第2話 どくばりで金的?
「や〜め〜ろ〜!」
オークの王、オーク・ザ・ラットは、その太い指でどくばりを持ち、俺をブスブスと刺してきた。ただ、あれだけ指が太いと、どくばりも先端しか出てないから、どちらかと言うとチクチク、という感じだ。どこを刺されてもダメージは1しか受けないし、急所を突いての会心の一撃も俺には無効だから何ともないが、地味に痛い。
「クソっ! オマエ、急所はどこだ?」
「そんなこと聞かれて答えるか、普通?」
「こうなったら、全てのオスの急所を」
「はぁ?」
「男としてこれだけは止めておいてやろうと思ったが」
ちょ、まっ! オークの王様、俺の股を見てるけど何考えてるんだよ。
「おい、大人しく股を開け!」
「いや、別に開く必要はないだろ?」
ってか、どうして赤くなりながら息を荒くしてんだ。コイツもしかしてモーホーなのか?
「オマエたち! 勇者デコピンを押さえろ!」
「や〜め〜れ〜!」
いくら桁外れのHPや防御力があっても、大勢のオークに押さえつけられれば、さすがに身動きが取れない。これは盲点だったよ。体力依存の会心の一撃は攻撃する時のみで、腕力自体は普通の人間となんら変わりはない。つまりオーク相手では、俺はまったくの非力と言ってよかった。
「よし! 足を開かせろ」
「よせよせ、よせってば!」
「黙れデコピン! 今度こそ本当に葬ってやる!」
「いや、チ○コにどくばりって、えげつなさ過ぎるだろ?」
「オマエがさっさとくたばらないからだ!」
「お、おい、やめろって! 自分がされたらどうよ!」
「自分が……されたら……?」
お、何かちょっと悩んでるぞ。もしかしたらコイツら、根はいいヤツらなのかも知れない。
だがそう思ったのも束の間、どうやら俺の大きな勘違いだったようだ。王どころか、俺を押さえつけている他のオークたちまで、頬を赤く染め始めた。ちょっと待て、オークってのは皆が皆、そっちの気があるっていうのかよ。
「ど、どくばりは困るけど、普通の針なら……」
「はいぃ?」
「されてみたいかも……」
「いや、何を言って……」
「もう、普通の刺激じゃ満足出来ない……」
マジかよ。これはまさに絶体絶命だ。今狙われているのは男のシンボル、金的だ。死にはしないだろうが、地味に痛いどころじゃ済まされないぞ。
「や、やめよう。やめようよ、な?」
「見ろ! 勇者デコピンが震え上がっているぞ」
いや、俺じゃなくても震え上がるって。
「しっかりと、押さえつけていろよ」
「待てってば!」
どうしたらいい。どうしたらこの危機的状況から抜け出すことが出来る?
どくばりの先端は、すでに見境をなくしたオークの王によって、刻一刻と俺の大事な部分に迫ってきている。鼻息荒いし。
その時、俺はふと閃いた。そうだ、その手があった。
「ちちんぷいぷい!」
「アチッ。何だあ? 松明の火の粉でも飛んできたか?」
「ちちんぷいぷい!」
「アッチいなあ。おい! 松明を振り回してる奴でもいるのか?」
早くしてくれ!
「ちちんぷいぷい!」
3回目の呪文を唱えた時だった。俺を取り囲むオークたちの頭上に、巨大な火の玉が出現したのである。ちなみに、前の2回は攻撃力2に見合ったものだったようだ。
「ギャーッ!」
「熱い! 熱い!」
「グヘェッ!」
俺がイメージしたもの、それはまさしく火の玉。ラノベなんかにお決まりのように出てくる、ファイアボールの大きめのやつだ。この状況で上から降らせたら俺も巻き添えを喰うのは必至である。しかし、防御力が1億もあれば、せいぜい軽い火傷を負うくらいで済むに違いない。それにしても、思った通り、魔法も確率でHP依存の攻撃力が出るというわけだ。てか、デカ過ぎないか?
いや、ちょっと待て。あれ、マジでデカいなんてレベルじゃないぞ。球体のはずなのに平面にしか見えないし。これじゃオークだけではなく、この洞窟みたいなところまで根こそぎ崩壊させちまうぞ。
その時にはすでに、俺は体の自由を取り戻していた。この体を押さえつけていたオークたちが、慌てふためいて逃げ出していたからである。しかし、火の玉の巨体さは、足で逃げられるようなものではない。
さすがにあれの下敷きになったら、俺も抜け出せる気がしない。どうやったら切り抜けられるだろうか。だが、すぐに俺は妙案を思いつく。そうか、その手があったか。よし、ここはひとつ!
「ちちんぷ……」
いや待てよ。ただこの場所から魔法で逃げるだけでは能がない。どうせなら――
「よし! ちちんぷいぷい!」
王も含めたオークたちが火の玉の下敷きになっていく中、俺の姿はその場からすっと消えるのだった。
本当に呪文って、なんでもいいんだな。
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