飲酒を好む人だった。
そのせいで、いくら体を壊しても構わないと言う程の気概の人だった。
それが良いか悪いかは言うまい。
正直、興味もなければ、自ら会いに行こうと言う程の事なんて一度もなかった。
「……」
だからまぁ、思い浮かぶものといえば……たまに会いに行ったときの楽し気な声……ぐらいだろうか。表情はあんまり。
本来お話が好きというタイプではないのだろうけど、会いに行くといつも同じような話をしていた。
まぁ、今じゃ大きなお世話だと思うが…。うん。ここには示さないでおこう。
「……」
そんな祖父が亡くなって。
昨日、田舎のこの町にやってきた。
昨夜は、父と母は二人で、寝ずの番を葬儀場でしていたらしい。
私は、母方の祖母の家に泊った。
「……」
父も母も同じ町に住んでいたので、こういう時ありがたい。
いっしょに残るかとも言われたが、断った。
私は、どうも、こういう所は苦手でならないのだ。
好きな人はそうそう居ないだろうけど……なんというか。
「……」
そこに、亡くなった祖父がいると言うことがあんまり。
耐えられないと言うか……。
最悪気分が悪くなることすらある。
葬式中だって、線香の匂いで体調を崩しかけるのに。
寝ずの番なんてできやしない。
「……」
というか……まぁ。
今言うことではないが。
孫の立場だからと言って、葬式に出ないといけないと言うのは……何ともなぁ。
私にも仕事をしている立場というものがあったりして。
たいした立場じゃないが、休みを取る連絡をするのが嫌いなのだ。
「……」
電話をすること自体が苦手なのに、それが「休み」の連絡となると。
まぁ……難色を示す人が居るわけだ。
身内の葬式だから、何とも言わないだろうけど。
それでも、そういう態度を隠すのが下手な人が居る。
「……」
あれを見ないといけないと思うと……もうなんだか。
葬式以上に、億劫な気分になってしまう。
こんな時ですら、仕事のことしか浮かばないのも、嫌な気分だ。
「……」
だからといって、故人との思い出に耽るなんて気分にもならないあたり。
何とも言えない気分になる。
今は、ひたすらに退屈過ぎてならない。
「……」
ちらりと、準備を進める父を見やると。
なんともまぁ。無表情もいいところな感じだ。
あれは平静を装うためとかそんなんじゃなくて、単に疲れてあの表情に落ち着いているんだろう。
ただでさえ、祖父に似て他人と話す事を不得意にしている質だから、寝ずの番の明けに作業に追われてるのが、さすがに疲れているんだろう。
父もそれなりの歳だし。
「……」
かと言って、手伝いができるような立場でもないので。
ここは大人しくしておくのがいいのだろう。
あーしっかし。
ホントに暇だなぁ。
お題:忘れられない・無表情・浮かぶ