第4話 転生?
「それは、相手の防御力、属性無視で、HP依存の会心の一撃。出現確率は1/3」
「はい?」
「3回に1回の割合で、会心の一撃を出せるようですよ。こんなRがあったんですね」
女神アターナー様も不思議そうな表情を見せている。いや、待て待て。それって何だかめちゃくちゃ凄くないか?
俺のHPは、最高ランクのSSRを引いたお陰で1億だ。その桁外れなHP依存の会心の一撃が、1/3の確率で繰り出せると言う。まさに最強じゃね?
「きっと設定ミスでしょうね。でもHPのSSRはなかなか出ませんし、それと被って引くのは本当に珍しいと言うか……」
「そうなんですか?」
「だいたいHPは、相当運がよくてSRの10万。普通はRの1万か、Nの補正なしですから」
Nは補正なしなのか。
「あ、今運営から修正が入るって連絡がありました」
「う、運営?」
「今後これのレアリティはSSRになるそうです」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! それじゃ俺は……?」
「安心して下さい。遥人さんの引いたRはそのまま、回収も修正もないそうです」
「よかったぁ」
「それにしても、10連で実質SSRを3つ引いたことになりますね。驚きです!」
「俺もですよ。攻撃力が2って聞いた時には落ち込みましたけど」
「そう言えば、遥人さんは強さが欲しかったんでしたっけ?」
「はい。ガキの頃、友達をいじめっ子から助けてやれなかったことがあったんで」
小学生の時、たまたまテレビで観たボクシングの試合で、ボクサーの強さとタフさに憧れたものだ。しかし、病弱だったせいでボクサーになるという夢は、諦めざるを得なかったのである。
そんな強さが異世界転生を機に、形は違えど手に入ることになろうとは。
「アターナー様には感謝しかありません」
「私はただ、遥人さんの応援をしていただけですよ。それにこのガチャシステムを開発したのはエルピスですし」
言われてみれば、あのバカ女神がレアリティの設定をミスってくれたお陰だ。
「そのエルピスですけど、どうやらミスの代償として格下げされるみたいですね」
「女神が格下げ、ですか?」
「はい」
「どうなるんです?」
「遥人さんの行く世界の……」
「俺の行く世界の?」
「魔王です」
「はい〜?」
負ける気はしませんけど。
「め、女神からいきなり魔王、ですか?」
「まあ、魔王と言ってもあの世界では……あ、これは遥人さんがご自分で確かめられた方がいいですね」
「いや、分かってるなら教えて下さいよ」
「そんなことより」
そんなことって。
「遥人さんは、赤ん坊から始めるのは面倒と言われたようですね。それと、可愛いお姫様と仲良くなりたいとも」
「ええ、まあ。あれ? そう言えばアターナー様は何故それを?」
「テロップのログに残ってました」
「ログ……」
なるほど、それで俺が強くなりたいと願っていたことも知っていたのか。
「この希望は、色々と珍しい体験をさせてくれた遥人さんへの、私からのプレゼントとして叶えて差し上げます。ただ、努力はしますがお姫様というのはお約束が難しいので、女の子ということで納得して下さい」
「もちろんです! ありがとうございます」
なんにしても、オギャーから始めなくて済むのはありがたい。それにお姫様じゃなくても、可愛い女の子と仲良くなれるのなら問題ない。
しかし、家族とかはどうするのかな。ま、そっちはぶっちゃけどうでもいい。
「それでは、新たな世界での遥人さんに、幸多からんことを」
この後、俺の頭の中に、これから飛ばされる世界の基礎的な情報がなだれ込んできた。言語や風習、与えられた能力の使い方などだ。
それによると、今度の世界は海を隔てて大きな大陸が3つあるらしい。そこで暮らしている種族も多種多様で、獣人やエルフなんかもいるようだ。まさにラノベに出てくるような、ファンタジー世界そのものである。
俺はそのうちの1つ、ヂッポライター大陸の、アークマイルドという王国に転生する。どこかで聞いたような名前だが、文明レベルは俺が理解出来る程度に、日本より少し遅れたくらいということだった。
他には、陸地にも海にも魔物が存在する。ただし、敵対する者ばかりではなく、友好的な魔物もいるようだ。魔物の中には他種族相手に商売し、それで生活している者もいるらしい。
ちなみに魔法は、頭の中で起こってほしいことを想像し、同時に何でもいいから呪文を唱えると使えるみたい。それこそ、ちちんぷいぷいでもよさそうだから笑える。
さて、ここから俺の新たな人生が始まるというわけだ。果たして、どんな世界なんだろう。楽しみで仕方がない。
それから程なく、自分の体が横たわっているのを感じ、俺はゆっくりと目を開けるのだった。
◆運営とは◆
ゲームを配信し、この仕組みを使って利益を得ている組織のことを『運営』という。運営はゲームに様々な機能を提供し、利用者を飽きさせないようにして、継続的に利益を得る努力をする。
運営の方針に納得出来なければ、利用者はゲームをやめるか、泣く泣く続けるかの選択肢しかない。もちろん、横暴が続けば利用者が減り、運営そのものの存続が危うくなるのは当然である。