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ヴァルハラウォーズ  作者: らいもん
トール
8/16

7.闘技大会開幕

 朝日が登る。それぞれの思いを胸に、闘技大会が幕を開ける。


1.闘技大会


 トール一行は朝早くから作戦会議をしていた。


「…と、今日の作戦は以上だ。何か聞いておきたい事はあるかの?」


 リムは鼻息を荒くしている。その目から昨日までの不安と恐怖は無くなっていた。その様子を横目で見たアーヴァインは、ため息をつく。


「王よ。本当に大丈夫ですか?」


 トールはニコリと笑い、これでいいと頷いた。そこへリリムが眠そうな顔をしてあくびをしながら扉から入ってきた。


「ふぁ〜。おはよ〜。早いのねぇ。ん?ふ〜ん。もう大丈夫そうね。」


 トールの面々を一通り見回してリリムはニヤニヤしている。


「ここからは私達は手出しできないから。あとはあんた達で頑張んなさい。」


 リリムは手をヒラヒラさせてそのまま去っていった。


「1つ、伝えておく事がある。」


 トールは深刻な顔をして話し始める。


「私は、先の為にある儀式を受けるつもりだ。そしてその儀式を受けた時、私は私では無くなっているだろう。遅くとも、1回戦の後には儀式に入るが故今のうちに話しておきたかった。」


 アーヴァインもリムも開いた口が塞がらないようだ。


「お前たち、私は…神トールの依代となる事を選ぶ。リリム殿も言っていたが、この後の戦いには必要な事だと私も思う。お前たちは、私の判断を信じその後もついて来てもらえるか?強制はしない。己の意思を信じ、一回戦の後に答えを…」

「もちろん。」


 リムは即答で答える。アーヴァインは苦悩の表情を見せるが、しばらく考えた後にトールに片膝をつき、顔を伏せて答える。


「王の…仰せのままに。」


 トールは騎士たちの手前で大粒の涙をこぼした。


2.一回戦 vs.アザミ


『皆さまお待たせしましたー!ここ第Ⅵ闘技場『処女宮』では、一回戦第一試合を行います。第一試合の実況は私、バルゴがお受けしました。どーぞよろしくー。早速参りましょう!第一試合の対戦カードはこちらになりまーす。』


 実況席の真上にあるパネルがパタパタと動き、やがてトールの名前と顔が映し出される。


『トール王。』


 もう一つのパネルが同じように動き、別の名前と顔が映し出された。


『アザミ王。という事で第一試合はトール王vs.アザミ王に決定いたしましたー!それでは選手入場!』


 会場に歓声が湧いた。選手控室にいた3人はゆっくりと立ち上がる。


「マーリーンは間に合わなかったか。まあ良い。行こうかの。」


 選手用通路を歩き、進む。会場へつながる出口から光がさした。


『獅子の門から入場するのはチームトールだ。』


 3人が会場に出ると歓声が一瞬大きくなりそして無くなった。


「あれれ、なんか弱そうじゃね?」

「なんかつまんねー戦いになりそうだな。」


 そんな声が聞こえてくる。リムはしゅんとしてしまったが、トールはニコニコとしていた。


『そして天秤の門から入場、チームアザミ。』


 入場して来た一行は手を振りながら出てくる。それを見た観客も、ザワザワとしている程度だった。すると1人の少女が実況からマイクを取り上げ、大声をあげた。


「なんだーこの辛気臭せー雰囲気は。おめーらにエンターテイメントってもんを見せてやっから楽しみにしとけやー。」


 マイクを実況席に投げつけ拳を高々と掲げる。先ほどまで静かだった観客が大歓声を上げた。


「…あれが王か。会場は皆向こうの味方になったようだ。相手も3人ならばちょうどいい。」


 アーヴァインが冷静に分析する。


『それではこれより対戦方法と対戦場所、ルールの説明に入りまーす。対戦方法に関しては事前に王同士の話し合いで決定していますが、場所は公平の為完全ランダムで今から発表でーす。』


