3.‶喰神″強襲
1.‶喰神"強襲
大きな音と共に同時に3箇所に土煙が上がる。ただごとではないのは一目瞭然だ。
「ちっ!思ってたより早かったわね。」
リリムの目は戦闘モードに入っていた。
「いったいこれは?」
いきなりの事にジーナスは動揺の色を隠せない。
「ジーナス!王を守りなさい。あなたにしかできない事よ。テンカ!いるわね?あなたはタマキの援護へ。タマキにはマーリーンの所へ向かうように伝えなさい。ライズは、マーリーンの所よ!」
「御意。」
いつからかは分からないが、テンカと呼ばれる何者かが側にいたようだ。一瞬の判断で適材適所の配置をするリリムに、あっけに取られるジーナスだったが、自分の最優先はとにかくトールだ。
絶対防御
ジーナスのもつ盾を中心として広範囲に紫色のバリアが張られる。泣きながら尻もちをつくトールの目の前には巨大なワニが今にも噛み付かんとしていたが、間一髪トールはジーナスのバリアの中だった。ジーナスの張ったバリアを噛み砕こうと何度も噛み付くが、傷ひとつつく様子はない。
「獣如きが俺の絶対防御を破れると思うでないわ。」
そのままゆっくりとトールの元へと向かい、抱き上げる。トールは大泣きしながらジーナスに抱きついて離れようとはしなかった。
「リム殿とジョーズ殿は…全員あの辺りに集まるという事だな。」
先程のリリムの指示通りなら、全員がライズの現れる所へ向かうであろうと判断し歩を進めた。そちらへ向かったと思われるリリムの姿は、もう見えなくなっていた。
同時刻 東の丘
「回復魔法…ムムム。だめだー、全然長くできないよ。私才能無いのかなー。」
「…そう…ね。」
「ひどい!そんな言い方、先生失格だよ。」
タマキは見るからにショックを受けた顔を見せていた。ここしばらくで、大分表情が出るようになった気がする。
「こう…やるん…だよ…全快魔法。」
「そんなのできるわけ無いじゃん。」
「…まずは…得意な…ところ…から…極めよう。」
「はーい。」
リムは仲間を死なせない事を目標とし、白魔導に力を入れて修行する事に決めた。
「もういっちょやってみよー!」
回復魔法を出そうとしたその時…
ドーン
少し向こうでとてつもなく大きな音と共にもくもくと土煙が上がる。
「なに?あれ。」
「…まずい…な。」
タマキは何かに気づいたように身構える。土煙の上がった方向を見ると、何やらフードを被った人影がこちらに向かって歩いて来ているようだった。
チャリ…チャリ…
歩くたびに金属が擦れるような、聞いた事のある音がする。
「だーれ?先生のお友達?」
「リム…逃げ…るぞ。」
「はい?」
「巫女の…本分は…戦闘…違う。」
「戦闘?え?敵なの?」
困惑するリムの袖を掴み、タマキは移動を開始した。すると目の前にくノ一のような格好をした少女が現れる。
「きゃあ!敵ね。換装…」
ズビシ
タマキのチョップが炸裂し、リムは悶絶した。
「…テンカ…何が…あった…?」
「‶喰神"です!タマキ先輩はリムを連れて、急いでマーリーン先輩の所へと向かって下さい。ここは私が抑えますので。」
そう告げるとテンカと呼ばれるくノ一のような少女は土煙の上がった方向へと消えていった。
「‶喰神"ライズが来た…。」
「心を落ち着かせよリム。行けるか?」
「!!大丈夫だよ!先生!」
たまに急に早口で話すタマキだが、リムはもう慣れっこのようだ。2人は急ぎマーリーンの元へと向かった。
同時刻 北の森
ヒュッ
バシ
射られた弓をマーリーンが素手で叩き落とす。
「もっと矢に殺気を込めろ。ただ矢を射るのなら誰でもできる。必ず殺すつもりで打て。分かるか?必殺だ。」
「そんな事言ったって師匠を殺すつもりでなんて無理だよ。」
先程まで動き回っていたマーリーンはピタリと止まって目を細める。
