第17話 誘拐犯は?
「確か衛士団長のザマ・アミロさんでしたかしら?」
「アミロ殿、物質転移を使えるとは聞いておりませんが」
「な、何のことですか?」
この状況で、まだ惚けようというのか。それにしてもこの人が犯人だったとは。
ところで姫様曰く、転移魔法などの高度な魔法が使える場合、王国に届け出る義務があるとのことだった。その中には当然、転移系に分類される物質転移も含まれる。他には高位の治癒系魔法や、戦略級の攻撃魔法などが届け出の対象だそうだ。
「私はフィオナ殿下をお護りするために……」
「よくもまあ、ぬけぬけと。それなら檻に入れているのは何故ですか?」
「ぐっ!」
「さて、訳を聞きたいところですがその前に、ベルルラルー!」
俺は檻の中のフィオナ姫が、イオナ姫の足許に出てくるのをイメージして呪文を唱えた。これが物質転移というヤツである。
「フィオナ!」
「ここは……どこ? 私は誰? じゃなかった、どうして私はこんなところに?」
「貴女はそこのアミロ殿に物質転移で誘拐されたのです」
「クソっ! 大地の精霊よ、我の言葉に耳を傾けたまえ。ゴルゴンゾー……うぎゃっ!」
アミロが壁に何か魔法を仕掛けようとしたらしいが、跳ね返って自分に当たっていた。ざまあ見ろだ。
「そこから逃げ出そうなんて、考えない方がよろしくてよ」
「クソッ!」
「姫様、この後どうするんですか?」
「本来なら衛士団に引き渡すところですが、彼はその長ですからね。近衛隊に任せることにしようと考えてます」
「こ、近衛隊!?」
「あれ、何か怯えてませんか?」
「それはそうでしょう。近衛の拷問の凄まじさは、衛士団の比ではありませんから」
「そ、そんなに?」
ミルフィーユさんがやられたアレより、もっと凄いってことなのか。
「ハルト殿も気をつけた方がいいですよ。アリアはいつでもは本気ですから」
「はい?」
まさか、あのちょん切るってやつのこと? よし、アリアさんにだけは逆らわないようにしよう。
「お、お待ち下さい! 私は衛士団長ですぞ!」
あ、コイツの存在を忘れてたよ。
「では、その衛士団長が何故このようなことをしたのですか!?」
「それは……」
「貴方が誰かに唆されたと言うなら、その者の名を述べなさい!」
おほー、イオナ姫怒ってるなあ。もっともお城を護る衛士の長が裏切ったんだ。当然だと思う。
「誰かに……そ、そうです! 私は唆された!」
「誰にですか?」
「ま、魔王です。魔王に唆されました!」
「はぁ?」
俺は思わず変な声を出してしまった。魔王って、アイツだよな。
「魔王が金貨2万枚を要求したと言うのですか?」
「はい、その通りです!」
あり得ないだろう。この世界の魔王と言えば、今はあの馬鹿女神のはずだ。あれはどうしようもないアホだが、腐っても元女神である。人を攫って身代金をせしめようとするとは思えない。
「姫様、アミロさんは嘘ついてますよ」
「な、何を根拠に!」
「それは私も分かります。魔王殿が貴方ごときを誑かすなど考えられませんから」
魔王殿?
「殿下、私は嘘など!」
「本当のことを言いなさい。でなければ、近衛に言って最も酷い拷問を受けさせますよ」
「姫様、最も酷い拷問って?」
「毎日体のどこかしらを鋸で引いて切り落としていくのです。1日目は耳、2日目は指、といった具合に」
そして腕、足と続き、最後には首を落として終わりだと言う。男はアレも切られちゃうそうだ。さらに傷口は塩水に浸けられるとか。それ、めちゃくちゃ残酷じゃないか。
しかも舌を噛み切って死ねないように猿ぐつわを噛まされ、失血死しないように止血まで施されるという。つまり、首を落とされる最期の時まで、死ぬことすら許されず何日も苦しみ続けるということだ。
「聞いただけで痛いですね」
「この拷問は公開で行われます。王族に反旗を翻せばどうなるか、反逆を企てる者に知らしめる意味がありますので」
「今まで何人くらい、その拷問を受けたのですか?」
「アミロ殿が初になります」
そうか、こんな酷たらしい拷問をしょっちゅうやっていたら、恐怖で人心は離れていくに違いないからな。イオナ姫が淡々と内容を説明してくれたのも、実際に見たことがないからなのだろう。見たら絶対トラウマになるよ。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
「どうされました?」
「は、話します! 話しますから、どうかその拷問は……」
ミルフィーユさんに酷いことをしたクセに、自分は拷問されたくないってか。調子こきやがって。
「では、話して頂きましょう」
だが、イオナ姫の冷えた笑顔を見て、俺もアミロの野郎も背筋に凍てつくものを感じるのだった。姫様、怖いよ。