 バルゴがそう言うと、また実況席上部のパネルがパタパタと切り替わり、次第に動きがゆっくりとなって止まった。


『対戦方法はー、『個人勝ち抜き戦』。場所はー、『古代闘技場コロッセオ』。こちらに決定でーす。

 そしてルールの説明でーす。勝ち抜き戦ですが、過程はどうあれ大将である王が死ぬか降参した時点で試合終了。それ以外はなんでもありあり。それでは各チーム準備をお願いしまーす。運営チームは舞台の準備をハリーアップ。』


 バルゴが指示すると第Ⅵ闘技場の舞台がせり上がり煙が上がる。徐々に煙が晴れると、そこには古代闘技場ができていた。同時に観客席にはモニターが用意され、さまざまな角度から舞台が見られる。


『さて準備ができましたよー。では先鋒の選手の入場でーす。』


 会場が熱気に包まれた。大歓声の中、闘技場に2人が入場する。


『チームトール先鋒、アーヴァイン、そしてチームアザミ先鋒、カイル。』


 バルゴが先鋒の発表をすると、画面に詳細が映し出される。


チームトール アーヴァイン 能力:十文字槍


チームアザミ カイル 能力:軍師


 会場が大きく盛り上がる。


「よろしく頼む。」

「この戦いは智略の戦いとなりそうですね。」


 2人は向かい合い、互いに頭を下げる。


「智略対決…アーちゃんなら大丈夫よね?」


 トールはうーんと唸りをあげた。不安を隠せない様子だ。


『それでは開幕戦、決闘バトルスタート。』


 開戦と同時に2人とも少し距離をとる。カイルは詠唱を始め、自身の周りに土の壁を作り上げた。


兵法『孫子地形の理』


『おっとー、カイル選手は土壁で防御を固めて様子見のようだー。』


「ふんっ、なかなかの才能だ。だが、見ておれ。」


日本ひのもと一のつはものとなれ真田丸


 アーヴァインは持っていた槍をクルリと一周回した。するといつの間にか赤い槍纓そうえいが槍に生える。


『アーヴァイン選手も臨戦体制に入るー。さぁどっちから仕掛けるー?智略の戦いの名に恥じない戦略が見所だー。あーっと、アーヴァイン選手が先に動くー。』


 トールはまだ唸っている。

 なぜなら…


不破フン


 アーヴァインが槍を振り切ると、カイルの作った土壁ごとカイルを切り裂いた。その衝撃波でコロッセオの壁に切れ目が入った。


「智略の戦い…?アーヴァインは剛の者だ。」


 トールが唸っていた理由はここだった。一見その聡明な見た目と普段の態度から想像するに、頭のキレるタイプだと思われがちだがそうではなく、何も考えず力で解決する男だったのだ。


「ぐぁ、なんだこいつ。」


 カイルはたまらずさらに距離を取り、更に詠唱をする。


兵法『防衛の陣』


 カイル自身の体を地中から出てきた岩で固め、一回り大きくなる。


「防御こそ、最強の攻撃なり。」


 言わば岩でできたロボットに乗り込んで突進してくる。アーヴァインは突進する岩の塊に向けて左手の平を真っ直ぐに向け、やや重心を落とし待ち構えた。


「そんなもの俺の智略を持ってすればたわいもない。」


 アーヴァインは捻るように槍を突き出した。


ハツ


 カイルの纏った岩の鎧は、アーヴァインの突きで大穴があく。


「の…脳筋ではないか…」


 アーヴァインの突きは岩の鎧ごとカイル本体の右腕を貫き、中からカイルが白目を剥いて弾け飛んでいった。


「ふんっ。たわいもない。王の命令が無ければSEEDごと吹き飛ばしてやったものを。」


 アーヴァインはクルリと踵を返した。白目を剥いたままのカイルはその場でピクピクとしている。


「技名がフンとハってバカすぎない?」


 VIP席のモニターに映し出された映像を見ていたリリム達はそう言って思わず吹き出し、大笑いをする。


『カイル選手戦闘不能!WINNERアーヴァイン!智略同士の戦いと見られた今回、智略と力の勝負でしたね、失礼しましたー。』


 バルゴは焦りながらも勝利宣言をした。その単純だが派手な技に、観客席は大いに盛り上がる。大きな拍手歓声の中、アーヴァインだけは何を謝っているのか分からず首を傾げた。


