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セザン編  君だけを愛しているんだ。

初めてダリアに会った時、小さくて細くて驚いた。


でも俺を見るとにっこり笑ってくれた。


ブラウンの長い髪にサファイアブルーの瞳、ベッドの上で青白くてきつそうにしているのに、俺を見ると目をキラキラさせて笑ったんだ。


あの可愛い笑顔が見たくて時間がある時はいつも親父について行った。

少しずつ外に出る体力も付いてきて、俺と屋敷の庭を散歩できるようになった。

ただ歩くだけなのにダリアには新鮮だったみたい。


本に書いてある花を見つけては

「あ、この花の名前知ってるわ」

「うわあ、この花ってこんなに綺麗に咲くのね」


本の世界でしか見たことがない花を見て目を輝かせていた。


「友達と歩くといつも窓から見ているだけのお庭がこんなに素敵なお庭になるのね」

俺の手を握って嬉しそうに歩くダリアに俺はドキドキした。


ダリアの笑顔が見たくて、興味のない絵本や物語をダリアに読んで聞かせた。

一緒にいるだけで楽しくかった。


ダリアは同じ歳なのに体が弱く学校に入学できなかった。

だから時間を作ってはダリアに会いに行っていた。


ダリアが学校の話を聞きたがる。

だから出来るだけ楽しい話を聞かせた。


一年遅れて入学してきたダリアはテストを受けて俺たちと同じ学年からスタートできた。

自宅で家庭教師から勉強を習っていたので遅れているどころかかなり勉強が進んでいた。


でも俺の隣のクラスのBクラスだった。

俺たちのクラスは特別コース。

優秀な子達だけを集めていずれは官僚や王族の側近になるために集められたクラス。


侯爵令嬢のダリアには必要のない教育をするクラス。だから同じクラスになることはない。

俺がこのクラスを志望したのは、もちろん平民だからだ。

親父がどんなにそこらの貴族よりお金を持っていても平民と言うだけで、貴族よりも身分は下になる。


平民同士の付き合いならそれでもいい。

でも俺はダリアが好きだ。


ダリアもたぶん俺のことを好きだと……思う。たぶん。


だから俺はなんとかダリアの隣にいたいと思った。



親父に「ダリアの横に立つにはどうしたらいい?」と聞いたら

「無理だな、うちは平民だから」

と、あっけなく言われた。


「でも俺はダリアと一緒にいたい」

食い下がって親父に聞いた。


「………お前が優秀だと高位貴族、王族に認められれば或いはダリア様の婚約者に認めてもらえるかもしれない……だがそれは王立学園に入学してAクラスに入るのが前提で、成績首位を取らないと難しいだろう。それだけの力を示せればお前に一代限りの爵位を与えてもらえるかもしれない。

まあ、そんな簡単に首位にはなれないだろうけど」


俺は親父の話を聞いて、王立学園に入学するために必死で勉強をした。

ダリアに会いに行く時間だけはなんとか作ったがそれ以外は寝る間も惜しんで勉強した。


それしかダリアといられないのなら俺は死ぬ気で勉強をするしかなかった。

やっとダリアが学園に入学して一緒に過ごせる日が来ると思ったのに、Aクラスはやはり勉強ばかりでなかなかBクラスに行く暇はなかった。

それでも気になってダリアのクラスをチラチラ覗いた。初めの頃は一人でいるダリアが気になって仕方がなかった。

会って少し会話するのが精一杯だったけど、俺を見つけるとダリアは走ってきて、嬉しそうに話す。


走る姿を見るだけで心配で「走らないで!」と俺は兄のように注意してた。


でもダリアの顔を見るだけで俺はたまらなく嬉しい、そしてダリアが可愛すぎて抱きしめたくなった。


一人でいるダリアが心配で、たまに教科書を貸していたエリーに

「ダリアは話せば良い子だから話しかけてみてくれないか」

と頼んだ。


「あの子話しかけにくいのよね、でも一人でいつもポツンといて気になっていたから話しかけてみるわ」

気前よくエリーは俺の頼みを聞いてくれた。


それから数日後にはダリアの明るい笑顔が教室で見れるようになってホッとした。


エリーはダリアのことがすぐに好きになってくれたみたいで


「セザン、ダリアってとてもいい子だったわ」

と、褒めてくれた。

当たり前だ、俺の好きになったダリアだ。

いい子に決まっている!


