共食い整備屋
課題制作の作品です。
お題は、大統領・カニバリズム・幼女
カニバリズムは犯罪行為です。
笑顔を振りまく七十二代目大統領が背景のポスターには、赤い色ででかでかとそう書かれ、誰に省みられることもないまま、半分剥がれかけていた。
スラムの路地にこんなもの貼ったって、なんの抑止力にもなりゃしない。
とはいえこれを故意に剥がすと、場合によっては逮捕されてしまうので、誰もが勝手に剥がれるのを待っている。
そのポスターの真下に敷布を敷き、上に商品を並べた。
今回出品するのは左腕の肘関節パーツ。腕旋回動作用モーターと腕前後動作用モーター。腕旋回動作用減速機と腕前後動作用減速機。
これがひとセットまとまっているのは結構レア。
かなり神経を使って解体した。
良い具合で残っていたし、成人女性型とはいえ年代的にかなり新しい代物で、部品が思いの外小さかったから。
フォトンに利用できればと気合を入れて、細心の注意を払って解体したのに……結局大きすぎた。
やっぱり幼児型パーツじゃないと無理か……だけどほんとあれは集まらないんだよな……。
手首のパーツもあったのだけど、肘パーツが使えない以上、こちらも使えない。そこで僕のやる気も失せてしまって、解体作業は後日に回された。だから本日の売り物は肘関節の四品のみ。
女性型・二八〇三年製
品番・FS-SMA……後半は解読不能
情報求む
幼児型機体・特に幼女型に関して
調べられた型番と僕の欲しいものを適当な木材に記して、パーツの前に置き、傍らのバックパックに小声で話し掛けた。
「フォトン、近付いてきたら教えて」
「了解パパ。今日モ、オ仕事頑張ッテ」
その言葉に口元が綻ぶ。プログラムは正常反応。
もう妹と言うには年齢が離れすぎてしまったし、ついパパと呼ぶように言ってしまったけれど、これはこれでまぁ、あれだけど……。
頑張れったって、正直ここからはボーッと座っていれば良い。
通りを歩く人を眺めつつ、誰かが品に興味を持つのを待つだけ。
運が良ければ買い手が付くし、悪ければ持ち帰る。三時間やってみて動かなければ、今日は諦めて盗掘屋巡り。
前時代、ここはそこそこな繁華街で、賑わいある場所であったそう。
更に二千年以上前は首都であったらしく、それ以後も都として栄え、遺跡都市だなんて言われた時期もあったとか。
まぁ、そんな栄光も、今は見る影もない。道の舗装はバキバキに剥がれ、建造物もとっくの昔に半分は瓦解した。遺物も漁り尽くされて、掘り出し物も少なくなった。
そして今のここはただのスラムで、闇市なんて開かれている場末になり下がっている。
そんな場所に住んでいる僕。
幼い頃から父の手伝いをしてきた。だから父が亡くなる前に、機械人形整備の技術は全て習得することができた。
今はその技術を利用し、スクラップから良品を見つけ出すことで生計を立てている。
盗掘屋が塵と見なした物からも、僕は価値ある物を見つけ出せる。
今回の左腕だって、解体のできない彼らには宝の持ち腐れで、僕に売り込んできたから、買い取った。
少々高かったけれど……煩わしいけれど……彼らとの縁は必要。
幼女型機体のパーツならば、五倍で買うと伝えておいたから、もし見つければ持ってくるだろう。
……望み薄なのは分かってる。
機械人形の幼児型は、全てがオーダーメイド。小柄な機体は労働向きではない。だから全てが愛玩用の嗜好品。
部品一つ一つを本当に小さくしなきゃならないから、金に糸目をつけない金持ちしか、持つことができなかった。
そんな中でも幼女型って、ほんと性癖どうなってんのと言いたくなるような……まぁ……よろしくない目的のものが多かった……らしい。
もう百年そこらも前の話だから、実際のところは知らないけどね。
たとえ見つけることができても、その部品が使える保証は無い。それぞれの機体の相互性も低いから。
それでも手に入れたい。そうすれば、フォトンは自分で動けるようになる。
そうすれば……。
僕の孤独は、癒される……。
あと左腕と、左足……。
