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第12話 お休みは2人きりで?

セレーナ=ハルトです


「セレーナさん、ですか?」


 ミルフィーユさんと2人でお姫様の部屋に入ってから、アリアさんとエリスさんがまだいるうちに俺はセカンドステータスの件を話した。


「他人のステータスを見る魔法を使える奴には、俺の名前がそう見えるんですよ」

「なるほど。ではハルト殿のことはこれからセレーナさんと呼んだ方がよいのですね」

「セレーナか。また可愛らしい名前だな」


「アリアさんだって、なかなか可愛い名前だと思いますよ」

「なっ! ななな、何を言うか!」

「アリアさん、真っ赤です」


 エリスさんはクスクス笑っているが、どうしてだろう。ミルフィーユさんがちょっとむくれているように感じる。


「それはそうと、確か明日は俺とミルフィーユさんはお休みだと思いましたが、その場合の警護はどうなるのですか?」

「アリアとエリスが担当しますよ」

「え! それじゃアリアさんとエリスさんはぶっ通しで?」


「何をそんなに驚いているのだ? お前とミルフィーユがここに配属される前は、ずっとそうだったぞ」


 1日中お姫様たちと一緒にいて、気疲れしたりしないのかな。もっともイオナ姫もアリアさんやエリスさんに親しげだし、年齢も近いから普段は単なる女子の集まりみたいなものなのかも知れない。フィオナ姫もあの性格なら、4人できゃっきゃうふふというのも肯ける。混ざってみたい。


「それでハルト、じゃなかった。セレーナは明日の休みはどうするのだ?」

「いえ、特に予定はないです」


「なら、ミルフィーユとデートでもしてきたらどうだ?」


「えっ!?」

「はいぃ?」


 俺だってミルフィーユさんとならデートしたいよ。しかし女装したまま城外に出るなんて考えられないし、今は城を離れるのがいいことだとは思えない。いつまた誘拐犯が行動を起こすか分からないからだ。だが待てよ、それなら――


「で、デートはさておき」

「さておかれたぞ、ミルフィーユ」

「もう! アリアさん、からかわないで下さい!」


 アリアさんの(いじ)りにはもう慣れた。


「ミルフィーユさんは何か予定あるの?」

「い、いえ、特にこれといって……」

「ならさ、魔法の練習とかしてみない?」


「え? 魔法の……練習?」


 お、食いついてきたぞ。ミルフィーユさんの目が爛々(らんらん)と輝いているように見える。


「うん。毒消し魔法は使える?」

「私は傷を癒やす魔法しか……」


「なら教えてあげるよ」

「ほ、本当ですか!?」

「毒消しか。それは(われ)も興味があるな」

「私も! 私も教えてほしいです」


 アリアさんにエリスさんまでが身を乗り出してきた。そうか、この世界の人は魔法が使えるか使えないかは別として、皆魔力を持っているんだった。


「セレーナ、我とエリスにも毒消し魔法を教えてはくれんか?」

「アリアさん、魔法使えるんですか?」

「使えん」


「冷やかしはお断りです」


「なっ! 冷やかしなどではない! 我はただ……」

「ただ、何です?」

「姫たちの側に仕える者として、毒消しくらいは出来た方がいいと思ったのだ!」


「毒消しくらい、ねえ……アリアさん、魔法を甘く見てはいませんか?」

「そ、そんなことはないぞ」

「皆さんは基礎的な魔法を学校で習うそうですね」


 これは転生時に頭の中に流れ込んできた、この世界の知識である。


「その通りだが……」


「それでも、魔法を使えるようになる生徒は10人に1人ほどだとか」

「そ、そうだ。私もその使えない方の人間だ」


「ミルフィーユさんは治癒魔法、エリスさんは結界感知と言えばいいのかな。おそらくどちらも魔法としては基礎的なものなんでしょうね」

「はい」

「セレーナさんの言う通りです」


 2人が肯きながら応えてくれた。


「では2人に聞きます。毒消し魔法はどのくらいの難易度ですか?」

「私の知る限りでは、魔導師様に付いて修行を重ねても、会得には最低でも5年はかかるということです」

「かなりの難易度のようですね」


「毒の種類によっては命に関わることもありますので」

「それを、学校で習う程度の基礎的な魔法すら使えないアリアさんが教えてほしい、と? 一体何百年かかるんでしょうねぇ」


 いつもいつも剣を向けられて脅されているのだ。少しくらいやり返してもいいだろう。そう思っていたら、それまで黙って話を聞いているだけだったお姫様たちが、たまらずといった感じで吹き出していた。


「なっ! セレーナ、お前は我を侮辱(ぶじょく)するのか!」


「侮辱するつもりはありませんよ。ただ、人にはそれぞれ適性というものがあるんじゃないかと。アリアさんは魔法より剣の方が似合ってると思いますし」

「し、しかしお前にはあれだけの怪我を一瞬で治してしまう力があるじゃないか。それを使えば我が魔法を使えるようにすることくらい……」


「そんなの無理に決まってるじゃないですか。それが出来るなら、すでに学校でやっているでしょう」


「セレーナさんの言われる通りだと思います。アリア、諦めなさい。貴女の負けです」

「姫ぇ……」


「エリスも、明日はお休みではないのですから、そのお話はまた日を改めるとよいでしょう」

「かしこまりました、イオナ姫様」


 エリスさんはイオナ姫に一礼すると、数歩下がって後ろからミルフィーユさんの肩を押し出す。


「せーっかく2人きりになれるチャンスを邪魔しちゃいけませんものね」

「えっ!?」

「な、何を!」


 そしてあろうことか、そのまま彼女はミルフィーユさんを俺に向かって突き飛ばした。当然俺は抱きとめるしかなく――


 むにゅ。


「あっ!」


 むにゅむにゅ。


「はぅっ!」


 俺の頬に平手が飛んできたのは、それから数秒後のことだった。

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