『それではチームアザミ、中堅メッソン選手入場。』


チームアザミ メッソン 能力:河豚


 バルゴの紹介と共に、モニターに情報が出る。それを見たリムはニコニコし始めた。


「トーちゃん、見て。かわぶただって。かわいいねぇ。」


 トールはモニターをじっと見つめ、何やら考え事をしている。メッソンは両目がギョロっとしており、背が小さく小太りな男だった。その姿を見たリムはスッと目を逸らし、静かになる。


「おれ…王の為に体張るぞ!」


 メッソンはなにやら張り切ってウォーミングアップがてらその場で走る素振りを見せてすぐに息を切らせていた。


『そ、それでは二戦目、決闘バトルスタート。』


 アーヴァインはスッと槍を構える。


「どのような相手であろうと我が王の前に立ち塞がる者に、俺は容赦せんぞ。」


ヤァ


 槍を振り上げ、そのまま振り下ろす。槍の起こした斬撃が地面を抉り、そのままメッソンの腕を切り落とした。メッソンの腕からは血が噴き出て、アーヴァインの顔に数滴かかる。


『WINNERアーヴァイン!圧倒的強さだー。』


 アーヴァインの技を見て腹を抱えて大笑いしていたリリムだったが、その様子を見てスッと真顔に戻る。


「まずいわね。」


『このまま1人で勝ってしまうのかー?チームアザミ大将アザミ選手入場。』


 大盛り上がりの会場だったが、不満の声も上がっていた。


「あのアザミってやつ、エンターテイメントとか言ってたけど、自分達がやられる事かよ。」


 そこら中からそんな声があがり、アザミに対して笑いが起きる。


チームアザミ アザミ 王 能力:山猫


 トールはまだ何か腑に落ちないといった表情で唸っていた。


 とその時、舞台のアーヴァインを見ていたリムが異変に気付く。


「…アーちゃん、すごい汗だね。」


 その言葉にトールはハッとして、舞台上のアーヴァインを見た。アーヴァインは確かにとてつもない量の汗をかいている。


「あの汗…尋常ではない。」


 トールはここで試合を止めた方がいいのではないかと嫌な予感が頭をよぎる。だが、アーヴァインは頬についた返り血を拭い槍を構えた。


「お前で終わりだ猫娘。」


『それでは第三戦、決闘バトルスタート。』


 バルゴが戦闘開始の合図をするが、アザミは両手を頭の上で組んだまま欠伸をしている。


 その時、なぜかアーヴァインは膝をついた。


「やーっと効いてきたな。象でも一瞬で仕留める猛毒なのに、バケモノかよ?ニャハハ。」


 トールは嫌な汗が止まらない。


「テトロドトキシン…か。」

「テトトド?なぁにそれ?」


 リムは全く何が起こっているのか分からない。


「…なる…神経毒…さっきの…血…か。」


 モニターを見ていたタマキがボソリとなにか呟いた。舞台上のアーヴァインの顔色がどんどんと紫色になっていく。しかし、それでも槍を握る手に力をこめた。


「我が…王の敵は…俺が…倒す!」


不破ふん


 再び激しい突きを繰り出すが、アザミは両手を頭の上で組んだままものともせずひらひらと交わした。


「弱い、弱いよ〜。そんなんじゃこのアタイには当たらないよ〜。」


 そのまま少しづつ近づき、強烈な蹴りを繰り出した。アザミの蹴りがアーヴァインの腹にめり込み吹き飛んで血を吐いた。その様を横目で見て、アザミはふんっと鼻を鳴らす。


「アタイはアタイより弱い男に興味はないの。」


 それでもアーヴァインは槍を杖にしてまだ立ち上がった。ぜぇぜぇと荒い息をしながらも、槍を構える。その姿を見たアザミは不敵な笑みを見せて近づいて来た。


「しつこい男はもっと嫌いだよ。ひと思いにぶっ殺してあ、げ、る。」


野獣変化ビーストモード


 アザミの体がメキメキと音を立てて大きくなっていく。筋肉が膨張して着ていた服は破れてしまった。アーヴァインは奥歯を噛み締め、アザミを睨みつける。


「貴様…なんだその姿は…」

「いいだろ〜。これが山猫の真骨頂、野獣変化ビーストモードだよ。こうなると…」

