4.それぞれの明日
1.それぞれの明日
始まりの街『楽園』
誰もが最初に立ち寄る街。この街での戦闘は神王オーディンにより禁じられており、戦闘に使用する能力や武器はいっさい使う事ができない。その為この街に集まる人々は情報収集をしたり、戦闘での傷を癒す事を目的とする。
数十キロ先の森にいたはずのリム達5人は、いつの間にか楽園の宿舎にいた。
「あのー、お体はいかがですか?」
「タマキ殿のおかげでもう全快ですぞ!」
「ぶふぅ。」
胸をドンっと叩き大笑いするジーナスを見てテンカは急に吹き出す。
「どうされたのかな?テンカ殿?」
「いえ、あの…ブフッ…タマキ先輩!」
ジーナスの顔には大量の落書きがされていたが、本人は全く気付く様子はない。笑いを堪えられない様子のテンカはタマキの背後に隠れてしまった。
「…まだ…動くな…SEEDが…疲弊してる。」
タマキはジーナスに療養を促すと、側に座るリムに目をやった。
「お前も…少し…寝て…おけ。」
はっとタマキに気付いたリムは慌てた様子で早口で話し始める。
「あ、先生。私は大丈夫だよ!全力で出来る事したし、後悔してないよ。」
両手を振るリムにタマキはやれやれといった様子をみせた。
「リム…お前は…よく…頑張った…よ。」
そこにガチャッと扉を開けてマーリーンが入ってくる。マーリーンは2人の様子を見てため息をつき、リムに話しかけた。
「タマキは言葉足らずだからな。リム、ジョーズは最後まで戦ったぞ。お前のおかげだ。あの‶喰神"に一泡吹かせた時点でジョーズの勝ちだ。マリオネットにしてしまったのは私の不手際でありお前が背負う必要はない。」
「…でも。」
「ジョーズは後悔を口にしたか?私にはそうは見えなかったがな。お前はここで止まるのか?」
「…」
「女は強くなくてはな。泣いてばかりでは先には進めんぞ。先王とジョーズ、2人分の意思を背負うお前の手で、次こそは必ずライズを討とう。」
下唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべるリム。だが、顔を上げた時には決意の表情になっていてコクリと頷いた。
「…私が…言いたい…のは…そゆこと。」
タマキはうんうんと頷き部屋を出る。
「所でマーリーン殿、リリム殿はあの2人相手に無事なのか?まさかとは思うが…」
ジーナスが疑問を口にする。決死の覚悟であの場に残ったのではないか、と不安に駆られたのだ。
「お前たちの心配する所ではない。」
「しかし、‶喰神"だけでなくラウンズの先王までいてはさすがのリリム殿でも…」
「我が王もラウンズの1人だ。しかも…とっておきのな。」
そう言うとマーリーンはリリムの事を話す。
‶拳神"リリム
箱庭リリム初代王 能力:拳聖
神7創立当初からのメンバーであり『Ⅶ』の数字を冠する。拳で殴るというシンプルな能力だが、それゆえにかなり強力。
‶拳聖"は円卓騎士の一人。ラウンズの中でも神王オーディンから特別寵愛を受けていた数人の内の1人であり、共に数々の修羅場を乗り越えてきたと言われている。
「我らが王は正真正銘の化け物だよ。」
「だーれが化け物ですってぇ?」
マーリーンはギョッとした顔をして、恐る恐る振り返る。扉をにもたれかかったリリムが不機嫌そうにこちらを見ていた。
「や、その、褒め言葉です。」
「あら、そうかしらね?ついさっき同じイヤミを言われたところだから悲しくなっちゃう。」
「申し訳…ありません。」
「冗談よ、マーリーン。」
手をヒラヒラさせてリリムはいつもの笑顔を見せる。
「所でリリム様、少しお話しがあるのですが。」
マーリーンがそう言うと、リリムはチラッと目をやるとフゥと息をつく。
「分かったわ、ちょっと待ってね。」
扉から出て行こうとするマーリーンにリリムは一言だけ伝えた。
「涙を流すのは、弱さじゃないわよ。」
その言葉を聞き、マーリーンは震える声でなんとか声を絞り出す。
「…御意。」
さてと、リリムはリム達の方を向き、話し出す。
「ライズに話をつけて来たわ。」
ジーナスとリムはバッとリリムに目をやる。