「ジョーズ、そんな考えではライズは討てんぞ。憎くはないのか?」
ジョーズの目にまた闇が陰り始める。
「くそっ。ぐがぁァァ。」
頭を抱えうずくまるジョーズの背後にマーリーンが現れ、気絶させる。
…
しばらく後、目を覚ますと横にマーリーンが座っていた。気絶し、その場に大の字で倒れていたようだ。
「…師匠。俺、ライズの事を思い出すと感情がうまくコントロールできなくなっちゃうんだ。」
「そうだな、少しづつでいい。」
優しく笑うマーリーンを見てジョーズの心も優しくなる気がした。
「俺、強くなれるかな?」
「お前の程度では、知れているがな。」
グサッとくる言い方をされ、ジョーズは見るからに落ち込んだ。マーリーンは優しくジョーズの頭に手を置く。
「後はお前次第だと私は思う。この世界は能力が全てだが、その向こう側に何かがあるかもしれない、と私は思う。」
能力の向こう側に自らが進むべき道がある。そう考えるといてもたってもいられない。ジョーズは目を輝かせ身震いをする。
「師匠!続きを…」
言葉を遮り、マーリーンが怖い顔をする。
「来たか、1.2…4体。本陣は…ここか。」
《リリム様の読み通り、だな》
訳がわからないと言った顔のジョーズはマーリーンに聞こうとするが、次の瞬間
ドーン
激しい土煙が上がる。しかし、そこには何も見えない。
「なんなんだよ。何が起きて…」
聞こうとするジョーズの唇にピトっと人差し指をくっつけ、マーリーンは微笑んだ。
「心配をするな。私がいる。」
何が起きているのかは分からないがジョーズは安心した表情でコクリと頷いた。
マーリーンはジョーズの首元を掴むと一瞬で移動を始める。
(ヒヒヒ)
聞き覚えのある甲高い声。ジョーズはバッと振り返った。
「まさか…」
「その、まさかだよ。ライズが…来た。」
そう言い終わった瞬間だった。2人の真横から大きな口がガバッと襲いかかってくる。間一髪避けた2人だったが、ライズの姿は全く見えない。
《これもリリム様の言う通り姿を消す能力か。》
「こんにちわ少年。約束通り喰いに来てやったよねぇ。」
甲高い声と共にズズズと姿を現す獣のような男。
「まさかマーリーンがいるとはねぇ。‶拳神"の箱庭騎士団お守りなんて、恐れ入るねぇ。ま、関係ないけどねぇ。」
そう言うとライズはまたズズズと姿を消す。
「厄介な奴に厄介な能力だな。」
マーリーンは目を細め、ライズがいた方向をじっと見る。
「ただ、相性が悪かったな。」
マーリーンはくるっと振り返り、ジョーズに向けて矢を放つ。わぁっと頭を抱えて避けるジョーズのすぐ脇を矢が恐ろしいスピードで飛んでいった。
「師匠?」
驚きを隠せないジョーズだったが、聞くまもなくマーリーンに首元を掴まれ連れられていく。
(ヒヒヒ。これが噂に聞く琥珀眼…恐ろしい、ねぇ。)
マーリーンの放った矢はライズの頬をかすめていた。流れる血を舌でペロッと舐めるライズ。
(だが、相性が悪いのはお互い様だよねぇ。)
高速で移動するマーリーン。
《近距離では確実に不利だな。それに、ジョーズを守りながらとなると…少々まずいか。》
「師匠!」
小脇に抱えたジョーズが震えながら声を上げる。
「師匠なら俺がいなけりゃアイツ倒せるよな?」
マーリーンはジョーズの頭をペシっとはたいた。
「アイツを倒すのはお前の仕事だろう?」
そう言いながら、森の端にある大岩の上に立ち止まる。
「言ったろ?私達の役割は、援護だ。私達にしか倒せない相手を、討つ。」
そう言うとスッと目を閉じ、矢を構える。
絶対領域
「あそこか…」
森の一点を見つめ、一言呟き矢を放つ。同時に足元にいたジョーズのそばでイヤな声がした。
「ハズレだねぇ。少年、守れなかったねぇ。」
放った矢が見えないスピードでどこかに飛んでいった。
『ぎゃああ』
