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第14話 20億円?

「フィオナ姫がまた(さら)われたですって!?」


 4人で紅茶を飲んで(くつろ)いでいる時だったらしい。不意にフィオナ姫の姿が揺らいだように見え、そのまま忽然(こつぜん)と消えてしまったということだった。そして、彼女が座っていた椅子の上には、代わりに犯人からの手紙が置かれていたそうだ。


「手紙には何と?」


「フィオナを無事に返してほしければ、身代金として金貨2万枚を用意しろ、と」

「2万枚!?」


 日本円に換算すると、約20億円ということになる。


「ハルト殿、前にフィオナを助けた時と同様に、妹のところに飛んでくれませんか?」

「それが、無理なんです」


「何故です!? 報酬……報酬が必要なんですか? それなら望みの物を!」

「イオナ姫、落ち着いて下さい。報酬が欲しいと言っているのではありません。無理なんですよ」

「どういうことですか?」


 フィオナ姫を救うために、すでに俺は転移魔法を試みていた。しかし、今回は転移出来なかったのである。


「恐らく犯人は、フィオナ姫を取り戻されないように、その手段を封じたのでしょう」

「手段を封じる?」

「結界で囲ってしまっているとか」

「結界……? ま、まさか!」


 イオナ姫も気付いたようだ。この城で結界と言えば、真っ先に浮かぶその名前に。


「バラン殿が犯人だと?」


「まだそうと決まったわけではありません。しかし宮廷魔導師ほどの人なら、物質転移魔法を使えても不思議ではないでしょう」

「あの、でもお城の結界が途切れたということはありませんでしたが……」


「そこには何かカラクリがあるのかも知れません。それよりこの部屋は他の3つの塔からしか見えない、ということで間違いはありませんか?」


 物質転移は対象を視界に入れる必要がある。つまりフィオナ姫を攫うには、この部屋にいない限り外から覗くしかないというわけだ。そしてここは塔の最上階。全部で4つある塔のうち、他の3つの塔からしか見えないはずである。


「ええ。ですが一番高い塔は父上……陛下の御座所(ござしょ)がありますので、入るには許可証が必要となります」


「その許可証は誰が発行するのですか?」

「私かフィオナです」

「最近、誰に発行しましたか?」

「ここ数日、申請はありませんでしたので」


 イオナ姫によると、他にもその塔に関しては、全ての階で衛兵の検問を受けなければならないらしい。ということは、ひとまずそこは除外してもよさそうだ。


 残るは2つの塔か。


「他の塔では検問はないのですか?」


「いえ、陛下や私たちの部屋が目に入る3階以上に上がるには、検問所を通らねばなりません」

「検問を素通り出来るのは?」

「陛下と私たち姉妹だけです」


 なら、いずれかの塔に宮廷魔導師が出入りした記録があれば、確実に追い詰められるということだ。


 検問所はネズミすら通り抜けることが出来ないほど、びっしりと鉄格子が備え付けられている。そこを通るには扉を開けてもらうか、転移するしかない。たとえ結界を張って姿を見えなくしても、鉄格子の向こう側には行けないということである。


「それで、皆さんがあまりよく思っていない宮廷魔導師のザック・バランという人ですが」

「はい」

「何故なんですか?」


「彼は確かにこの城を結界で守護して下さってます。ただ……」

「ただ?」


「魔道の研鑽(けんさん)のためと称して、民たちが納めた税金を湯水の如く使っているのです」


 わざわざ税金を、と言うからには、金貨10枚や20枚というレベルではないのだろう。


「さらに、処女の血肉が必要だと、罪もない奴隷の少女を買い取っては……」

「ま、まさか殺して!?」


「はい。しかし王国の法では、奴隷身分にある者は、生かすも殺すも主人の自由とされているのです。殺人罪で裁くことは出来ません」


 何ということだ。いくら法律で罰せられないとはいえ、魔法のために女の子を殺すなんて。


「では、フィオナ姫も危ないんじゃ……」

「それはないと思います。あの方は私たちを憎んではいても、殺すまではしないでしょう」

「何故そう言えるんですか?」


「父上である陛下に絶対の忠誠を誓っているからです」


 憎まれているのは、奴隷商人たちに彼との取り引きを禁止する通達を出したからだそうだ。それでも彼は、密かに闇商人から奴隷を調達しているらしい。


「でも、奴隷を買うだけなら、そんな大金は必要ないですよね?」

「魔道書を手に入れるためでしょう」

「魔道書? あれは店では買えないのでは?」


「きっとどこかの魔導師から買い取っているのではないかと思います」

「なるほど」


 アターナー様は、魔道書は売れば一生遊んで暮らせるどころじゃないほどの大金が手に入ると言っていた。それを買い取るとなると、やはり相当な金が必要になるのだろう。


「で、そのザック・バランさんのところへは?」

「ハルト殿にこのことを知らせた後、アリアが向かっているはずです」


 そこへ、扉が勢いよく開けられる。アリアさんが戻ってきたようだ。


「姫!」

「アリア、バラン殿は?」

「部屋にはいませんでした!」


「エリス、結界は?」

「維持されたままです」


「アリアさんとエリスさん、すみませんけど2つの塔の検問所で、バランさんや他の誰かが出入りした記録を調べてきてもらえませんか?」


 戻ってきたばかりのアリアさんには、イオナ姫が事情を説明してくれた。新米メイドの俺が行っても、そんなこと教えてくれるわけがないからね。


「フィオナ……」

「姫様、フィオナ姫は必ず助けますから」


 イオナ姫の沈痛な面持(おもも)ちに、俺はそんな言葉をかけるくらいしか出来なかった。それから少しして、アリアさんとエリスさんが戻ってくる。だが、2人のいずれも、期待した結果は得られなかったようだ。


「誰も通っていない、ですか……」


「念のために陛下のいらっしゃる塔でも確認してきたが、何年も前から仕えている者以外の出入りはなかったそうだ。無論、バラン殿は来ていないということだった」


「私の方も、特に怪しい人物は通っていないと」

「だとすると、バランさんはどこに行ってしまったんでしょうね」


 だが、結界を維持しているということは、城の中にはいるのだろう。


「姫様、試しにザック・バランさんのところへ転移してみます。一緒に来てくれませんか?」

「分かりました。参りましょう」


「アリアさん、ミルフィーユさんとエリスさんをお願いします」

「うむ、分かった」

「それでは姫様、俺に掴まって下さい」

「はい」


 イオナ姫が俺の腕に巻きつくように掴まったのを確認してから、俺は宮廷魔導師ザック・バランさんをイメージして呪文を唱える。


「ラール!」


 彼の顔を見たことはないが、骨と皮だけのように()せこけていて、いつも黒いフード付きのローブを(まと)っているという。それだけ聞けば十分だ。これで転移出来なければバランさんは黒、逆に転移した先にフィオナ姫がいなければ白という可能性が出てくる。


 果たして、俺とイオナ姫が見た光景は――

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