第11話 普通の女子に大変身?
朝だ。俺は今日もまたガチャを引く。だが、この日はいつもと違うことがあった。それは、俺が完全に無心だったということである。だから、背景が金色に光っていたのに気づくのにも、少し時間がかかった。
「え? き、金色?」
「おめでとうございます。すごいですね、2日連続でSR確定ですよ」
「でも、どうせ被りなんじゃないですか?」
「いえいえ、これはなかなかレアです」
そりゃそうだ。何てったってSRなんだし。しかし被りじゃないとすると何なのか楽しみだな。一体何を引いたんだろう。能力かな、アイテムかな。
はっ、もしかして念願の攻撃力かも!
「いえ、残念ながら攻撃力ではありませんでした」
「そ、そうですか……」
「言いにくいんですけど、遥人さんが攻撃力を望んでいるのは、しっかりと物欲センサーに記録されていると思いますから」
「えっ!? それって記録機能まで備えてるんですか?」
「エルピスが無駄に……こほん、十分な記録容量を確保したって言ってましたので」
あのバカ女神め、どこまで俺に嫌がらせしたら気が済むんだよ。よし、なるべく早めに討伐してやろう。
そう言えば、アイツは討伐されたらどうなるのかな。
「村人Aですかね」
「まさかのNPCですか?」
NPCとはノンプレイヤーキャラクター、つまりゲームでいうと操作不可能なキャラクターのことである。基本的に常に同じところにいて、ランダムな会話は成立しない。モブキャラなどと呼ばれることもある。
「いえいえ、ゲームではないので。単に名もなき村人ということで誰の目にも止まらず、記憶にも残らないということです」
「すぐに女神に戻れるわけじゃないんですね」
「運営に迷惑をかけた上に、実損害が出てますからね。その分は村人Aとして稼いでもらいませんと」
社会人の課金者が言ってたけど、世の中ブラック企業が溢れてるとか。大した給料を払っているわけでもないくせに、実損害が出たと言って天引きされたなんて話も聞いた気がする。それは神様の世界でも同じってことなのか。くわばらくわばら。
「ま、あの女神のことはどうでもいいです」
「遥人さん、エルピスには辛辣ですね」
「興味ないだけです。それより、SRの中身を教えて下さい」
「そうでした、失礼しました。えっとですね……おめでとうございます!」
「あの、だから何を……?」
「セカンドステータスを手に入れました」
「セカンドステータス?」
何じゃ、そりゃ。
「本来のステータスを見せないようにするための、ベールのようなものですね」
「ほうほう」
それはまた便利な能力だな。高度な転移魔法などとは違って、他人のステータスの覗き見はオークでも扱える魔法だ。それを隠せるというのなら、願ったり叶ったりである。
「名前も好きなのを付けられるみたいですね」
「へえ」
「ただし、一度決めたら3カ月は変更出来ないみたいです」
「その縛りに何の意味があるんですか?」
「エルピスに聞かないと分かりませんね」
このセカンドステータスってのも、あのバカ女神が考えたのか。とは言え、名前を考えるのはちょっと面倒だ。
「いっそのこと、女の子の名前にしたらいかがですか? ちょうど女装しなければいけませんし」
「女の子の名前、ですか。何かいい名前ありますかね」
「あら、嫌がるかと思ったら意外です」
「嫌がらせで言ったんですか!」
「ま、まあまあ。それはそれとして、私は女神ですから、そのような干渉は出来ないのです」
「なるほど、ではアターナー様の名前を頂きましょうか」
「私の名前ですか!? それはやめて頂けると……」
「ん? 何故です?」
「転生者ウォッチャーで出てしまいますから」
「恥ずかしい、と?」
「はい……」
ヤベえ、今ドキッとしちまった。恥ずかしがってるアターナー様、なんか可愛いぞ。
「か、可愛い……」
クネクネしてるよ。何か面倒そうなのでスルーしておこう。
「ま、確かに女神様の名をお借りするのは恐れ多いかもですね」
「恐れ多いということはありませんが……面倒って……」
「では、セレーナなんてどうでしょう」
「セレーナ、可愛い名前ですね!」
かくして、俺のセカンドステータスはセレーナという名に決まった。
ちなみにこのセレーナ、HPは人の平均値である2千、防御力はちょっと低めの300にした。ステータスの値も自由に設定出来るのはありがたい。馬鹿女神にしてはグッジョブだと思う。
あと、人の魔力値は高くても千か2千らしいので、ミルフィーユさんより多めの500くらいが妥当なラインだろう。まさに普通の女の子に大変身である。
とにかくこれで、ステータスを見ることが出来る奴の目を欺けるはずだ。姫様やアリアさんとエリスさん、それにミルフィーユさんには、後でこのことを話しておこう。
それから俺はメイド服に着替え、ミルフィーユさんが呼びにきてくれるのを待つのだった。