遠くと近くの両方で大きな叫び声が聞こえた。
「お待たせマーリーン。ジョーズくんも、よく頑張ったね。」
急に姿が見えるようになったライズの顔面に、リリムの拳が突き刺さっている。
「お手を煩わせました。来ているのが見えたものですから。」
シャッと距離を取るライズ。片方の鼻を指で押さえ、フンッと鼻血を飛ばす。
「アイツが…‶喰神"ライズ。」
ちょうどそこへタマキとリムが合流した。リムが目を見開く。先王の仇敵が、目の前にいるのだ。
「これはこれは‶拳神"リリム。随分な挨拶ですねぇ。」
「あなたは相変わらず弱い者イジメをしているのね?」
大気が震える感じがする。
「これは、少し分が悪いですかねぇ。」
《ルークは…一撃ですか。ペトラは…?あのバリアは絶対防御?面倒な奴がいますねぇ。ペトラは帰ったら『制裁』しますか。》
そう言うライズだが、言葉とは裏腹にニヤニヤと笑っている。
ドサッ
どこからか何かが足元に転がってきた。生首である。
「ヒッ」
顔を覆うリムだったが、その首には見覚えがあった。
「この人、さっきの…」
先程自分たちを逃してくれたくノ一の少女だ。
「テンカ…チッ。タマキ、頼める?」
「御意。」
リリムが言うと同時に横にいたはずのタマキが一瞬のうちに消える。
「そんな…こんな事って…」
涙を流すリムの頭にリリムはポンッと手を置く。
「安心なさい。SEEDが潰されていなければタマキに任せとけば大丈夫よ。それよりも…」
チャリ…チャリ…
砂埃の向こうから金属の擦れる音を鳴らしながらフードの人影が近づいてくる。
「こっちのが…心配ね。」
リリムが珍しく冷や汗をかいていた。
2.開戦
‶喰神"ライズと、チャリチャリと音を鳴らし歩くフードの人物のちょうど間くらいで、リリム達は動けない状態にいた。
「くそっ。俺は…また。」
震える足を拳で殴りつけるジョーズ。
神死剣
フードの人物はそう言うと、青白い禍々しいオーラを纏った剣を取り出す。
「まさか…あの声、あの剣…」
ジョーズとリムは顔を見合わせる。
「王様!」「トーちゃん!」
同時に叫ぶ2人。吹く風にフードが飛ばされたその姿は、紛れもなくあの、2代目トール王だった。腕のチャームをチャリチャリと鳴らし、こちらに向かい歩いてくる。
ふと、リムは違和感に気づく。
《狼の…チャーム?》
「どこにいたんだよ王様!俺、俺たちはずっと帰りを待っていたんだぞ。」
そういいながら駆け寄るジョーズ。
「まずい!」
言葉と同時に反対側にいたライズがリリムに襲いかかった。
「くっ、マーリーン!」
「分かってます。」
マーリーンは弓を構え、2代目トール王らしき男を狙う。しかし、その前にジョーズが立ち塞がった。
「師匠!なにするんだよ!」
弦を緩めるマーリーン。ジョーズの後ろで2代目トール王らしき男はニコッと笑った。ジョーズも嬉しそうに目をやり、へへっと笑った。
演舞
不意に2代目トール王らしき男が剣で弧を描くようにユラユラと動く。
「え?」
「ジョーちゃん、ダメ…」
絶対防御
ジョーズの体が半分くらい切れて血が吹き出す。
「おや?世は真っ二つにしたつもりだったが思いの外硬い盾だ。」
その場に着いたジーナスが危険を察知し、イージスを張ったのだが、少し間に合わなかったようだ。バリアの中にジョーズを引きこみ、マーリーンとリムが駆け寄った。ジョーズは口をパクパクとさせ、血が止まらない。
「くっ、タマキはまだか。」
「私が治す!」
「ジョーズ殿!くそっもう少し早ければ…」
みようみまね全快魔法
タマキに一度見せてもらった白魔法。だが、魔力がまだ弱いリムには負担が大きすぎた。必死に治すが血が止まらない。それどころか、リムの鼻から血が垂れる。
「リ…ム、わりぃ…やっちまった。」
「黙ってて!絶対に…死なせないんだから。」