「ええっ、嘘、左肘パーツ全部揃ってんの⁉︎」
そんな歓喜の声で我に返ったら、いつの間にやら目の前に、薄汚れた外套を纏った男が蹲っていた。
地べたに膝をつき、食らいつく勢いでパーツを覗き込んでいる。
「二八〇三年製⁉︎ まだ残ってたんだ⁉︎ こんな良い状態で⁉︎」
「お兄さんお目が高いね。正直、かなりのレアものだよ」
お兄さん……だよな? 声若いし……、テンションも高いし。
嫌々ながらそう声を掛けると、その人はパッと顔を上げた。
キラキラと瞳を輝かせ、満面の笑顔。この殺伐とした時代に平和そうな顔してんね……。
「ほんとそれな! で、値段書いてないけど?」
「全部で二百万」
「に……二百万⁉︎」
「幼女型の情報があれば二割引。部品があれば交換で譲る」
そう言ったのだけど、お兄さんは聞いていない様子。必死の形相で高すぎると反論が来た。
「これひとつずつだと十万しないだろ⁉︎」
「前半部分だけとはいえ型番付きで、相互性も確認済み。部品四つが確実に合わせられて動く。高くないよね」
そう返すと、グッと言葉に詰まった。
ね。決して高くない。年代が添い、同じ型番の部品を揃えるなんて、もうほとんど無理とも言える。
年代が近ければまだ可能性はあるけれど、五年離れれば相互性は失われている。せっかく買った部品もただのガラクタになる。
「……そ、そうは言っても、保証なんて無いじゃん……」
「そこはもう信用してもらう以外どうしようもないよね。お互い初対面だしさ。
だけど、組めばちゃんと肘に収まるって見れば分かるでしょ? 僕だって自信も無いのにこんな値段は付けない」
値段なんて書いてたら、強盗に襲われる。お宝だって吹聴するのは馬鹿のすることだ。
僕みたいな、一見子供に見える者が売ってるのは、どうせガラクタ。そう思われるから、かえって安全。
「いらないならいい。他を探して」
「ま、待った!」
あっさりと商談を終えようとした僕の袖を掴むお兄さん。
「…………か、買う。買うけど、ちょっとだけサービスして?」
「は? 二百万一括以外無し。それとも何か有用な部品なり、情報を持ってるの?」
幼女型機体についての情報がある。なんて言う奴は結構いる。
少しでも安く買いたくて、でたらめを口にする。だけど、嘘はフォトンが見破る。
「や、違う。そうじゃなくて!
これだけ良い状態のパーツを扱ってるってことは、解体屋か、整備屋にツテがあるよな。その人を紹介してほしい」
は?
「お兄さん……そこの張り紙、目に入ってないの?」
共食い整備は、厳しく取り締まられている。
こうしてパーツを売っていることも、当然取り締まりの対象。
なのに、解体や整備を生業にしている人を教えろって、馬鹿ですか?
それに、客として品を買い、信用を得てから巣を襲撃……なんてことも多々ある昨今。
初対面の人間を紹介するわけがない。
「そう言わず頼む! これが手に入っても使えなきゃ意味ないんだよ〜」
「じゃあ合法な場所にお願いしたら?」
「都に闇市の品持ち込めるわけないだろ⁉︎」
それこそ知らないよ。
「じゃあ正規で探したら」
「無いから飛びついたんじゃん!」
うわっ、汚い格好してるのにこの人、都の人か。ヤバっ。
「帰って。はい、さようなら」
「えっ⁉︎ 売ってくれないの⁉︎」
「気が変わった。売らない。帰って」
「ちょっ、待って待って! に、二百五十出すから! 情報込みで!」
「いらない。売らない。帰って」
「待ってってば!」
バックパックを背負い、敷物の四隅を集めて掴んで、逃げる算段を始めても、お兄さんは食い下がってきた。
売らないって言ってるじゃん、しつこいな⁉︎
これはもう、撃退するしかないかと、ポケットのスタンガンを確認した時だ。
「パパ、前方三十七メートル、左手路地カラ官憲反応」
フォトンの声。
『官憲⁉︎』
お兄さんと被った。
「ど、どこから声⁉︎ パパって誰⁉︎」
「ちょ、手を離してくれない⁉︎」
「買うって言ってるじゃん!」
「今売れる状態じゃないよね⁉︎」
捕まったら最後だって分かってるのかな⁉︎
