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前編

「貴方が好きです」

会うと必ず伝えるわたしの気持ち。


「ごめん」

必ず返って来る答え。


わかっているんだけど、どうしても伝えたい。


だって時間がないの。

タイムリミットまであとひと月なの。


わたしが彼に会えるのは。


「はあ、またダメだった」


大きな溜息を吐いて、ガックリと下を向く。


「あんな毎回直球で告白するのやめて今度は違う方法で頑張ってみたら?」


友達のエリーが笑いながらアドバイスをくれた。


「一応、手紙も出しているし、ご両親にもお願いに行ってるし、妹さんに餌付け…いや、プレゼントでお菓子を送ってわたしの良いところアピールもしてもらっているし、毎日朝彼が学校へ行く時に家の前に立って待って一緒に…いや、後ろからついて「好きです」って言ってるし……それにあとは……」


「ダリア、それダメなやつばかりしてる……いわゆるストーカー的な?」


「そうかなあ、出来ることは全てやりたいの!だってセザンに会えるのもあとひと月しかないんだよ」


「確かに…卒業したらセザンは外交官として働き出すからもうこの国にはいないんだよね」


「うん、だから今しかないの!」


セザンは平民なんだけど王立学園の首席でとっても優秀なの。

だから特待生で通っていて、普通なら平民ではなれない外交官の試験も受かってしまう、凄い人。


少しだけ無愛想だけど本当は優しいの。

わたしはこう見えて一応侯爵令嬢なの。


婚約者はまだいない。


お父様にどうしても好きな人がいるからまだ婚約者は作りたくないと駄々を捏ねて10年が経った。


セザンとは幼い頃からの知り合いで大好きで、13歳の時にはわたしを救ってくれた王子様なの。

ずっとずっとセザンが好きで大好きすぎてお父様とお母様には「結婚するならセザンがいい」と言い続けてきた。


もちろん平民の彼と侯爵令嬢では結婚なんて無理なのはわかっているわ。

だけど、彼しかいらないの。

彼が結婚してくれないならわたしは修道女になるつもり。もちろんこれはセザンには言ってない。


だってそんなこと言ったら重荷になって無理矢理結婚するしかなくなるかもしれない。


わたしはセザンに好きになってもらって結婚したい。


今のところ10年間の片思いは実ることがないんだけど。


でもね、セザンの優秀さに、反対していた両親も「彼なら平民でも我が家の婿として受け入れられる」と快く承諾してくれているの。


セザンの両親と妹のマーガレットとも一緒にお茶をしたり食事をするくらい仲良しなの。


でもセザンだけはわたしに塩対応。


笑顔すら見せてくれない。


「……セザン、愛しているのに」


あとひと月、叶わない恋なら諦めて修道院へ行くつもり。

他の人と結婚なんて絶対にしたくない。

わたしのこの体の全てはセザンだけのものよ!


わたしが振られたらその時はお父様に頼んでいる。

養子をとってその子に侯爵家の後を継いでもらうつもり。


「はあ、セザンも大概腹を括ってダリアに捕まればいいのにね」

エリーがわたしに聞こえないように呟いた。



◇ ◇ ◇


「ねえ、あれ」

わたしとエリーが昼食を食堂で食べていると、エリーがジロジロとわたしの後ろを見ていた。


「どうしたの?」

振り返ろうとしたら

「ダメ!」

エリーが突然止めた。


「後ろにセザンが座っているの。……あれは…1年生のユリアンって言う平民の子……最近可愛いって男どもが騒いでいた子よ。なんでセザンと一緒にいるのかしら?」

エリーが一人でぶつぶつ言っているのをわたしは呆然と聞いていた。


ーーあの、セザンが女の子と一緒にいる?