垂れる鼻血を拭い、リムは懸命に魔力を込めた。
そこへリリムが現れる。
「状況は、よろしくないみたいね。」
バリアの外から中の様子を確認し、目を細める。
「マーリーン、私が2人を足止めする。タマキが戻るまでなんとか耐えなさい。もしもの時は…分かるわね?」
「…御意。」
マーリーンは俯き、小さな声で返事をした。リリムがよそ見をしている間、ライズが2代目トール王らしき男の側に歩み寄って肩に腕を乗せて尋ねる。
「さすが‶神滅士"のヴァイスだねぇ。小僧のSEEDは、きっちりと潰したんだろうねぇ?」
「申し訳ありませんライズ様。イージスが思いの外硬く、少々外しました。」
ヴァイスと呼ばれたその男は申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうかぁ…」
先程までニコニコしていたライズはカチリと歯を鳴らし、歯ぎしりを始める。
「なぁんでちゃんと殺さないんだこのカスが。」
ヴァイスを殴りつけ、足げにする。グリグリと踏みつけられながら、ヴァイスは謝罪の言葉を述べた。
「世の不手際で…申し訳も立ちませぬ。」
その様子を見ていたジーナスは怒りに震えた。だがリムは回復魔法に集中し、目もくれない。
「我らが先王に…なんてことを。」
とその時、ライズ達の方を見ていたジョーズの目が闇に覆われた。
「ググ…ガガガ…貴様…ドコマデ王様を侮辱スる…コロス…貴様だケハ…コロス…」
ジョーズのSEEDから漆黒の木のような物が生え、全身を包み込み始める。ジーナスは近くにいたリムを引っ張るように自らの後ろへと避難させた。
「そんな…ジョーちゃん…」
「まずいわね…」
その様子を外から見ていたリリムは一度目を閉じ、何か決意をした目をしてマーリーンを見た。
「最悪の時が来たよマーリーン。」
「分かって…います。」
「手遅れになる前に…送ってやりなさい。それも師匠の役目よ。」
リリムはチラッとマーリーンを一瞥し、ライズとヴァイスに向かって駆けて行った。
3.修羅のマリオネット
激しい戦闘の音が聞こえる。マーリーンは足元で悶える木の塊を見て、体を震わせた。
「私が…ジョーズを…」
「マーリーン、急ぎなさい。手遅れになる。」
遠くからリリムの声がする。マーリーンは震える手でゆっくりと弓を構えた。
「やめて!お願い。」
「ジョーズ殿に何をなさるおつもりか?」
ジョーズであった漆黒の木の塊の前に、2人が立ち塞がる。
「そいつを…討つ。今やらなければ…ジョーズは闇にSEEDを喰われ…手遅れになるんだ。」
マーリーンの目には殺意と動揺の色があった。短い時間とはいえ共に過ごした、自らの事を『師匠』と呼び慕ってくれるジョーズを、どうしても討つ事ができない。戦闘の音が遠くに行ったり近くに来たりする。薄れゆく意識の中でジョーズはマーリーンの言葉を思い出していた。
《殺意を感じろ》
「殺意…アイツを…コロス」
《殺意を込めろ》
「殺意…ライズ…」
コロス
ジョーズだった塊が、けたたましい声をあげてどんどんと巨大化し、人の形を成してゆく。リムが駆け寄った。
「ジョーちゃん!」
その漆黒の人形はくるりとリムの方を向き、鋭く尖った木の枝のようなものを突き出した。
「リム殿、危険だ!」
ジーナスがリムの目の前に立ち、木の枝はジーナスの腹を突き破った。ジーナスは膝から崩れ落ちその場に横たわる。イージスで張っていたバリアが消えていった。
「ジョーズ…」
マーリーンはその姿を見て、たじろぐ。それは恐怖では無く、どうしていいか分からないのだ。ジョーズだったモノはキョロキョロと辺りを見回し、戦闘をするリリム達3人を見つけた。
《コロ…ス…殺意…コメル…ライズ…》
ジョーズだったモノの体が大きく膨らみ、無数の細長い弓矢のような物が3人目掛けて飛んでいった。そのスピードと威力は凄まじく、途中にある木や岩を貫いて一直線に3人の元へと飛んでいく。