「パパ、視界範囲内マデ残リ五メートル」
「パパってお前⁉︎」
「今それどころじゃない!」
そう言って、腕を振りほどこうとしたら、ガシッと腰を掴まれた。
「分かった! 見つかんない所で話そう!」
は⁉︎
そして、返事をする前に圧……っ⁉︎
何でか、空に、空に、投げ…………っ⁉︎
投げられた⁉︎
上空高く、まだ上昇している僕の眼下で、お兄さんがぐっと沈み込み跳躍。あっという間に目の前に迫ってきて、ガシッと僕を掴み、口を押さえ⁉︎
「はい。叫んじゃ駄目。見つかるから」
かしいだ元二十階建ての廃墟の壁を蹴り、更に上空へと跳躍する時の衝撃。
初体験するGに負けて、吐いた。
◆
「嘘でしょ……何その身体……」
「ほらね? こんなだもん。官憲に見つかったらやばいんだって。
それで俺の左肘、今ちょっと調子悪くてさ。
別に普通に使えるんだけど……なんかちょっとタイムラグ出るし、たまに力加減間違うんだよ。それで部品を交換したくて。
さっきだってあそこまで投げ上げるつもりなかったんだよなぁ」
廃墟の上でお兄さんはそう言った。
いや……お兄さんと言って良いのか? だって身体……両手両足が、機械って……。
「…………お兄さん、嵌合体?」
「いや、俺のこれは義手と義足。自前の手足は事故で失くしちゃったんだよね。
それを爺さんが見兼ねて、設えてくれたんだけど、やっぱり砂埃とかには弱いみたいで……」
「そりゃそうでしょ⁉︎ なんで生体皮膚で覆ってないんだよ⁉︎」
「高くつくから」
さらっと言われ、いや、あんた都の金持ちじゃないの⁉︎ と、思った。二百万を即金で払うって言えるくせに。
「下手したら一週間かそこらで破れるんだよね〜」
「何したらそんなことになるんだよ⁉︎」
「あ、俺ね、冒険家なの。で、ちょっと探し物してて、森とか山とか行くし、廃墟とかでも立ち入り禁止の場所入ったりするし、そうしたらあっという間に引っ掛けて剥がれて……」
「あんたやっぱり馬鹿だよね⁉︎ 都で暮らす金あったらそんな場所行く必要ないよね⁉︎」
都は、一部の選ばれた血筋だけが住める、前時代の残り香を掻き集めた場所。共食い整備を許された特別区域。
下界の僕たちが前時代の遺物を利用することは犯罪で、都人にとっては当然の権利。
盗掘屋も本来は都に品を卸すのだけど、あそこは最近買い渋りが酷いらしい。金にならないと、僕みたいに都より高値で買い取ってくれる相手を探している。
それはそうだと思う。
前時代が滅んで百年も経てば、物も劣化するし、使われたものは減っていく。良い品は少なくなって当然。
だけどあそこの人たちは、まだ沢山埋まっている。いくらでも次がある。そんな風に思っている……。
「あるよ。だって百年、変わってないんだよね、俺たちの生活。それまずいでしょ?
もういい加減理解して、前時代にしがみついてられないって考えなきゃヤバいじゃん」
なのにきっぱりとそう……否定されて、言葉が続かなかった。
「もう滅んだんだよ、前時代は。
だから、もう一回初めから。全部が塵になる前に、足場から組み直さなきゃ駄目なんだよ。
それはああして、前の文明にしがみついてることじゃない。
木を切って家を建て、鉄を打って農具を作る。そこからじゃん。
実際都は全く進んでないけど、下界は進んだ。全時代の物が無くても生きて、作ってる。
だから俺もそっち側に立ちたいと思って。それで探し物をね。
あ、丁度良いや。これ、見てもらえる? この場所探してるんだよね」
そう言い懐から取り出した紙。
広げられたそれは……雑な手書きの地図……。
「……これで何が分かるっていうの……」
「あれ? この辺だと思ったんだけどなぁ。地形似てない?」
「どこが? こんな場所に山はないし、泉の位置もずれてる。そもそも位置関係的に都がここって変でしょ」
「あ、縮尺はズレてると思う。手書きで写したし……」
「じゃあ余計これで何を見ろっていうの⁉︎」
ズレてたら駄目なのかぁ……と、お兄さんはしょぼんと項垂れる。……冒険家って嘘だよね?
