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第8話 ヒャッハー?

「ぎゃっ!」


 立ちはだかったまではよかったが、俺はコケコッコンを抜く間もなく、トロングハイに殴り飛ばされていた。受けたダメージは1だけだが、ヤツの力は凄まじく、俺は大きく後ろに転がされたというわけだ。


「せ、セレーナさん!」

「大丈夫ですよ」

「え?」


 そりゃ驚くよね。あの大柄で強そうなシュワルさんでさえ起き上がれないほどだったのに、俺はかすり傷すらも負ってないんだから。そしてトロングハイの方も、難なく立ち上がった俺を見て戸惑っているようだ。知能が低いとは言っても、その程度の異変には気づけるらしい。


「さて、お遊びは終わりにしようか」


 俺は改めてコケコッコンの(つか)を握り、ゆっくりと(さや)から抜く。剣道なんて習ったことはないけど、アニメやゲームでは見ていたから何とかなるだろう。それにこの剣、驚くほど軽い。


「ヒャッハー!」

「な、なんだ?」


 ところが、剣を構えたところで、刀身から世紀末的な声が聞こえた。もしかしてこの剣、喋るのか。後ろを見ると、ザビエルさんも目を見開いて言葉を失っている。


「おい小僧!」

「は、はい!」


「オレ様を落とすなよ」

「はい?」


「あの虫けらを斬りたいんだろう?」


 虫けらって、トロングハイのことかな。


「そうだよ!」

「あれ、テロップとか出てます?」


「バカか! 貴様の考えてることなど、手に取るように分かるわ!」


 それってもしかして、手に取っているから分かるってことじゃないか。剣に手なんかないし。


「う、うるさい!」


 あ、図星だったんだ。


「とにかく行くぞ!」


 その声と同時に、俺は剣に引っ張られるように駆け出していた。それに気づいたトロングハイが、再び拳を握り締める。そして、ヤツが腕を振り上げたその時だった。


 俺の体がふわっと浮き上がり、トロングハイの顔の真正面に静止したのである。


「小僧! オレ様を両手で握れ!」

「へっ?」


「いいから早くしろ!」

「は、はい!」


「ヒャッハー!」


 言われるままに柄を両手で握りしめた瞬間、剣が奇声を上げたかと思うと、勝手に真ん中の頭を切り落としていた。太い首だったにも関わらず、この手には全く衝撃を感じなかったよ。


 だが、俺が着地すると同時に、頭は元の姿に再生していた。なるほど、ザビエルさんの言った通りだ。そして、3つの頭が怒りを(あら)わにして俺を睨みつけ、今度は(つち)を振り下ろしてきた。最初から槌を使わなかったのは、潰してしまったら食えないからということだろう。


「うわっ!」

「ヒャッハー!」


 またもや剣が勝手に動いてそれを(さば)く。いや、捌くというより……


「あ……」


 巨大なトロングハイの槌が、真っ二つに斬られていたのである。これが斬れない物がないと言われるコケコッコンの威力か。無論、俺の手には軽い衝撃さえ伝わってきていなかった。


「な、何だよその剣……」

「あ、これね、冗談です」


 青ざめた表情のザビエルさんに、俺は苦笑いしながら応える。まさかSSRのチート武器とは言えないからね。


「小僧! 次だ!」

「え? あ、はい!」


 槌を壊され、怒り狂ったトロングハイは、歯軋(はぎし)りしながら平手を振り上げている。あれで押し潰そうという魂胆か。


 しかし、その腕を切り裂き、俺はヤツの右側の頭の前に跳躍していた。


「行くぞ!」

「はいっ!」


「ヒャッハー!」


 真ん中の頭と同じように右の頭も切り落とされる。もちろん、腕と共にすぐにそれは再生されていた。だが――


 驚いたことに次の瞬間、トロングハイが逃げ出したのである。やはり俺の考えた通り、この剣はヤツの再生能力まで斬ってしまったのだろう。あとは左の頭を落とせば、ヤツは2度と再生出来ないということになる。もちろん、逃がす道理はない。俺の使命は魔物狩りだからだ。


「行きます!」

「ヒャッハー!」


 背を向けて走り去ろうとするトロングハイの左の頭が、振り返ったすぐ目の前に迫った俺の姿を見て恐怖に歪む。ヤツは慌てて両手で自分の頭を守ろうとしたが、時すでに遅し。それが切り落とされた瞬間に足がもつれて、巨体はそのまま前につんのめるようにして倒れていた。


 無論、左の頭が再生することはなかった。


「な、なに? どうなったの?」


 振動で目を覚ましたクリスさんが、辺りを見回して呆然と呟く。だが、すぐに彼女は隣に横たわっているシュワルさんに気づき、治癒魔法をかけていた。


「す、すげえ! すげえよ、お兄ちゃん!」


 ひとまず剣を鞘に収めた俺は、それをサルガッソーに放り込んで彼らの許に戻る。すると今の光景を見ていた男の子が、駆け寄ってきて俺の足にしがみついていた。


 俺は彼の頭をくしゃくしゃと撫でながら、パーティーに微笑みかける。


「帰りましょうか」


 その村の名はショッポ。生存者はたった1人、幼い男の子だけだった。

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