どうして?わたしなんか一緒に食事をしたこともないのに。


振り返る勇気すらなくて、まだ手を付けていなかったAランチは本日そのままの状態でトレーを返却することになってしまった。


◇ ◇ ◇


「お腹が空いたわ」

放課後、馬車のお迎えをいつもより遅めに来てもらうように頼んでいた。

だからお腹が空いても屋敷に帰れない。


本当は放課後、セザンのところへ突撃して告白する予定だった。


でもさすがに女の子と二人でいたと聞いてしまい、会いに行けないでいる。


ーー会いたい


でもユリアン様といた理由は?って問い詰めてしまう。

ま、聞いても返事なんかあるわけないけど。


「仕方ない、図書室にでも行って時間を潰そう」


図書室に行くと一応わたしのお気に入りの席に座る。

そう、一応勉強が苦手だけど、図書室には来るのだ。

いつもはセザン会いたさになんだけどね、


ーーさすがに今日は会いたくない


そんなわたしの気持ちを知ってなのか、セザンは図書室にいなかった。


ーーよかった、もしユリアン様とご一緒する姿を見たらわたしはどうなるんだろう……


前回読みかけていた本を棚から取って、お気に入りの席に座り読み始めた。


しばらくすると、わたしの大好きな声が聞こえてきた。

ーーセザン……もう一人は、女の子?


「セザン様、ここがわからないんです」


「あ、これね、これは解き方があってこっちを……」


ユリアン様と二人で勉強をしているみたい。


セザンはこんなに優しい声で話すのね。

わたし以外の女の子に……


その姿を見たくなくて、席をこっそり立った。

ーー彼に気づかれませんように。


わたしは鞄をギュッと持ち、本を急いで棚に返した。


ガタッ‼︎


ーーしまった!鞄を勢いよく落としてしまった。


わたしは二人が座っている方を振り返ることができなくて、鞄を拾いそのままドアに向かい歩き出した。


ーー絶対あっちを向いてはダメ。自然に、気づいてないフリをして歩かなきゃ。


涙が出そうになりながら普通に歩く。

普通って何?

右足と左手を出すんだったよね?


頭の中がパニックになってる。

見たくない。セザンが他の子に優しくする姿なんて!


「あれ?ダリア」

ドアを開けようとした時目の前にいたのはバン・ガーナー侯爵令息だった。

わたしの幼馴染。


「バン!もう目の前にいるからびっくりするじゃない」


「どうしたの?慌てて」

ーーやっぱり慌ててるように見えるのね


「馬車のお迎えが来る時間になったから急いでいるの」


図書室の中にいるセザンに聞こえるようにわざとらしく言い訳をした。


「ふうん、じゃ、馬車乗り場まで送るよ」


「あら?親切ね、嬉しいわ」


バンと一緒に外に出て廊下を歩いた。


「何泣きそうな顔してるんだ、セザンが女の子といるのに気がついて逃げ出そうとしたんだろ?」


「だって、わたしにはあんな優しい態度をしたことない。セザンのあんな優しい声聞いたことない。

わたしってどれだけ嫌われているのか突きつけられたのよ?泣きそうにもなるわ」


「だったら諦めたらいいのに」


「……あと少しだけ頑張りたいの。駄目なら諦めて……」


「修道院だけは駄目だ。それなら他のことをすればいい」


「わたしはセザン以外と結婚なんてしたくない。セザンがわたしを愛してくれないならわたしは修道院で過ごすしかないの、他の人に触られるなんて絶対に嫌!」


「世の中にはいっぱい男はいるよ、それにダリアを愛している男も他にいるとは思わないの?」


「わたしなんか愛してくれる人なんていないわ、セザンなんかいつもわたしのことを冷たい目で見ているもの」


「だったら諦めればいいのに」


「あと少し。あと少ししたら諦めるわ」




バンは後ろを振り返って、廊下に立ちこっちを見ているセザンを見て溜息をついた。


ーーダリアは後ろを見てないから言うんだ。

俺と二人で出て行こうとした時のセザンの顔。

慌てて追いかけて立ち尽くすアイツ。

俺を睨んで、ダリアを切なそうに見ていた。

あれのどこがダリアを嫌ってるんだ。


あいつはいつもダリアの姿を探している。

だって俺もダリアの姿を探しているからわかるんだ。

なのにあいつはダリアに対して冷たい。


ダリアの気持ちを受け入れられないならダリアのこと目で追うな!

ダリアを泣かせるあいつになんか渡してやらない。









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