第1話 はずれメタルの剣?
「ここは……」
うっすらと開いた俺の目には、松明を掲げて奇声を上げる、複数の奇妙な形の人影が映っていた。全身が緑色の筋肉質の巨体に、腰に巻いたボロ布。
『オーク? あ、そっか、そう言うことか』
俺はゆっくりと体を起こす。そして、そこで初めて自分の着ている物が血まみれなのに気づいた。だが、どこにも怪我を負っている様子はない。
「なんじゃ、こりゃぁ!」
「グッ?」
そんな俺の声に、オークたちはギョッとした目を向けてきた。もちろん、奇声は止んでいる。
「オマエ、何故生きている?」
「は?」
「頭をかち割り、骨を砕き、内臓は破裂させたはずだぞ」
「そうなの?」
俺が転生したこの体、そんな酷い目に遭わされたのか。
「勇者デコピン、オマエは仲間を殺しすぎた。だから仕返しに……」
「で、デコピン?」
ちっとも強そうな名前じゃないぞ。それに恥ずかしい。でもって魔王とかにやられたならいざ知らず、オークに負ける勇者ってどうなのよ。
「まあいいや。で?」
「我が名はオーク・ザ・ラット。オマエを殺して仲間の仇を取り、魔王様に捧げると誓ったオークの王だ!」
ラットって、ネズミかよ。似たような名前のゲームがあった気もするが。ところでその魔王、今はアンタらが知っているのとは別人になってるぞ。
「いや、別にアンタの名前なんかどうでもいいよ。にしても、魔王ねえ」
「ま、魔王様を侮辱するか!」
「ああ、悪い。こっちのこと。それでどうするんだ? もう一度俺を殺すのか?」
「当然だ! かかれ!」
うっはぁ、大迫力だよ。見たところ俺の2倍くらいありそうな巨体が、大きな棍棒を持って襲いかかってくるんだから。
そんなものでボカスカ殴られれば、とてもじゃないが人間なんて一溜まりもないだろう。しかし、俺の体はどれだけ殴られてもほとんど傷付かず、大して痛みも感じなかった。
それからどれくらい殴られ続けただろうか。オークたちの息が上がって攻撃が止んだところで、俺はゆっくりと立ち上がった。
「終わりか?」
「ど、どうして……?」
「オークの王とか言ったな。アンタ、HPどれくらいだ?」
「自分で見ればいいだろう!」
「ふむふむ、HPは10万で攻撃力は1万、防御力は5千か。こりゃ凄いのか?」
「決まっている! 我々オークのHP平均は1万、多い者でも5万には届かない」
「ふーん。ついでにコイツらの攻撃力と防御力はどうなんだ?」
「何故そんなことを聞く!?」
「いや、ちょっと知りたいだけだよ」
「聞いて驚くなよ。ここにいる者たちの攻撃力は3千、防御力は2千だ!」
「そ、ありがと。ところでアンタ、俺のステータス見られる?」
「そんなものとっくに見た。勇者デコピンのHPは50万、攻撃力は2万、防御力は1万だった!」
驚いた。勇者って言ってもそんなもんだったのか。HPはそこそこだとしても、防御力がやけに低いように思う。確かにアターナー様から聞いた普通の人間の数値と比べたら高い。でも、そんなんじゃ相手がオークとはいえ、囲まれてタコ殴りにされればお終いだろう。自動回復みたいな能力があったとしても、殺されたと言うのは納得出来る。
だが、今の俺は違う。
「まあいいから、もう一度見てみなよ」
「ふん! 生き返って少しは高くなったとでも言うのか? え……HP99999086に……防御力……1億だと!?」
「ああ、それね、アンタらがさっきボカスカ殴ってくれたお陰で、HPがちょっとだけ減ってるだろ? そっちも満タンで1億だよ」
「な、なんだこのステータスは!」
「ちなみに言うと、アンタらの攻撃力がいくら高くても、俺が1度の攻撃で受けるダメージは1だ。だから俺はアンタらに合計で914回殴られたことになる」
「ん? 攻撃力が……2……?」
オークの王が、俺の攻撃力を見てニヤリと笑う。
「それな。色々あって俺さあ、HPと防御力はバカみたいに高いんだけど、攻撃力がめちゃくちゃ低いのよ」
「と言うことは、オマエには魔王様どころか、我々も倒せない」
「ま、普通に考えればそうだろうな」
「普通に考えれば?」
そこで俺は、一番近くにいたオークを一発殴ってみる。案の定、ソイツはダメージを受けずに、ヘラヘラと笑っていた。
「痛くもかゆくもないだろう?」
「ラット王、勇者デコピンの言う通り、なんでもありやせんぜ!」
「だが、な」
「ひ、ひぶで〜!」
次の瞬間だ。俺が2回目のパンチを放つと、周囲に破裂音が響き、緑色の血飛沫が飛び散った。そしてオークの姿は、その一瞬で跡形もなく消えていたのである。
「な、何をした!」
「殺した。アンタらも俺を殺したって言ってたし、文句はねえよな?」
「何故だっ! 何故攻撃力2しかないオマエが一撃で……?」
「実はな、ほぼ3回に1回、俺の攻撃力はHP依存で跳ね上がるのさ。もっとも確率の問題だから、何発目にそうなるのかは俺にも分からん。現に今は2回目で出たし。しかし、アンタらに俺は殺せず、俺はアンタらを殺せる。この意味は分かるよな?」
元々緑色の肌だから予想でしかないが、オークの王の顔は青ざめているはずだ。その証拠に脂汗をかいて後退っている。だが、それも一瞬のことで、すぐに彼は何かを思いついたようだ。
「そ、そうだ! アレを持ってこい!」
「アレ? アレって何だ?」
「昔、はずれメタルって魔物がいやがったのを思い出したんだ」
「はずれメタル?」
またドロクエかよ。
「そのはずれメタルも、どんな攻撃を仕掛けられてもHPは1しか削れなかった」
「しかも逃げ足が早かったってか?」
「そ、そうだ。オマエもはずれメタルを知っているのか?」
「まあ、そんなところだ」
「だが、ソイツを倒して造った剣は、我々にとって最高の装飾品だった」
はずれメタルの剣ってヤツか。やっぱりドロクエじゃねえか。あれ、でもちょっと待てよ。
「装飾品って、武器じゃねえの?」
「何を言う! 我々の武器は、この棍棒だ!」
「そ、そうかい。それで?」
「そんなはずれメタルだが、稀に一撃で倒せることがあった」
そしてオーク・ザ・ラットが別のオークから手渡されたもの、それは確かにはずれメタルを一撃で仕留められる攻撃力1の武器、どくばりだった。
「人間共の武器屋でわざわざ金を出して買ったものだ。これでオマエの急所を刺せばどうなるか。クックックッ、分かるよな?」
「いやいやいや、ちょっと待てよ。オークがどくばりって……」
絵的には笑えるが、そんなものでブスブス刺されるのは気分的によくない。だが、俺の表情を見たオークの王は、勝機を得たように口元に笑みを浮かべるのだった。コイツ、何か勘違いしてるよ。
でもって笑ってるけどそれ、俺には効かないから。
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