「なっ?」
リリムは間一髪木の弓矢を躱したが、一本が足をかすめ、血が垂れる。ヴァイスは持っていた剣で弓矢を全てはたき落とした。
「ぐわぁぁ。」
ジョーズだったモノの放った弓矢の一本が、ライズの左眼に突き刺さっていた。
「イテェ、なんだこれ?あの小僧ぉぉ許さん。」
先程まで相対していたリリムを無視し、一直線にジョーズだったモノの方に向かおうとするライズ。
「私相手によそ見するなんて、相変わらずのバカさ加減ね。」
真横に現れたリリムに全く気づく事なく、ライズは殴られて森の向こう側まで吹き飛ばされていった。
そこへテンカとタマキがスッと現れる。
「…ただい…ま。」
「リリム様、申し訳ありません。」
「ちょうどいい所に来てくれたわ。」
ペコペコと謝るテンカと、なんだか偉そうにしているタマキ。
「今のところ誰も死んでない。でも状況は最悪よ。タマキ、怪我人がいる。必ず生かして。テンカ、全員を楽園へ移動させて!また後で会いましょう。」
「御意。」
「…ハァ…リリム…人遣い…荒い。」
元気に返事をするテンカとため息をつくタマキ。
「タマキ、ため息ついたら幸せが逃げるって言ったでしょ?よろしくね。」
「…御意。」
リリムはタマキ達にウインクをするとヴァイスの方へと向かって行った。
ヴォォォ
もはやほとんどマリオネットと化したジョーズは、雄叫びをあげ更に変異を続ける。
「ジョーちゃん…もう…やめて。」
倒れるジーナスの側にへたり込むリムは涙を流し訴えるが、ジョーズにはもう届かない。
「ジョーズ…」
荒れ狂うジョーズを呆然と見つめるマーリーンの琥珀色の眼がキラッと光る。ジョーズのマリオネットは振り向き、少しの間2人は目が合った。
その時、なにを思ったのかマーリーンはニコッと微笑んだ。それを見たジョーズは動きを止め、崩れ落ちるように倒れて元の姿へと戻っていった。
「ジョーちゃん!」
「ジョーズ!」
マーリーンが駆け寄りジョーズを抱き抱える。リムはジーナスの側を離れるわけにはいかず、その場で涙した。
「…ししょ…ごめん…なさい…おれ」
「謝ることなど何もない。見事な一撃だった。お前の矢は、確実にライズに届いたぞ。」
「聞こえ…たんだ…ししょ…言葉」
「もういい、しゃべるな。キズに触るぞ。」
マーリーンはジョーズを強く抱きしめる。
「…おまた…」
タマキとテンカが姿を現す。
「先生、ジョーちゃんとジーちゃんが…」
「タマキ、いいところに来た。2人を頼む。」
「…おっけ。」
タマキは倒れた2人を見て眉をひそめる。
「…おっきいのは…大丈…夫。…ちっこいのは…無理。」
「タマキ、心配だろうが大丈夫だ。もうマリオネットにはならん。私がさせない。」
「…ちがうくて…。」
「ではなんだ!こんな時にまで気まぐれか?お前のマイペースに付き合っている時間はないんだよ!」
マーリーンは叫ぶ。タマキやテンカですら聞いた事のないほど大きな声で叫ぶ。
「…お前も分かっているだろう?コイツは助からん。もう…SEEDが枯れている。」
リムは泣き崩れ、マーリーンは俯いた。
「リ…ム…また…泣いて…のかよ。全く…泣き虫…だなぁ」
そう言うジョーズは足元から灰になって風に飛ばされていく。
「し…しょ」
「なんだ?なんでも言ってみろ。」
「お…れ、ししょ…の眼…好き」
「あぁ。」
「……」
「さらばだ、また会おう。」
マーリーンの腕の中からジョーズは消えていき、テンカがバツが悪そうに声を掛ける。
「あのぉ…リリム様からの命令で、楽園まで移動します。」
誰も返事をしないが、迷った挙句そのまま進める。
忍法 時空間移動
リム達5人はその場から姿を消した。
9.決着