「若い女が、はしたないぞー!」


 アーヴァインはそう叫びながら両手で目を隠す。その姿を見たアザミはキれて飛びかかってきた。


飛爪脚ひそうきゃく

絶対防御イージス


 アザミの蹴り技はアーヴァインに届くことはなく、トールのバリアによって阻まれていた。


『反則、反則負けです。WINNERアザミ!』


 場内が大ブーイングへと変わる。それと同時にアーヴァインは崩れ落ちるようにその場に倒れた。


『運営チームよりお知らせです。只今のトール王の行動は審議にかけられます。しばらくお待ちください。』


 そうアナウンスが入ると、会場からはどよめきが起きる。リムは舞台の傍に寝かされたアーヴァインの側で治療を行った。紫色になっていたアーヴァインの顔に、みるみるうちに生気が戻り呼吸が安定していく。


「もう大丈夫だよ、アーちゃん。」

「すまない。王よ、申し訳ありません。」

「良いのだアーヴァイン。お前が生きて戻っただけでも私は喜ばしい。」

「アーちゃん、後は私に任せてね。」


 リムとトールはニコリと笑い、アーヴァインは目を伏せた。


『運営チームよりお知らせします。先程のトール王の行動ですが、審議の結果トール選手も失格となります。但しそのまま負けでは無く、リム選手を大将として扱い、次の試合の結果によってチームの勝敗が決められる事となります。

 繰り返します…』


 場内アナウンスが流れ、リリムはフゥと息を漏らした。


「全く、ヒヤヒヤさせてくれるわ。」


『それではチームトール大将リム選手入場。』


チームトール リム 能力:巫女


「行ってくるね!」


 リムは笑顔を見せてトール達の元から舞台に向けて歩いて行った。アーヴァインは一言声をかけようとヨロヨロと立ち上がる…が、


「リム…グハァ!全然…良くなってないじゃないか…」


 アーヴァインは血を吐きその場に白目を剥いてまた倒れ込んだ。


『最終戦、決闘バトルスタート。』


「あーらお嬢ちゃん。そんなイキった目をしちゃって〜、アタイは手加減しないよ〜。」


 アザミはニヤニヤとしながらリムを挑発する。だがリムは相手にせず深く深呼吸をしてヨシと気合いを込めた。


「タマキ、リムは大丈夫なのかしら?」


 リリムはチラッとタマキの方を横目で見て尋ねた。タマキはアーヴァインの方を横目で見る。


「リム…白魔導…才能…ない…。」


 リリムもあーという目でアーヴァインを見た。


「…でも…狂戦士バーサクは…ちょっと…やる。」


『トーちゃん、ジョーちゃん、先生。見ててね、私頑張るよ!』


 リムはスッと目を開き、詠唱を始める。


換装リプレイス 狂戦士バーサク


 みるみるうちに全身が青色の綺麗な毛で覆われ、体が一回り大きくなる。両手には禍々しい爪が生えていた。


「…リムの…狂戦士バーサク…私より…やる…かも。」


 その言葉を聞いたリリムは、目を見開きバッと舞台上を見る。


「へ〜、強そうじゃん。見掛け倒しじゃなきゃいいけどね…っと!」


飛爪脚ひそうきゃく


 アザミは高く飛び上がりリムに向かって蹴りを繰り出すが、リムは難なく片腕でその蹴りを受けた。


「ヒュー、やるね〜、でも甘いよ!」


連撃


 アザミは受け止められた足をリムの腕に絡め、そこを軸としてクルリと周り背後からリムの後頭部に膝蹴りを当てた。リムは膝をつき頭を垂れる。


「かぁ、決まっちゃったかね〜?この技を受けたら立てるやつなんて…」


 そう自慢げに話すアザミの言葉を遮るように、リムは何事もなかったかのように首を鳴らしながら立ち上がった。


「降参して下さい。私は、あなたを殺したくないです。」


 リムのその言葉はアザミに火をつけたようだ。


「てんめぇ、むかつく女だなぁ。」


 アザミは猛スピードでリムに近づくと急に目の前から消えた。実際は消えたわけでは無く左に低くステップを踏んだだけなのだが、その速さによって対峙する本人には消えたように見えたのだ。。


