第5話 冒険者登録?
翌日、俺は冒険者ギルドとやらに行くことにした。国王の命令だから仕方がない。面倒なら隣国に転移すればいいだろうって? バカ言っちゃいけないよ。それじゃミルフィーユさんと逢えなくなるじゃないか。
ところで城下にはいくつかのギルドがあり、大きなところになると、登録している冒険者も依頼の量も多いらしい。ま、命令は魔物や盗賊の討伐だからね。ミルフィーユさんの話では、そういった危険な依頼は受け手が少ないらしく、どこのギルドでも遂行に手間取っているそうだ。
「ギルド・ストレートファイターか」
ここが屋敷から一番近い。とにかく入ってみるとするか。
「こんちは〜」
扉を開けると中は広く、たくさんの丸テーブルが並んでいる。壁側には人だかりが出来ており、何枚もの紙が貼られた掲示板が見えた。おそらくあそこに依頼書があるのだろう。全く、ひねりも何もないラノベの世界だよ。分かりやすいのは助かるけど。
「何だおめぇ!?」
「ども、初めまして」
「ここはガキが来るところじゃねえぞ」
「いや、冒険者登録に来たんですけど」
「冒険者登録だぁ?」
それまで掲示板の前に群がっていた人たちが、俺を見て一斉に笑い出した。何か変なこと言ったのかな。どうでもいいけど、全員汚物を消毒しちゃいそうな半裸の人ばかりだ。
「お兄ちゃんよぉ、ここが何のギルドだか分かってて入ってきたのか?」
「え? 冒険者ギルド、ですよね?」
「ヒャーハッハッハッ! ここは魔物狩り専門のギルドだよ。おめぇみてえなひよっこの来るところじゃねえんだ」
「魔物狩り専門ですか。ならちょうどいいです」
「んだとゴルァ! 舐めてんじゃねえ!」
「やめて下さい!」
そこへ、この場には似つかわしくない女の子の声が聞こえた。ピンクのボブヘアに白いカチューシャが、ちょっと丸顔の童顔によく似合っている可愛い子だ。しかも体つきは華奢なのに、胸がやたらとデカい。フィオナ姫やエリスさんよりも大きく見えるよ。
「ショコラちゃん、いつも可愛いね〜」
「もう! いいから皆さんはどの依頼を受けるのか、早く決めて下さい!」
ショコラと呼ばれた彼女は、臆することなく近寄ってきたモヒカン頭の男を押し返す。そして、俺の方を向いて笑顔で話しかけてくれた。
「冒険者登録にいらしたんですね?」
「はい、そうです」
「ウチは魔物狩り専門なんかじゃありませんから、どうぞご安心下さい」
「ショコラちゃん、イケメン相手だと俺らと扱いが違うぞ〜」
「うるさいっ! 余計なこと言わないで!」
やっぱりデコピンはイケメンだったのか。
「あの〜、別に俺は魔物狩りでも……」
「さ、こちらに来て手続きしましょう。登録料は小銀貨1枚になりますけど、よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
小銀貨1枚は日本円で約千円だ。今朝、家令のカルビンさんから10枚くらい渡されているので問題ない。他に1枚1万円の大銀貨と、同じく5千円の銀貨も何枚か持たされている。必要な物があったら買って帰っていいそうだ。
「それではこれを持って下さい」
ショコラさんが受付の向こう側に回ってから、俺は手鏡のような物を手渡された。なるほど、これで俺のステータスを読み込んで、登録証みたいなのをくれるってわけね。
「その手鏡に向かって、ステータスと唱えて頂けますか? 魔法が使えなくても大丈夫です。それは特殊な手鏡ですので」
「そうなんですね。分かりました。ステータス!」
見て驚くなよ。これが俺のステータス、1億のHPと防御力、1千万の魔力、それから笑いを取るとしか思えない、たったの2しかない攻撃力だ。とほほ。
「ふむふむ、セレーナさん……女の子みたいな名前ですね。まあ、今どきは男の子に女の子の名前を付けるのも流行ってるみたいですし」
「え? セレー……」
しまった、セカンドステータスを外すの忘れてたよ。だけどそうか。俺の本当のステータスは、この世界の人にとっては驚異になるかも知れない。だったらこのままでも……名前くらいは変えたいよな。けど3カ月間は変えられないんだっけ。なんて縛りを付けるんだよ、あのバカ女神め。
「HPと魔力は平均的ですね。防御力300は少し低いかな。魔法は使えますか?」
「ええ、一応」
「どんな魔法を?」
「癒し系ならほとんど」
蘇生まで出来ちゃうけどね。
「ほとんどとは言っても、魔力が500では魔物狩りは難しいかも知れませんね」
「そうなんですか?」
「魔物は1体とは限りませんので。これですとランクは……」
「Eとか?」
「E? そんなランクはありません。セレーナさんのランクは6Sですね」
「6S?」
「6等級で、これまでどのギルドにも登録したことがない方のスタートラインです」
依頼を失敗すると5等級に下がり、一定数の依頼を達成すると7等級に上がるという。最低ランクは1、最高は20だそうだ。まるで自動車保険みたいなシステムだな。
まあ、この際システムはどうでもいい。とにかく冒険者登録して、魔物や盗賊を討伐しなければならないのだ。
だが、この後俺には思わぬ展開が待っているのだった。