そして俺の人生が変わったあの日……


ダリアが野良犬を庇って男の先輩達に絡まれていたあの日。


俺は帰宅するために迎えの馬車に乗ろうと馬車乗り場に行った。


そこで聞こえてきたのが……


「俺、平民だから関係ないし、なんで貴族だからってだけで、助かると思ってるの?」


俺よりも体の大きい年上の男の先輩だった。


ダリアが野良犬に抱きついて、腰が抜けたのかしゃがみ込んでいた。


男の先輩が棒を手を振り上げた。


ーーダリアが叩かれる!


俺は急いでダリアの前に立った。


ばしっ!!


「おい、お前なんなんだよ、どけよ!」


「嫌です、どうして女の子にこんなことしようとするんですか?」


「はあ?生意気だからイラつくんだよ!」


先輩は俺を棒で殴った。


「や、やめてください」

ダリアは震える声で俺を助けようとした。


野良犬が「ウー」っと唸り威嚇し始めた。


「ダリア、危ないから来ないで!」


「だってだって、セザンが怪我しちゃう」


「ったく、ダリア来ないで!」

ダリアが俺を庇おうとした。

俺がいくら叩かれてもいいけどダリアが怪我するのだけはどうしても嫌だった。


俺は不意打ちを狙って先輩に襲いかかった。


俺より大きい体の先輩なのに、突然襲い掛かられて無様に転んだ。


恥ずかしかったのか真っ赤な顔をして立ち上がり俺を殴りつけてきた。


俺も殴り返して二人が揉み合いになった。



「やめて!」

ダリアが叫んでいた。

ダリアの声を聞いた人たちがこちらにやってきた。


「おい、お前達何やっているんだ!」


馬車乗り場に来た他の生徒達が二人を止めてくれた。


「チッ、お前クソ生意気なんだよ」

男子学生はセザンを睨みつけて、止めに入った学生の手を振り払い

「帰る!」

と言ってどこかに行ってしまった。


「セザン、大丈夫?」

俺は顔を殴られて口の中を切ったのか血が滲んでいた。


ダリアが慌ててハンカチを出して俺の口元を拭いた。


「ダリアこそ、無茶するな!あいつお前のこと棒で叩こうとしていただろう!」


「うん、怖かった」


俺たちの会話を聞いて


「あいつそんなことしたのか」

他の学生達が驚いた。


「高等部の一年のガルトだったな、先生に伝えよう」

何人かが急ぎ去って行った。


俺たちは助けてくれた人たちにお礼を言ってから、待っていたダリアの迎えの馬車が来たので俺を無理矢理連れて馬車に乗った。


俺は自分の家の馬車があるから大丈夫だと何回も言ったけど、ダリアがポロポロ涙を流しているのを見ると嫌だと言えなくなった。

本当はこんな情けない姿を好きな子に見せたくなんてなかった。


屋敷に帰ってすぐに傷の手当てをされた。


制服は土埃で汚れて、口の中が切れていて頬も赤く腫れていた。

体も打ち身で青くなっていた。


医者に診てもらったら

「今夜熱が出るかもしれない」

と言われた。

そしてそのまま客室に泊まることになってしまった。


ダリアの両親からはお礼を言われた。

「娘を助けてくれてありがとう」

でも本当はこんなボロボロに叩かれてカッコ悪くて恥ずかしいし悔しかった。

好きな子をカッコよく守ることができなかった。


それから三日間、俺は熱を出して寝込んだ。

ダリアは間学校から帰ると俺の寝ている部屋に来て、ずっとそばにいた。



俺は「大したことない」と言ってダリアの心配をすこしでも減らしたかった。

だけどダリアには俺が治るまでずっと心配をかけさせてしまった。


俺が元気になってから、親父から

「侯爵家からダリア様との婚約の申し込みがきた。だが今のお前の立場だとかなりの横槍が入るだろう。

侯爵家がある程度庇ってはくれるだろうけどお前が今ダリア様と婚約すれば侯爵家は平民と婚約したと嘲笑されるかもしれない、それにお前自身も辛い立場で過ごさなければならない」


「親父、俺は弱すぎた、力もない、地位もない、今の俺じゃダリアを守れない」


「そうだな、ならばどうしたい」


「俺、強くなりたい。ダリアを守れるだけの体術や剣術、それにもっと努力して学園で首位を取ってダリアの横に堂々と並びたい」


「そうか、では侯爵様と話をしよう」


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