第3話 物欲センサー?
「な、なんでですか!」
「はい?」
「俺は貴女を願った。だから絶対に貴女は引かないはずなのに!」
物欲センサーが働かなかったってことか? いや、そもそも物欲センサー自体、本当に搭載されていたのだろうか。
「何をおっしゃっているのか分かりませんが?」
「だ〜か〜ら〜!」
「初めまして、私はアターナーと申します」
「名前はもう聞い……た……アターナー?」
あれ、名前が違うような気がする。覚えてないけど。
しかしよく見ると、目の前の女神の顔はさっきと全く同じなのに、格好がまるで違う。ところどころに金の刺繍が施された、白いドレスのようなものを纏っているのだ。もちろんケバさはなく、着ているものが変わるでこれだけ清楚に見えるとは驚きだよ。
「ランクはSSR、見事な引きです」
「でも光は青かったような」
「天使が飛んでませんでしたか? 0だとほぼN、1人だとR以上、2人だとSR確定。そして3人だとSSR確定なんですよ」
そうだったのか。あの天使は単なる演出ではなく、人数でレアリティが決まるという効果もあったんだ。
「ところで、あの……?」
「エルピスと顔が同じなので戸惑っておいでなのですね? 神は容姿には執着しませんので」
「そ、そうですか。それで、アターナー様は何の神様なんですか?」
彼女はエル何とかよりよっぽど雰囲気が女神っぽい。思わず様とか付けちまったよ。
「色々ありますが、知恵、芸術と、他には戦争なども」
「せ、戦争?」
と言うことは、もしかして俺が欲しいと思っている強さも手に入るのだろうか。
「ガチャはSSRボーナスで10連が1回引けます」
「え? 10連あるんですか?」
「ボーナスですから。内容は体力、攻撃力、魔力、特殊能力などです。単発で10回引くことも可能ですが、10連は最低SSRが1つ含まれるメリットもあります」
「なら10連でお願いします!」
10連を引かない理由はない。
「分かりました。では、そちらのボタンをどうぞ」
彼女の言葉で、再びゲームのガチャ画面のようなものが現れる。ただし最初と違い、ボタンには『10回引く』と書かれている。
「10連ガチャでは、背景は必ず虹色に光ります。また、SSRなどが複数含まれる場合は、登場する天使の人数が増えます」
「そうなんですね! では!」
強さだ。誰にも負けない強さをくれ。そう願いながらボタンを押すと、なんとまたまた上空に天使が翼をはためかせて飛び回り始めた。その数1、2、3……は、8匹! 10連1撃でSSR8つとか、俺すごくね? でも、ほぼこれで俺の望む強さは手に入ったと思ってもいいだろう。
「まあ! おめでとうございます! すごい引きですね」
「いえ、ありがとうございます!」
「それでは結果ですが……あら?」
「どうしたんですか?」
「こ、こういうこともあるかと……」
アターナー様が何やら苦笑いしている。一体何があったんだろう。まさかバグってSSRナシとか。それなら詫び石よこせや!
「SSRで引き当てたのはHPと防御力、それぞれ1億です」
「その、1億というのはすごいんですか?」
「最大値です。普通の人間はだいたい2千から3千、多い人でも5千です。防御力は500から、高い人でも千には届きません」
「人間って弱いんですね……って、それが1億?」
もはやチートじゃねえか。他のSSRもめちゃくちゃ気になるぞ。攻撃力も1億とかなのかな、ワクワク。でもそうなるとデコピンするだけで、相手は死んでしまうんじゃないか。
「次にSRですが、こちらは魔力ですね。1千万のようです」
「え? ちょっと待って下さい。他のSSRは?」
「SSRは先ほどの2つだけですよ」
「だ、だって飛んでた天使は8匹……8人だったじゃないですか」
「ですから3匹ごとにSSR1つ、2匹でSR1つです」
てか、女神まで天使を"匹"で数えるのかよ。
「それじゃ、後はカス……?」
「いえいえ、そうでもありません。カス……こほん、Nは1つだけでした。あとの6つはRです。よかったですね」
「ほうほう。すると攻撃力なんかもそれなりに……」
「いえ、ステータス的なものでRはありませんでした」
「は? どゆこと?」
「Rはステータスの補助的なものですね」
彼女の説明をまとめると、こんな感じらしい。
・魔力消費1万であらゆる解呪、蘇生が可能。
・どんな物理攻撃を受けても受けるダメージは1。
・どんな魔法攻撃を受けても受けるダメージは1。
・会心の一撃でも受けるダメージは1。
・どくばりの急所攻撃は無効。
って、最後の2つ、ドロクエかよ。
「あの、それで攻撃力は?」
「攻撃力はNですから……2、ですね」
「2、ひゃくまん、とかですか?」
「いえ……」
「ははは、ま、まあ2、じゅうまんでも……」
「あの……」
「え? まさか2、まん……でも仕方ないですね。なんたってNだし」
「そ、そうではなく、ただの2、です」
「はい?」
「ですから、攻撃力はただの2、です」
「それって……」
「虫を殺すのにも、物理であれ魔法であれ、フルパワーで挑め、ということですね」
挑めってマジかよ。それだと俺がやられないだけで、強くも何ともないじゃん。
「はっ! ま、まさか物欲センサー!」
「ガチャる時に何か願われたんですか?」
「え? あ、強さを……」
「原因はそれですね。エルピスが最も心血を注いで開発した、と自慢しておりましたから」
あのバカ女神め。ないとか言ったクセに、やっぱり積んでたじゃねえか。
「あら? これは……」
「どうしたんですか?」
「残った最後のRなんですけど……」
ああ、そう言えばもう一つあるんだっけ。補助的な何かなんだろうけど、攻撃力2の俺にはもう、絶望しか残ってないよ。
「で、何なんですか?」
「それは……」
この後の女神、アターナー様の言葉に、俺はただただ驚くことしか出来なかった。