「嘘じゃないよ。まぁ名乗り出したの最近だし、まだ見習いかも……」
「師も無しに見習いとか言わないからね⁉︎ それは素人って言うんだよ!……で、何探してんの」
「えっとねぇ……」
うわ、こいつ警戒心無しになんでも口にするな。
カマをかけたつもりであったのに、お兄さんはあっさりと目的まで吐いた。
「タイムカプセル」
「……はぁ?」
「俺の爺さんの曾祖父さんって人がさぁ、大戦の時代の人なんだよね。
その時、この戦争は絶対にこれで終わらないし、今後兵器を出し尽くすような戦争になって、共倒れするって考えたらしくって、そうなった時の後世の人のためにって、資料庫を作って封印したんだってさ。
それがタイムカプセル。そこに、人の手で物を作ったりするための資料本が詰め込まれてるって。しかも媒体とかデータとかじゃなく、本」
「……本⁉︎」
「そう! 凄いだろ? 電気とか媒体とかもなくなるの想定して、アナログ品で、アナログな品の資料集めたんだって。
それが爺さんの遺言書から出てきて……じゃあ俺がその意思を継ぐかぁって、思い立ってさ。
俺、手足こんなだけど、これのおかげで人より色々なことできるわけで、それを活かさなきゃさ。これがあるうちに!」
ニカって笑うお兄さん。そうは言うけど……それ……。
「そんな便利なもんじゃないよね? さっき物凄いGだったし……体の負荷も結構なもんでしょ?」
「そこは慣れてるし平気」
なんでもない風に言うお兄さん。
……だけどこの人の言葉は信用ならないなと思った。だから……。
「フォトン、スキャンして……」
「スキャン。……体表面二多数ノ毛細血管破裂ヲ確認」
「うわっ、さっきの声⁉︎」
「明日は全身痣でまだらだよね。さっきの跳躍だけでそうなるのなら、冒険なんて無理だと思うよ」
「ねぇ、さっきから声、そのバックパックからじゃん? 見せて? すっごい可愛い声でパパって!」
「聞いてる⁉︎」
なんかこの人……子供っぽいな……。
全然落ち着きないし、人の話聞いてないし……。
「信用ない人にフォトンは見せない……」
「こんだけ声聞かせておいて?」
「………………っ、フォトン……」
バックパックの口を緩めたら、中から幼女の右手が出てきて、自分でバックパックの口を引き下げて、フォトンが顔を出した。
「コンニチハ、私ハフォトン」
「かっけぇ! しかも可愛いっ! はじめまして!」
……ほんとバカだ……。
フォトンに驚くよりも興奮してるし……全然、動く機械人形見る目じゃないし……。まるで人対応って感じだ……。
幼女型機械人形のフォトンは、腕と足が片方無い。父と僕でここまで修復したけれど、父が亡くなってから、部品の調達もままならず、ずっとこのまま……。
顔は生体皮膚で覆って植毛も施したし、可愛いと思うけれど……手足が欠損していること、なんとも思わないのかな……。
「え? 俺も欠損してるしね?」
「…………そうだった」
「そっかー。分かった、さっきの部品、君のためのやつかー。
君、幼女型の中でも特別小さいし、部品なかなか見つかんないんだ」
「そう。だから五歳くらいまでの機体の情報があったら持ってきてくれると嬉し……」
「分かった。色々出歩くし見つけたら買い取っとく!」
なんとなく疲れて、あぁ、そう……。って、生返事。
バカだよね。買い取っとくって、安くないんだよ、幼児機体は……。
「大丈夫! 金だけはそれなりにあるし」
「じゃあ自分の腕や足をスキンで覆いなよ⁉︎ そうすれば官憲にだって追われないよね⁉︎」
「俺の体裁整えることに使う金じゃないもん。これは爺さんが、開拓のために使えって」
「開拓ぅ⁉︎」
「そう。タイムカプセルを発見できたら、村を作るつもり。
そこで、原始的な生活ってやつを、いちから構築する。
原始的って言うけどさ、それができないで前時代の文明は維持できないと思うんだよね。石垣と同じ。底からきちんと、積み上げなきゃ」
その言葉に、何故かドキリとしてしまった。
手足機械で、本当なら寝てることしかできない人間のする顔じゃない。とても真剣だけど、楽しそうな笑顔だったから。
「もう部品もほんと出回ってないしさ、俺の手足、寿命が来たら、動けない生活になっちゃうから、それまでになんとかしたいんだよね。
だからさ、お願い! それ売ってほしいっ。ついでに情報も! いくらなら売ってくれる⁉︎」
「今開拓のための金って言ったよね……」
「開拓のためじゃん!」
「パパ、意地悪。コノ子可愛ソウ」
「フォトンやっさしい!」
……フォトンは、汗や視線の動き、血流の流れなんかまでスキャンして、その人が嘘を言ってるかどうかを見抜く。
「もうひとつ、聞いていい?