秘技 艦隊蹴アルマーダ


 深く沈んだ体勢から手をつき、視界の外から強烈な蹴りがリムの脳天を狙う。


偉大なる十刃(グランエスパーダ)


 リムは両手の爪を交差させ、十字に振り抜く。その技は蹴りへのカウンターのような形でアザミの頭にヒットした。アザミは体勢を低くとっていた為攻撃の衝撃が逃げず、脳を揺らす。タマキは小さくガッツポーズをとった。


『アザミ選手、ダウーン!』


 アザミはピクリともせず仰向けに倒れていた。リムはフゥと息を吐き、換装を解いてそのまま舞台上からトールに向けて手を振る。


『WINNER…あれ?』


 その時倒れていたアザミがゆらゆらと立ち上がり、リムに向けて走り出した。何かに気づいたリムは振り返るが、目の前にはアザミの脚しか見えない。


三日月蹴り


 その技はリムの脳天を直撃した。換装状態では無いリムはいわば常人と同じ状態であり当然防御力などない。吹き飛ばされたリムの元にアザミはツカツカと詰め寄り髪を掴んで体ごと起き上がらせる。


「やってくれたね、このクソビッチ。タダじゃおかないよ。」


 その光景は凄惨だった。髪を掴まれたリムは宙に浮き、顔面に拳がめり込む。何度も、何度も。舞台の床はリムの血が飛び散り、グッタリするリムをそれでも離さずアザミは殴り続けた。


「殺気を…抑えなさい、タマキ。」


 舞台をじっと見つめるタマキは何かオーラのようなものが出ているように見えるほど怒っていた。殺気にあてられたテンカは脚がガクガク震えている。しかし、それはタマキのみの殺気ではない。


「そろそろ止めなきゃ。…殺してしまう。」


 リリムの目も据わっていた。VIP席近くの観客席にいた人々は言いようのない寒気に襲われ、気絶する者もいた。


 直後、リリムが椅子の肘おきを殴って壊し立ち上がる。するとタマキが何かに気付き、サッと手を出してリリムを静止した。


「なに?」

「…リム…諦めて…ない。」


 タマキが指差す先を見ると、殴られっぱなしのリムの拳はしっかりと握りしめられていた。


『顔が焼けるみたいに熱い…痛いよ…助けて。』

《また泣いてんのかよリム。》

『ジョーちゃん、助けてよ。』

《俺たちで、王の仇をうつんだ!》

『ジョー…ちゃん。』

《全く、俺がいなきゃだめなんだから。》

「ジョー…ちゃ…」


 リムの拳が更に強く握られ、血が滴り落ちる。


「早く死ねよー。あと何発欲しいんだよー?」


 滴る血が地面にぽたりと落ちた…その時


『グガァァァ』


 リムが雄叫びを上げる。雄叫びによる空気の振動が舞台周りのモニターを破壊した。驚いたアザミは掴んだ髪を離し、思わず距離を取るが地面に倒れたリムは動く気配が無い。しかしとてつもない殺気がアザミを絡め取っていた。まるで喉元に刃を突きつけられた、そんな感覚が。


「ちょっと審判、私の勝ちでもう良くない?」


 アザミは冷や汗を流しながら実況席をチラリと見る。しかし、バルゴはじっと一点を見つめており聞いていない。恐る恐るその視線の先を見るが倒れたリムがいるだけだった。アザミがフゥと息をついたその時、リムがゆらゆらと立ち上がった。野獣変化ビーストモードの状態の蹴りを生身で脳天に受け、その後何十発も顔面に食らってなお、立ち上がった。アザミはあまりの恐怖に尻餅をつき、後退りをする。


 すると立ち上がったリムの胸のあたりから黒い塊のような物が出てきて全身を包んだ。黒い何かに身を包まれたリムは目や口からも黒い何かが漏れ出ている。その黒い何かは形を成し、やがて大きな人の形へと変貌していった。その光景を見たリリムは戦慄する。


