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第18話 読めない魔道書?

「金貨2万枚。それだけあれば隣国のキャビアマイルド王国に、領地付きで爵位が手に入るんですよ」


 近衛(このえ)の拷問に(おび)えたアミロが、渋々といった表情で話し始めた。もう、呼び捨てでいいよね。


「そんなことのために……!」


「そんなことですって? 殿下、私は確かに衛士団長として、この城の中では高い地位を頂いております。しかし一歩外に出ればただの男。領地も持たない騎士階級なんですよ」

「だけどこのアークマイルドとキャビアマイルドはいがみ合っているはずですわよね」


 転生時に流れ込んできた情報では、(くだん)の王国とは国旗の色使いが似通っているとか、どうでもいい理由で互いを牽制(けんせい)し合ってるということだった。


 もちろん国民レベルの交流はあるが、爵位と領地を得ようとしているのは王城の衛士団長である。そんな敵性国家の高い地位にある者を、易々(やすやす)と受け入れるものなのだろうか。


「私はある魔道書を書き上げたのだよ」

「魔道書?」


「おそらくこの世で最強の魔法だ。大陸さえも吹き飛ばすだろう」

「そんな魔法が……?」


「ただ、私には発動させることが出来なかった」

「え? 発動出来ないのに、どうして大陸を吹き飛ばすって言えるんですか?」

「理論上は可能ということだ」


 それじゃ机上の空論と変わらないじゃないか。


「しかしあの国には私やバラン殿を軽く凌駕(りょうが)する、膨大な魔力を持つ者がいると聞いた。あるいはその者なら、私の理論を実証してくれるかも知れん。そう考えたのだ」


「なるほど。その魔道書を手土産に亡命、ということですか」


「オークの住むワカバ村が、巨大な火球(ファイアボール)で滅ぼされたのは知っているな?」

「ええ、まあ」


「あれを見たバラン殿は、俺の魔道書に興味を示した。だからはじめはバラン殿に売ろうとしたのだ」

「ところがバランさんにはお金がなかった」

「そ、そうだ!」


「まあ、あの人には崇高(すうこう)な使命がありますからね」

「崇高な使命だと? 奴隷の少女を殺して血肉を得る、それのどこが崇高だと言うのだ!?」


 やっぱりこのオッサンも、彼のことを誤解しているのか。別に教えてやる義理はないけどね。


「1つ、聞いてもよろしいかしら?」

「何だ?」


「無関係のミルフィーユさんを捕らえて拷問したのは何故ですの?」

「あの女は以前、俺の誘いを断ったからだ」

「え? たったそれだけのことで?」


「俺は衛士団長様だぞ! ろくに魔力も持たない平民の分際(ぶんざい)で、俺様を虚仮(こけ)にしたんだぞ!」


 虚仮にしたって、自分の歳を考えろよ。2人並んだら親子にしか見えないぞ。しかも見た目じゃ、アンダが逆立ちしたって釣り合いなんか取れねえから。


「ところで、金貨2万枚を欲する貴方が、どうしてオークの手先になったんです? 最初にイオナ姫を(さら)った時のことですけど」


「その報酬が、亡命話だったんだよ!」


「ではフィオナ姫の時は?」

「相手の、キャビアマイルド側にに渡りを付けるってのが条件だった」

「ならそっちは失敗したのでは?」


「俺の仕事は王女誘拐だ。奴らに引き渡した時点で向こうには話がついた」


 最終的なキャビアマイルド側の目的は、誘拐したフィオナ姫を返す代わりに、国旗の色やデザインを変えさせることだったという。子供かよ。


「もういいでしょう。アミロ殿、貴方は王国の法で裁きます」

「ま、待て、待ってくれ!」

「まだ何かあるのですか?」


「魔道書です。せめて私の書いた魔道書の力が見たい! そのセレーナとかいう男女(ニューハーフ)なら……転移魔法や、これほどの結界魔法を使いこなす者ならあるいは……!」


 誰がニューハーフやねん!


「お断り致します」

「な、何故だ!?」


 大陸を吹き飛ばすほどの魔法が、俺の会心の一撃と被ったらどうするんだよ。下手したら大陸じゃくて、この星ごと宇宙の(ちり)になるぞ。たとえ空に向けて放ったとしても、反動でこの辺り一帯がクレーターか更地(さらち)になるんじゃないかな。さすがに口に出しては言えないけど。


「試してもいない魔道書の魔法なんて、恐ろしくて使えませんわ」

「だ、大丈夫だ。私が保証する」


売国奴(ばいこくど)の言うことなど、信じられるものですか」

「た、頼む。せめて魔道書を見るだけでも」

「はぁ……どこにあるのですか?」


「そ、その後ろの棚の真ん中の本……そう、それだ。それを強く押し込んでくれ」


 あ、この本じゃないんだ。俺は言われた通りに赤い背表紙をグッと押し込む。もちろん、何かの罠ではないかと警戒しながらだ。


 本は5cmくらい沈み込んだところで自分から奥に消えていき、代わりに金で縁取られた黒い背表紙の本が出てきた。俺はそれを取り出してアミロに見せる。


「これですか?」

「そうだ、それだ!」

「見ればいいんですね?」


 この本に呪いの類がかけられていたとしても、俺は解呪(かいじゅ)の魔法が使えるから問題ないだろう。そう思って開いて見ると、そこにはミミズが()ったような文字と、魔法陣のような模様が描かれていた。


 何これ、読めない。


 お決まりの、こっちの世界の文字が読めないとかじゃないよ。転生する時にその辺りのことはちゃんと頭の中に入ってきてるから。そうじゃなくて、まず字が汚くて読めないし、魔法陣に関しては全く知識が流れてきてないから意味が分からないんだ。


「ど、どうだ、使えそうか?」

「どうだ、と言われましても……」


 困惑してしまった俺は、興味深げにこちらを見ていたイオナ姫に本を手渡した。それをフィオナ姫も横から覗き込んでいる。


「何ですか、これは?」

「確かに……困りますね」


「殿下、何をお困りだと申されるのですか?」

「貴方、これをご自分で読めますか?」

「は?」


 イオナ姫は文字が書かれていると思われるページを広げて、アミロの方に向ける。するとアミロは目を細めたり顔を傾けたりするが、どうやら書いた本人も読むのに難儀(なんぎ)しているようだ。


「本人が読めない文字を、私が読めるはずはございませんわ」

「残念でしたわね、アミロ殿」

「そ、そんな……」


 この後アミロは国王によって断罪され、俺の結界は役目を終えたのだった。


 ざまぁみろ!


 そうそう、ミルフィーユさんの魔力が減っていた件。あれは朝食を作っている時に指を怪我して、それを治すために治癒魔法を使ったからだそうだ。

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