なんで、タイムカプセルを探すの? 誰かに託すとかじゃなく、自分でするの」
「これの価値は理解してるつもり。下手な人に託して悪用させたらいけない貴重なものだ」
「そうじゃなく……なんで、君がその手足でそれをするのかって……」
動かなくなったら、寝たきりになるんだろう? なのに、なんで身を削るのって、意味だよ……。
だけど、それを口にするのは怖くて、つい言い淀んでしまった。
「その方がきっと、みんな楽しいからだよ!」
でも、僕の思ったことはそのまま伝わってしまっていて……それでもニカリと笑って、そう言い切った。
「目標があれば、人は前を向ける。ちゃんと進めるからねっ。都の人も、きっとそうじゃん?」
……僕にとっての目標は、フォトンだけだった。
フォトンをなんとか五体満足な形にする。それに縋って、今を生きてきた。
父と二人でやっていたことに、しがみついた。
だけどフォトンが修復されたら、僕のやることはなくなる……。漠然とした、そんな恐怖が常に、腹の底に溜まっていた。
父が亡くなった……。僕一人になった……。フォトンがいなきゃ、僕は独りだ……。
孤独は耐えられない……。
だけど、隣人なんて信用できなくて、通報される恐怖に抗えなくて、いろんなことを、隠して……。
「……売っても良いけど……その前に確認させて。
それ、寿命じゃなくて隙間に砂やらなんやら詰まってるだけだと思う。動いてるし。メンテナンスすれば普通にまだ使えると思うけど」
「えっ?」
「整備いつからしてないの?」
「…………半年くらい前?」
「それ当然誤作動起こすよね⁉︎ スキンしてないなら当然だよね⁉︎ スキンいるでしょ⁉︎ その上でプロテクターとかで覆えば良くない⁉︎」
「そんなことできるんだ」
「いや、普通、思い付かない⁉︎」
はぁっ、と、溜息が溢れた。この人駄目だ……。これじゃ絶対目標達成前にどっかで誤作動起こして動けなくなる……。
そんなのは駄目だ……。そういうのは、嫌だ。
希望が無いのは……もう、たくさん。
「分かった。じゃあこうしよう。
まずはメンテナンス。次にスキン。その上でプロテクター用意するから、全部合わせて三百八十万!
で、ふた月に一度は定期報告とメンテナンス! こっちが十万!
フォトンの部品持ってきてくれたらそれはその都度買い取る。どの部品でも。君の腕や足の予備品も僕が集めて管理しとくから、僕を君のサポーターとして契約して。
特別に契約費用はメンテナンス費に含めてあげる。それならお互いwin-winだと思う」
「は?」
「…………だから、僕が、整備屋だって言ってるの!」
「そんなちっこいのに⁉︎」
「僕は二十七だよ!」
叫んだら、呆然と見下ろしてくるお兄さん……。
こんな小さいのが整備屋なんて信じられないとかそういうこと⁉︎
だけど彼の驚きはそこじゃなく……。
「俺より十二も年上⁉︎」
「……十五⁉︎」
しばらくお互い、現実を受け止めるのに、結構時間を食った。