「あれは…まずい、行くわよ。」


 飛び出そうとするリリムの前に、タマキが両手を開き立ち塞がる。


「リリム、待って欲しい。リムはまだ戦っている。」


 本当は自分が一番に駆けつけたいであろう気持ちを抑え、必死で止めるタマキにリリムはたじろぐ。


「くっ、トールは何をやってるの。」


 舞台の脇を見ると、トールとアーヴァインはリムをじっと見つめていた。何も声をかけず、しかし目を逸らすわけでも無くじっと。


 舞台上では人の形を成した黒い物体が真下にいるアザミを見下ろしていた。その黒い物体がガバッと口を開き、何かをぶつぶつと呟く。すると口の中から球体が出来上がり、どんどんと大きくなっていった。トールは腕組みをしていたが、腕を握る手に力が入った。球体が一定まで大きくなり黒い物体は上空を見上げる。球体から光束が上空に放たれた…その時


「ま、まいった…。アタイの負けで…いい。」


 舞台上で尻餅をついていたアザミが不意に降参を口にした。本来ならば試合自体は終わるはずだった。しかし、黒い塊は非情にもその光束をアザミに向けて振り下ろす。


「リム、もう良い。」


 トールが不意にそう叫んだ。振り下ろされた光束は舞台を真っ二つにし、土煙をあげる。よく見ると、その光束はアザミの僅か数センチ横を切り裂いておりアザミは無事だった。黒い塊はみるみる小さくなり、元のリムの姿へと戻った。リリムは安心すると、どかっと椅子に座り直し不機嫌そうな顔を見せる。


『う、WINNERリム。この結果により第一試合はチームトールの勝利となります。』


 リムとアーヴァインは担架に乗せられ救護室へと運ばれていく。浮かない表情のトールとは裏腹に、観客は盛り上がり拍手喝采を一行に浴びせた。


3.悲しき勝利


第Ⅵ闘技場 救護室


「容体は?」

「油断なりません。アーヴァイン選手はチアノーゼの症状がひどく呼吸もままならない状況。」

「リム選手はSEEDが非常に危険な状態です。マリオネット化が進行中。」


 救護室では救護班が慌ただしく走り回っている。トールは俯き、椅子にかけていた。そこへリリム達がかけつける。


「リリム殿、タマキ殿。私は…」


 何か言いかけたトールをタマキが引っ叩く。パンっという音が室内に響きわたり、トールはその場に倒れた。


「貴様、我が王に何を…グハァ」

「あんたは黙って治療受けてなさい。」


 集中治療室から飛び出てきたアーヴァインの腹にリリムの拳がめり込み、その意識を断った。


「この男…重病のハズなんだがなぜ動けるんだ?」

「さっさとこのバカを縛り付けておきなさい。」

「‶拳神"様、感謝します。」


 ペコリと頭を下げてベッドに縛り付けられたアーヴァインは集中治療室へと運ばれていった。


「…」

「タマキ殿…すまぬ。」


 見下ろすタマキにトールは目を伏せ謝罪する。


「貴様、なぜもっと早くに止めなかった?リムは助からんかもしれんのだぞ。リムにもしものことがあったなら、私は貴様を…」

「タマキ、それ以上は問題になるからやめておきなさい。」


 リリムが静止したが、タマキの目には明らかな殺意がこもっている。可愛い弟子の命が蔑ろにされたのだ。怒りを買っても仕方のない事だったし、トールも自覚はあった。


「トール、タマキの気持ちが分かるかしら?一歩間違えば私が殺してた。リムも、貴方も。」

「心得ている。」


 トールの返事を聞き、リリムは右手を振り上げる。少し静止した後壁を殴りつけ、タマキを連れて救護室を後にした。


 直後、集中治療室の扉が開く。


「トール王様。アーヴァイン、テトロドトキシン除去完了。絶対安静へ移行。リム、一命を取り留めました。マリオネット化したSEEDは現在安定。」


 その言葉を聞き、安堵の表情を見せてその場にへたりこむ。


「私達は賭けに勝ったのだ。勝ち進まなければならない理由があるのだから。それにしても…無事でよかった…アーヴァイン…リム。」


 大粒の涙を流し、トールは立ち上がるとフラフラと救護室から出ていった。

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