少し向こうに時空の歪みが見えた。チラッとその様子を見たリリムは、フゥと息をつく。
「行ったね。間一髪間に合って…ないかな。」
マーリーンの事を思い、目に力が宿る。
「ちょっとだけ、怒ったよ。お仕置きしてあげなくっちゃね。」
拳を突き合わせ、ヨシッと気合を込める。
神衣
能力を解放したリリムは光に包まれ、羽衣を着ている出立ちが、さながら仙女のようだった。
「能力を解放すると、周りに気を遣う余裕ないのよね。」
そう言うと、今までの数倍早いスピードで一瞬のうちにヴァイスの目の前に現れ、そのままヴァイスの剣戟をものともせず殴り飛ばした。
剣戟砲
ヴァイスは辺り一面に剣戟を降らせる大技を放つが、リリムはまるで踊るかの様に全てを躱す。
「で?終わり?」
涼しい顔で尋ねるリリムに、ヴァイスは苛立ちを覚える。
「…貴様、手を抜いているな?」
「だってー、そうしないとキミは一瞬で死んじゃうよ?」
そう言い、両腕を伸ばして欠伸をする。
「くそアマがぁ。ぶっ殺してやる。」
リリムの背後に、先程遠くまで吹き飛ばされたライズが戻ってきた。
凶獣進化
ライズの肉体が2回り程大きくなり、ますます凶暴な顔つきになる。
「調子くれてんなよ、くそアマァ。お前の存在をー、称号ごと喰ってやんよぉ。ヴァーイス!」
「はっ。」
飛剣戟
飛来爪牙
ヴァイスの剣戟とライズの爪撃が交わりリリムに押し迫る。
「ホント…バカね。」
リリムはまるで虫でも払うかの様に斬撃を跳ね除けた。跳ね除けられた斬撃は森の方へと飛んでいき、森の半分以上が消え去る。
「やつは何者です?ライズ様。」
「アイツは‶拳聖"だぁ。お前と同じ円卓騎士の一角だが、これほどとは聞いてねぇ。」
ライズは、格下とは言え同じ神7なのにこれほどまでの実力差があるとは思ってもいなかった。
「引きますか?」
「あのくそアマが逃すわけねぇだろ。」
その瞬間目の前に現れたリリムがヴァイスを殴り飛ばした。ライズどころか、ヴァイスですら目で追えない速さで動くリリムに防戦一方のライズ達。
「ぐはっ。」
よろめくヴァイスにリリムは追撃をかける。
重量級拳
ヴァイスの腹部にリリムの拳がめり込む。一瞬動きが止まり、遅れて衝撃が起ってヴァイスは数キロ先まで吹き飛んだ。
「さて、と。」
パンパンと手をはたき、リリムはライズの方を振り向く。
「姉さん、もうやめときましょう。俺様はあんたとやり合う気はそもそもねぇんだ。」
ライズは手のひらを返したようにニコニコとゴマをする。ニコッと笑うリリムはライズに尋ねた。
「あんた、くそアマって何回言った?」
「1…いや、すみません2回です。」
鉄拳
打降拳
偉大な衝撃
「うご!ぐは!!ぶべろ!!!」
地面にめり込むライズの横にスタッと降り立つリリム。
「3回だボケナス。ここでアンタをぶっ殺してもいいんだけどね、それは私の役割じゃないの。いーい?次の闘技大会でトールって男がアンタをぶっ殺しにくる。それまでしっかり鍛えておく事ね。聞いてる?」
ライズは地面にめり込み気を失っているようだ。リリムは叩き起こさんとライズの胸ぐらを掴み、ビンタする。
とその時、背中に鋭い殺気と剣先が突きつけられた。
「我が王にそれ以上の愚行はやめてもらおうか?」
先程かなり遠くまで殴り飛ばされたはずのヴァイスが、既にリリムの真後ろに立っていた。
「腐っても、ラウンズの1人ね…」
リリムは掴んでいた胸ぐらを離した。
「じゃあアンタが伝えておいてね。ついでに…」
スッとリリムの眼が据わる。氷のように冷たい眼をしていた。
「以後、大会までの間にあの子達に手を出したら…私が消すから。コイツも、アンタも。」
そう言い残すと、リリムは手をヒラヒラさせて立ち去った。
「化け物が…」
ヴァイスはリリムの殺気が消えたのを確認すると、のびているライズを拾い上げその場から消えた。