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第7話 全滅?

「シュワルさん、あれ……」


 顔面蒼白(そうはく)のクリスさんが震えながら指さした先には、3つの頭を持った巨大な魔物が姿を現していた。身長は5mくらいだろうか。その手には、やはり巨大な(つち)が握られている。


「まずい、隠れろ!」


 俺たちはひとまず、近くにあった民家の瓦礫(がれき)の陰に身を隠した。だが、シュワルさんもザビエルさんも、(はた)から見て分かるほどに体を震えさせている。


「シュワルさん、あの魔物は何です?」


「トロングハイ……だ」

「トロングハイ?」


「トロンルという魔物の上位種族だ。何であんなヤツが人の村に……」


 この後、恐怖でそれ以上語らなくなったシュワルさんの代わりに、血の気を失いながらもザビエルさんが教えてくれた。


 それによると、トロングハイは知能が低く獰猛(どうもう)な魔物で、食える物は何でも食らう雑食性ということだった。肌の色が紫色なのは、赤い血の生き物も緑の血の生き物も関係なく食らうかららしい。攻撃力と防御力が異常に高く、その上再生能力まであるそうだ。人間ではまず太刀打(たちう)ち出来ない相手ということだった。


「本来トロングハイは人里から遠く離れた山奥で暮らしている。人間を襲ったヤツなんて数えるほどしかいない」


 いるにはいるのか。


「でも、知能が低いってことは、魔法は使えないんですね?」

「何を呑気なことを……」


「あの3つの頭は単なるお飾りってことじゃないですか」

「バカ野郎! アイツは剣で斬っても火球(ファイアボール)で焼いても、あの頭のせいですぐに再生しやがるんだぞ!」


 お、シュワルさん復活。


 ということは、頭を切り落としてやればいいんだな。


「シッ! シュワルさん、声が大きいです」


 だが、今のやり取りがトロングハイに勘付かれたようだ。ヤツの頭が3つともこちらの方を向いて獲物を探している。


「怖いよ〜、お父さ〜ん、お母さ〜ん」


 その時だった。助けた子供が恐怖のあまり、泣き出してしまったのである。


「シュワルさん!」

「まずい、見つかった!」


 シュワルさんは剣を抜き、ザビエルさんは大きく後ろに飛んで矢を弓に(つが)える。


「俺たちが何とか食い止める。セレーナ、その隙に子供とクリスを連れて逃げてくれ!」

「シュワルさん!」


 クリスさんが泣き叫びながら、シュワルさんの腕にすがりつく。


「死ぬ時は私も一緒です!」

「クリス、お前……」


「シュワルさんのいない世界でなんか、生きていても仕方ありません!」

「バカを言うな。お前だけでも逃げるんだ! セレーナ、頼む!」


 あ、そっか。クリスさんはシュワルさんのことが好きだったのか。だからショコラさんが酒に付き合うと言ったきっかけを作った俺を睨んでいたんだ。


 だが、そうこうしているうちにも、トロングハイがどんどん近づいてきていた。


「うおーっ!」


 シュワルさんが走り出し、はずれメタルの剣で魔物の大腿を斬りつける。攻撃力4千の太刀筋はダテではなく、トロングハイの足は確かに止まった。だが――


「ぐはぁっ!」


 傷口はみるみる再生し、ヤツの太い腕がシュワルさんを殴り飛ばしていた。あんなのに殴られては、普通の人間など一溜まりもないだろう。現に、彼の顔は苦痛に歪み、起き上がることすら出来ないようだ。


「シュワルさん!」


 そこへ、クリスさんが飛び出して彼の(もと)に向かう。おそらく治癒魔法で癒すつもりなのだろうが、遅い。


「はぐっ!」


 彼女の小さな体は、トロングハイに払いのけられていた。


「ちくしょー、ちくしょー!」


 それを見たザビエルさんは、すでにパニック状態に陥っていた。闇雲(やみくも)に矢を放っているが、そのほとんどがヤツに当たっていない。


 これでは全滅してしまう。


 そう思っていたら、トロングハイはゆっくりとシュワルさんに近づいていく。そのまま食らおうと考えているのだろう。多分美味しくないぞ、それ。


 とは言え、さすがについさっきまで行動を共にしていた相手が、目の前で食われるのを見過ごすわけにはいかない。俺は転移でシュワルさんの許に飛んで彼を連れ戻し、続けて気を失っていたクリスさんも運んできた。


「仕方ないか」

「せ、セレーナ……さん?」


 驚いて声を上げたザビエルさんも、何とか正気に戻ってくれたようだ。だが、目の前のエサを奪われたトロングハイは、再び怒りの咆哮(ほうこう)を上げていた。


 俺は瓦礫の陰から飛び出し、サルガッソーに手を突っ込んだ。そして、そこから取り出したのは一振りの剣、言わずと知れた神剣コケコッコンである。


 斬れない物がないと言われ、ステータスイーターとの異名を取るこの剣の切れ味を、試す時がきたというわけだ。どうでもいいけど名前、何とかならないかね。


「ザビエルさん、あの頭が再生を司っているんですね?」

「そ、そうだけど。3つをほぼ同時にやっつけないと、頭も再生しちゃうんだよ」


 そんなことは織り込み済みだ。しかし、俺は1つの可能性を考えていた。コケコッコンで斬られたステータスは元には戻らない。だとすれば、たとえ切り落とした頭をヤツが再生しても、その能力までは再生出来ないのではないだろうか。


 ま、再生されたら会心の一撃が出るまで、火球を叩き込んでやればいいだけである。1億個の火球が相手では、その再生能力も追いつかないだろうからね。


「トロングハイとか言ったな。俺がこの場にいる不幸を呪うがいい」


 そう言って俺は、突進してくる魔物を前に、剣を構えるのだった。


 かはーっ! 1度言ってみたかったんだよね、このセリフ。

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