第二十五話
ヴァンは徹也達を見て驚いて、徹也達に声をかけた。
「ど、どうしてここに君達が……?そして何だこの状況は……?」
「……イノシシみたいな魔物が突然現れたんですよ。そんで逃げたんですけど、風に巻き込まれて……。幸い、先生達が助けてくれて無事でしたけど……」
ヴァンの問に、徹也がこう答えた。そんな徹也は、ヴァンを睨んでいた。これはヴァンが意図的にしたことだと分かっていたからだ。
「そ、そうか。すまない。その風は私が起こしたものだ。魔物を倒そうとしたのだが……。まさか巻き込んでいたとは……」
(……よく言うよ。間違いなく意図的に、俺達を崖に落とそうとしていたくせに……)
徹也はヴァンの言葉にそう思ったが、それを口に出すことはしない。徹也が何も言わずヴァンを睨んでいると、刀夜が前に出てヴァンと話し始めた。
「……本当に危なかったんですよ?無事だったから良かったものの……」
「……本当にすまない」
ヴァンは刀夜の言葉を聞くと、そう言って深々と頭を下げた。それを見た舞が、徹也の方まで来て徹也の腕に抱きついた。そして、顔を徹也の腕に埋める。
「……徹也君。私、怖いよ……」
「っ……!舞……」
舞は徹也の腕に顔を埋めて、怖がるようにそう言った。すると、治伽が徹也の所まで来てある提案をする。
「……今日はもう、王都に帰りませんか。流石に、これ以上は……精神的な面からしても、厳しいと思います」
治伽はチラリと舞を見て、そう伝えた。そう言った治伽の手は、少し震えていた。そんな治伽の言葉に、刀夜とクリスが頷く。
「私もそう思います。これ以上、生徒に無理はさせたくありません」
「団長。ご英断を」
刀夜とクリスがそう言うと、ヴァンは顔を苦々しくさせたが、すぐに元の表情に戻して返事をした。
「……ああ。分かっている。すぐに他の生徒を集め、王都に帰還しよう。他の生徒を連れてくる」
ヴァンはそう言うと、他の生徒を集める為にこの場から離れていく。その道中、チラリと徹也達の方を見て睨んだ。そして、そのまま去っていった。
徹也はヴァンに睨まれたことに気付き、睨み返した。ヴァンがこの場から去った後、徹也は息を吐いて治伽に舞、更に刀夜とクリスに語りかける。
「ふぅ……。上手くいきましたね。全部」
「ええ。完璧だったわ」
「そうですね。話の流れも、自然だったと思います」
「はい。ありがとうございました」
徹也の言葉に、刀夜とクリスが頷いてそう答えた。刀夜とクリスの答えに、徹也もまた頷いて礼を言う。そして、治伽と舞の方を向いて声をかけた。
「治伽と舞も、お疲れ。演技上手かったぞ」
「ふふっ。そう?それなら良かったわ」
「えへへっ。ありがとう徹也君!」
徹也に褒められた治伽と舞は嬉しそうにそう返事をした。治伽と舞は頑張って演技をしたので、褒められて嬉しかったのだ。
だが、徹也は一つ思っていることがあった。それは、舞の演技に関してである。
(まさか、舞がアドリブで俺の腕に抱きついてくるとは……。確かに、リアリティはでたかもしれないけど、俺が危なかったな。驚いて、反応してしまうところだったぞ……)
徹也は、舞がリアリティを上げる為にアドリブで抱きついてきたのだと考えていたが、舞の思いは違った。もちろんその理由も少しはあったが、舞はただ、徹也に抱きつきたかっただけなのである。
現にあの時、舞が徹也に抱きついて埋めていた顔は、とても幸せそうな顔であったのだ。好きな人に抱きつけて、幸せだったのだろう。
そんな舞の思いなど全く知らない徹也は、治伽から安否を問われる。
「……それより、徹也君は本当に大丈夫なの?怪我とかしてないわよね?」
「……ああ。大丈夫だ。何も問題ねえよ」
徹也は治伽にそういったが、実際は少し手に痛みを感じていた。だが、それほどでもないし、言うほどのことではないと徹也は考えたのだ。
「……そう。それならいいのだけど……。でも、対策バッチリだったわね」
「そうだね!流石は徹也君だよ!さすてつだよ!」
「……舞。お前、あのラノベ読んでたのか……。まあ確かに、今回は対策済みなことですんだな。よかったよ」
治伽と舞の言葉に徹也はそう答えた。今回は間違いなく、一ヶ月の間にした対策が活きた結果である。徹也がした対策が、上手く嵌ったのだ。
一体、徹也達はこの一ヶ月でどのような対策をしたのか。それは、一ヶ月前の時へと遡る――。
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