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真相編

「これは推測なんですが、その電気を消した人物は……結果的にエリスさんの共犯となった人物は、 “あの方” ですよね?」


 その “あの方” が誰なのか通じたらしく、エリスは横を向いたまま、小さく頷いた。


「 “あの方” は、あなたもよく知っている人物……ですね?」


 エリスは頷く。


「でも “あの方” は、こうなることを望んではいなかった……。共犯となることを望んでいなかった……」


 エリスは、最後にもう一度だけ頷いて、その重たい口をようやく開いた。


「そうよ。私は、あの人が電気を消した瞬間を利用した……。そのときを待っていたの」


「……!」


「え!? 日本語、話せたんだ!」


 彼女の流暢な日本語に、山田はもちろん、ソフィーも驚いた。


「もともと私は独占欲の強い女だったんでしょうね。大黒寺が寿美香と復縁したときも、愛純と再婚したときも、私の中には沸々と憎悪の念が湧いていたわ。

だから私は、大黒寺によって部屋が真っ暗になった瞬間、今だと思い、立ち上がって愛純の座っている椅子のところへ行った。

そして、椅子ごと彼女をひっくり返してやったの……」


「ひえぇ……どんだけ馬鹿力……」


「あの血は、そのときに打った傷だったのか……」


 それならば、凶器が出ないのも当然である。

 女性というのは、か弱いと思いきや、それほどの力が出せるものなのか……と山田も川口君も、心底恐ろしくなった。


「でも……。

あのあと――愛純が運ばれたあと、ずっと考えてたの。やってどうなったのかって。どうもならなかったわ。あとには悔いだけが残った。

なぜ、 “あの人” が偶然にも起こしたその瞬間を、私は私の憎悪を満たすことだけに利用してしまったんだろう……って。悔やんでも悔やんでも悔やみきれなかった」


 そして、ソフィーの方を向いて、英語でこう続けた。


「Sorry, Sophie. -----」


 その言葉は川口君にも聞きとれなかったが、娘のソフィーには、ちゃんと分かっていた。


「Sorry, Sophie. I had no right to take you...」

(ごめんね、ソフィー。私にはあなたを引き取る資格なんてなかった……)


 エリスの大きな瞳からは涙があふれ、母親によく似たソフィーの瞳からも、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。


「Don't say that, mama. Because my mom is only mom.」

(そんなこと言わないでよ、ママ。だって私のママは、ママ一人なんだから)


 ソフィーとエリスは、互いに頬を濡らしたまま、ぎゅっと抱きしめあった。

 その姿を、マルコスはもちろん、山田も川口君も、黙って一歩引いたところから優しく見守っていた。



 ふいに、あることを思い出した山田が呟く。


「そういえば脅迫状ってなんだったんだろう?」


「それは、直にわかりますよ」


 山田の問いに、なぜか、川口君は意味深な笑みを浮かべていた……。



 そのとき、ふいにドアがひらいて、執事の阿部が入ってきた。


「たった今、旦那様から連絡がありました、奥様(愛純)はご無事だそうです」


 川口君が目配せをすると、エリスは頷き、5人は愛純が搬送された病院へと急いだ。

 山田たちが病室にやってくると、事の顛末を知った大黒寺は言った。


「そうだ……そこの助手野郎の推理通りだよ。

俺は、今夜仲直りパーティーを開こうとしてたんだ。俺は、みんながドアに背を向けていたのをいいことに、明かりを消してびっくりさせようとしていたんだ。

それが、こんなことになるなんて……。俺は……。こんなはずじゃなかったんだよ!!」


 つまり、川口君とエリスが言った “あの方” というのは大黒寺のことで、脅迫状にあった “Mr.T” というのは<Mr.Tatsuo Daikokuji(大黒寺辰夫)>の頭文字だったのだ。

 そして今夜8時の事件は、彼が企てていた、仲直りパーティーで驚かせようというサプライズ作戦だった。


「そうだったんだ……」


 外来用の簡易ベッドに横たわった愛純が呟く。


「あなたは、わたしとママコ(継子)達、そして前の奥さんたちのために、そんなことを考えてくれていたのね」


「でも私、そんなことには気づかずにあなたを……」


 ハッとして後悔の念に駆られたエリスに、愛純は、ニコリと笑って首を振る。


「ううん、いいの。わたし、エリスのこと責めるつもりないよ。だって大した怪我じゃなかったんだし」


 エリスは何も言えなかった。そんな彼女の肩を、そっとマルコスが抱き寄せる。


「エリス様……」


 そんなエリスの目をじっと見ながら、愛純は続けた。


「それにね。わたしは、あなたにも寿美香ちゃんにも、遠慮なんかしないで、いつでも子供たちに会いに来てほしいの。だって、彼らは大黒寺の子供でもあるけど、なおかつ、寿美香ちゃんの子であり、エリスの子でもあるんですもの」


「すまない……。俺が不甲斐ないばっかりに……」


 嘆く大黒寺にも、愛純は優しくフォローする。


「そんなことない。わたし、あなたの気持ちがうれしいよ?」


「ありがとう、愛純……。優しいのは、おまえだけだよ」


 愛純は、そんな大黒寺に……そしてエリスに……ソフィーに……マルコスに……そっと笑みを向けた。



 そんな一家を傍目に見ながら、探偵たちは呟く。


「今回の事件も、無事解決ですね」


「うん……事件っていう事件じゃなかったけどね。結局、解決したのも君だったし」


「まあまあ、いいじゃないですか。山田さんもすごかったですよ」


「え? たとえばどの辺?」


「そ、それは……」


「……まあいいけどね。さ、早いとこ帰って、風呂入って寝よう」



 そう言ってそそくさと部屋を去る山田の後ろ姿は、また妙な哀愁を感じさせた。

 遅れて、川口君も部屋をあとにする。


「山田さん……。さすがだ……」


 そして、僕はまだまだ山田探偵には及ばないのだと、つくづく考えさせられたのだった。

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