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第16話 真犯人は?

「心当たりならある。だが私は奴の正体は知らんのだ」


 バランさんは、魔道書を売ろうとしていた男の存在を話してくれた。だが、男は常に結界の中にあり、ステータスを覗き見ることが出来なかったそうだ。


「ところでバランさんにお聞きしたいのですが」

「何だ?」


「衛士団長のザマ・アミロさんに、ミルフィーユ・アラモードという女の子が怪しいと話したのは何故ですか?」


「ミルフィ……何だ?」

「ミルフィーユ・アラモードさんです」


「聞かん名だ。何かの間違いではないのか? だいたい私はアミロ殿とはここ数年、顔を合わしてすらおらんぞ」

「何ですって!?」


 思わずイオナ姫と顔を見合わせた。


 そうか、そう言うことだったのか。塔の検問所にいるのは、他ならぬ衛士たちだ。彼らからしてみれば、その(おさ)たる衛士団長は怪しくも何ともないだろう。そして彼なら、どの塔でもいちいち検問を受ける必要などなく、出入りが可能なはずである。


「姫様、盲点でした」

「ええ。私もまさかアミロ殿が……」


 そこで、ようやく得心がいったという表情で、バランさんが呟いた。


「なるほどな」

「はい?」

「殿下とお前は、誘拐犯がこの私だと考えたわけだな?」

「そ、それは……」


 ばつが悪そうに、イオナ姫が目を伏せる。まあ、ここは取り(つくろ)っても仕方がないだろう。


「これまでのバランさんの行動そのものが誤解されてたんです。疑われて当然でしょう」


「言いにくいことをズケズケと。しかしお前がフィオナ姫を救った者なら、前と同じように救えばいいのではないか?」

「ところが、今回は転移魔法を封じられましてね」


「魔法が封じられただと?」

「正確に言うと、目標を結界か何かで隠されてしまったということです」

「そうだったのか」


 そこでバランさんがしばらく考えこむ。


「殿下、お聞きしてもよろしいですか?」

「え、私ですか?」


「フィオナ殿下は普段、どのような香水をお使いで?」


「あの子も私も、特別な行事でもない限り香水は使いません」

「バランさん、香水が何か関係あるんですか?」

「結界にも色々とあってな」

「はあ……」


「魔導師が結界によって全てを覆うためには、何重にも張り巡らせる必要がある。しかし、一つだけ見落としがちなものがあるのだよ」

「はっ! それが香水の匂い!」


「うむ。体臭などが特徴的であればそれも結界するが、女性なら香水を付けていても不思議ではないからな」


 まして若い女の子なら、鼻につくほどの量は使わないから余計に気付きにくいという。匂いが目標になるとは、これまた盲点だったよ。


「だが、香水を付けていないとすると、フィオナ殿下の匂いを辿るのも難しいだろう」

「いえ、そんなことはありません!」


 そうだよ母さん。フィオナ姫をオークの(ろう)から助け出した時に、俺は彼女に抱きつかれたのだ。その時に感じたあの柔らかくてたまらない胸の感触、じゃなかった。昏倒(こんとう)しそうになるほどのいい匂いは、今でもこの鼻の奥にしっかりと刻み込まれているのである。


「姫様、フィオナ姫のところに転移出来るかも知れません!」

「本当ですか!?」

「はい! 姫様とフィオナ姫は香水を使っていないのですよね?」

「はい」


 だとするといい匂いの正体はアレしかない。


「ちなみにシャンプーとか石鹸(せっけん)などは同じ物を?」


「え? は、はい。私も妹も王族専用の浴場を利用しますので」

「では、ちょっと失礼」

「は、はいぃ?」


 俺は訳が分からないという表情のイオナ姫を抱きしめて匂いを嗅いだ。すんすん。うん、そう、この匂いだ。甘く鼻腔(びくう)をくすぐる、それでいて上品で心地よささえ感じる香りはフィオナ姫と全く同じである。


 鼻の奥に刻んであるとは言ったが、これは確認だ。決してイオナ姫を抱きしめたかっただけとか、そういうのではない。でも、胸が大きい分、フィオナ姫の方が抱き心地はよかったと思う。


「貴様! 殿下に無礼だぞ!」


「ああ、すみません。フィオナ姫と同じシャンプーや石鹸を使っているなら、姫様の匂いを嗅いで転移の目標に出来ると思ったんですよ」

「なっ! それならそうと先に言って下さい! 何も抱きしめずとも、近寄って嗅げばいいではありませんか!」


 言いながら、姫様が俺を下から睨んでいる。うん、やっぱりこの姫様もなかなか可愛いぞ。


「いいから早くその手を放しなさい!」

「え? あ、これは……」


「何故力を入れるのです!」


「いや、このまま転移しましょう」

「はい?」

「あ〜ぶらかた〜ぶら〜」

「きゃっ!」


 イオナ姫の小さな"きゃっ!"を残し、俺たちはバランさんの前から転移した。


 さて、その先にいたのは――


「フィオナ! 妹はどこですか!?」

「きっとあの檻の中です」


 一見そこに人影はなかったが、確かに檻の中からほんのりと甘い香りが漂っている。そして、檻の外ではアミロさんが驚いた顔で後退(あとずさ)っていた。


「まずは結界を解きましょう。ラミレスラミレスラララララ〜」


 俺が唱えた呪文により、まるでテレビの画面が乱れるように、檻の中にフィオナ姫が現れる。


「フィオナ!」

「姉……上……?」

「で、殿下が何故ここに!?」


「アミロ殿、貴方を王女誘拐による反逆罪で捕らえます。ハルト殿!」

「はいは〜い。ちちんぷいぷい!」


 俺は透明の箱がアミロさんを覆うのをイメージしながら呪文を唱えた。防御力1億の壁による拘束である。どんな物理攻撃も魔法攻撃も、寄せ付けることはないだろう。


「クソッ! 何だこれは!」

足掻(あが)いても無駄ですわよ。これから楽しいショータイムの始まりですの」


 ミルフィーユさんの(かたき)だ。俺は拷問された時の彼女の姿を思い出し、アミロさんに冷ややかな笑みを送るのだった。

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