「次の闘技大会で決着を付ける。あと、3ヶ月とちょっとね。みっちり修行して、次こそはライズに勝って見せなさい。」
『闘技大会』
不定期で行われる大会。過去大会で優勝した王は出る事が不可。
全ての武器、能力の使用が可能。倒した相手の王のSEEDが奪える為、上位ランカーになる登竜門と呼ばれている。
ライズは闘技大会に出ることなくかなりの短期間で神7へと成り上がった特殊な経歴の持ち主の為、出場できる。他の神7のメンツは過去大会で優勝経験がある為出場は不可。
「所で、トールは?」
リリムは唇に人差し指を当て、首を傾げる。
「あぁぁ!」
ジーナスが大きな声を上げた。あの戦いに行く直前に王の心配をしたジーナスは少し離れた場所にトールを寝かせて、自らが死ぬまで消えないバリアを張ってから飛び出て行ったのである。
「急がねば!」
ジーナスはバッと起き上がり、ドスドスと走っていった。
2.正義か悪か
風の吹く平原の大きな木の下。ジーナスはここにトールを寝かせていたはずだった。
その場所にあった木は跡形も無く地面には直径10Mほどの焦げた跡が残っている。違和感があるのは、自らが張ったイージスは、そこの真ん中に残っているのだ。イージスが破られた様子は無いのだが、そこに王の姿は無かった。ありえない光景だった。神業としか思えない。
《神ってさ、正義だと思う?》
あの時のリリムの言葉が頭をよぎる。ジーナスは急いで楽園へと戻った。
楽園中庭
「で?話ってなーに?大体察しはつくけれど。」
問いかけるリリムに目を赤くしたマーリーンはポツリと答えた。
「私は、王の命令を無視してしまいました。どうか、私を『制裁』してはくれませんか?」
そう言うマーリーンを一瞥し、リリムはやれやれといった感じで腰に手をやった。
「隠し事は無しよマーリーン?本音を言いなさい、本音を。」
そう言い自身を指さすリリムに、マーリーンは重い口を開く。
「‶喰神"を…許せません。私は…彼らと共にライズを討ちに行きたい。王への忠義を忘れたわけではありません。しかし…」
「はい!そこまで。」
リリムはマーリーンの口に人差し指を出し、言葉を遮る。
「あなたは私の箱庭騎士団の一員よ。何を言ってるか、分かっているのかしら?」
俯きつつコクリと頷き、突然マーリーンは自身の右眼をえぐり取り、リリムに差し出した。
「これが私の覚悟…ジョーズは立派に戦いました。私には彼を討つことが、どうしても出来なかった。例えマリオネットだとしても。ジョーズは奴の左眼を討った。右眼は私が討つ。その決意の証です。」
「そ。分かったわ。」
リリムは頷き、扉の中へと戻って行き、マーリーンは深くお辞儀をした。
マーリーンの右眼から流れる血が、涙のように滴った。
「【今はとて、天の羽衣着るをりぞ 君をあはれと思出でける】ってか。」
扉の中でリリムは そう呟き、寂しそうな目をした。
その時宿舎の扉をジーナスがものすごい勢いで開ける。
「リリム殿はおられるか?」
ちょうど中庭から戻ったリリムは、なぜか少し不機嫌そうに答える。
「なによ?」
その様子にたじろぎながらも、ジーナスは続けた。
「少し見て頂きたいものがある。」
そのままリリムをさっきの平原の場所まで連れて行った。
…
「どう思われますか?」
聞くジーナスに目もくれず、リリムは焦げ跡に手をやり目を閉じる。
「痕跡がある、間違いなく『制裁』ね。」
「やはり…」
「ジーナス、大丈夫かしら?」
「少々まずい…かもしれませんな。」
2人は目を合わせ、何かを確認した。
「何か手を考えなきゃね。」
リリムは悩み事が多い、と頭を振った。
…
楽園宿舎
とある一室に、全員が集まっていた。正確にはマーリーン以外の全員が。
「さて、明日から修行だね!とは言っても修行するのはリム1人だけど。」
「そう…だね。」
リムはジョーズの事を思い出し、うつむき気味に返事をする。
「ジーちゃんは、しないの?修行。」
「俺はやらねばいかんことがあるのでな。リム殿…ジョーズ殿と先王の分まで頑張るのだぞ。」
そう言うジーナスに、なぜかリムは言いようのない胸騒ぎがした。