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支援ロボット

作者: N(えぬ)

 マグレ博士は、ある資産家から育児を手助けしてくれるロボットの製作を依頼された。従来なら乳母を雇うとかベビーシッターもあるだろうが、そこをロボットでと言うのが現代的資産家らしいところだった。

「金額は少々掛かってもかまいませんの」

 奥さんはそう言った。この家は夫婦ともに会社経営など忙しく働いていたが、資産は、ほとんどこの奥さんの持ち物だった。

 更に奥さんは博士に言った。

「日ごろから、教育や倫理観、価値観その他のことを理想的なレベルで子どもに接してもらえるロボットが欲しいのです。それも、『私たちの代わり』では無くて、『私たちそのもの』として」


 博士は苦心してロボット製作に取り掛かり完成させた。

「奥さんの出産前になんとか出来た。が、いきなり使って大丈夫なものか、少し不安はあるな」

 博士は、その不安についても夫婦に説明した。主な発言は奥さんだったが。

「博士を信頼していますわ。もし何か不都合を感じたら、すぐにお知らせします」

 奥さんは口元を少し横にしめて博士に微笑んだ。

「そうしてください。私は定期的にロボットの点検に来ます。データを収集しながら、問題点がないか検討しながら進めます」


 奥さんは無事に出産し、女の子が生まれた。この夫婦の初めての子どもだ。本来なら、夫婦で手を尽くして育てるところだが、二人はとにかく仕事が忙しかった。子育てに手は抜きたくない、けれど仕事も変わらずしなければ……そういう願望を叶えるロボットを博士は頼まれたわけだった。

 ロボットは、留守がちの夫妻に代わって、母親に見た目、性格を真似、母として振る舞い、同様に父として娘に接した。このロボットの頭脳には、子育てに関する相当量の知識がデータとして蓄えられていて、あらゆる問題に自律して即座に対応した。

 娘にミルクを飲ませるとき、オムツを替えるとき、夜泣きをして困ったとき、病気が疑われたとき、もちろん遊ぶときも、どんな場面でも即座にロボットは事も無げに対応した。母として父として。そして、夫妻が帰宅すれば時を見計らって自然に入れ替わった。

 それについて博士は、

「完璧に対応していくのは、むしろよくないかも」と意見を言ったが、夫妻は「これでいい」と言って喜んでいた。


 娘はやがて大きくなっていく。歩くようになり、走るようになり。遊びも外に出ることが多くなった。それらもロボットは対応した。娘と手を繋ぎ公園へ行った。ボールを持って二人で走り回った。夜には寝る前に、いろいろな物語を語って聞かせた。本当の親子としか見えなかっただろう。ロボットのその完成度については博士も満足だった。



 やがて更に時が経った。博士は、もう「少女」と言っていいほどに成長した娘の家に行き、夫妻に通告した。

「そろそろ時が来たようです。ほら、クリスマスのサンタクロースが本当に居るのか父親なのか、子どもがその区別を身につけるように、「ロボットの両親」にも気づくでしょう。そうなる前にロボットを引き上げたいと思います」

 博士がそう言うと夫妻は納得した。

「今後は人間としての分別を彼女が自ら理解し、身につけていくでしょう。そうすれば、自分の両親が忙しくなかなか家に居られないとか、一緒に遊べないということも納得できるはずです」


 博士は銀色の金属の、素のままのロボットを従えて家の前で、

「では、これで」そう言って帰ろうとした。夫妻と娘は三人で外まで送ってくれた。娘にとっては初めて見るロボットの姿だったろう。彼女は少し不思議なものを見るような顔で母親の後ろに隠れて顔だけを出していた。

「では、みなさん、さようなら」

 ロボットがそう言って手を振った。すると、不意に少女はロボットに駆け寄り腰の辺りに抱きついた。

「もう来ないの?さようならロボットさん。この匂いを忘れないわ」

「しまった、匂いか……いつから知っていたんだい」

 博士は苦笑いを浮かべた。




タイトル「支援ロボット」

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