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「一生かけて、君を守る」と口にする王子に対し、私は「嘘つき」と言いたかった。【連載版】  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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3/5

3話 私は、選択を間違えていた

短編との大きな分岐は次話あたりからになります。

次話は9時過ぎに投稿予定です。

 お父様は、右肩から先の自由を失いました。

 私はそれを知っていました。

 知っていたのに、伝えませんでした。

 言い訳を連ねて、保身に走って、お父様の自由を奪ったのです。


「――っ!!」


 胸を引き裂いて、うちに湧き上がる黒い衝動をかきむしってしまいたい。逃げ場の無い熱量をどこかに捨ててしまいたい。

 それができずに胸の奥に抱えている。


 ――私のせいだ。私のせいなんだ。


『アイリスが気に病むことは無いわ。あれは事故よ。だれにも止められなかったの』

『私もアイリスも、命に別状はなかったんだ。それを一緒に、喜べないかい? アイリス』


 怯え、引きこもる私に、両親は優しく接してくれました。ただ、それだけのことが、私には、とても、とても――


 とても、辛かった。


 優しい言葉が、こんなにも心を抉るだなんて知らなかった。人に心配をかけているという自責の念が重くのしかかった。いつかこの優しさが枯れてしまうのがたまらなく恐ろしい。


 こんなことなら最初から、愛情なんて、知らなければよかった。


「……こんな日記なんて、無かったら」


 どれだけ気が楽になったでしょう。

 私のせいじゃない。

 ただそう思えれば、どれだけ救われたでしょう。


「うっ……ううっあああああ!!」


 開いたページを乱雑に握り、破る。

 破ったページをさらに引きちぎる。

 破り捨て、引き裂いて。

 済む事の無いと知って、気が済むまで、衝動に身を任せました。


 最後に残ったのは日記のガワ。


 私は部屋の窓を開くと、それを力の限り遠くへ放り捨てました。


(これでよかった。これでよかったんだよ)


 未来なんて、人が知っていいものではありません。

 きっと重圧に押しつぶされてしまうから。


「……ぇ」


 次の瞬間、私は自分の目を疑いました。


「……どうして、どうしてなのよ」


 私の目の前には、一冊の本がありました。

 分厚い背幅、ずっしりとした重量。

 16年の歴史の厚み、人の命の重み。

 その本の名は――


 【アカシックレコード】


 脳のどこかで、火花が散るような音がしました。

 ふつふつとした衝動が胃の底から湧いて出て、喉の渇きをいっそう強めます。


(ふざ、けないでよ)


 私が一体何をした。


「どうすればいいのよ! こんな未来を押し付けて、私に何をさせたいの! どうして私がこんな目にあわなければいけないの!!」


 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!


 私は何を呪えばいい。

 報われることのない我が未来か。

 実父を救わなかった己の愚かさか。

 生まれてきてすみませんとでも言えば満足か。


 否。


「……許さない」


 呪うとすればただ一つ。


「私をもてあそんだ運命を、私は決して許さない」




 ……ええ、認めましょう。


 私は呪われています。

 それも、特別厄介なタイプの呪いに。


 この本に書かれているのは私の生涯。

 私の人生の終着点は、予め決められていたのです。


 認めましょう、受け止めましょう。

 報われることのない婚約を。

 私が迎える死の結末を。


 ですが、そのうえで。


 否定してあげます、抗い続けてみせます。

 誰が運命の思惑(シナリオ)通りに動くものですか。レールの敷かれた未来なんて捻じ曲げてしまえばいい。


 運命が私をもてあそぶなら、私は運命をあざ笑いましょう。

 これは、戦争です。

 私がおとなしく引き下がるだなんて、思わないで。


 ずっしりと重たい、私の書。

 手に取り、今日までの軌跡をたどります。


 ――何もする気が起きない。

 ――このまま誰にも知られず朽ちてしまえばいいのに。早くゆるされたいのに。


 そんな未来、私は絶対に受け入れない。


 扉の先にあるのがイバラの道だとしても。


「アイリス……」


 私は、部屋を出ました。


「よく、よく顔を見せてくれたね。ああ、こんなに腕が細くなってしまって……」

「お父様、お母様、私、私……っ」

「辛かったのね、頑張ったのね……、アイリス、何も言わなくていいから、よく聞いてくださいね」


 お母様が私を抱きしめてくださいました。

 私の肩に雫が零れていきます。

 母の瞳からあふれたと思われるそれは。


「生きててくれて、ありがとう……っ!」


 とても、とても暖かかったです。


 私は、胸が締め付けられるようでした。

 何故って……。


 ――7月15日。

 ――断罪と称して、処刑される。

 ――行年 16歳。


 私は、選択を間違えていた。


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