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第9話 責任取れって?

「では、後は頼んだぞ。何かあったらすぐに呼んでくれ」


 引き継ぎを終え、アリアさんはそう言うとエリスさんを伴ってイオナ姫の部屋から出ていった。残ったのはイオナ姫とフィオナ姫、それに俺とミルフィーユさんである。ちなみにミルフィーユさんは扉の横で、直立不動の姿勢のまま動かない。


「ミルフィーユさん、そんなに緊張しなくてもよろしいのですよ。疲れるでしょうから、椅子にかけていなさい」

「と、とと、とんでもございません! 殿下のお(そば)にお仕えさせて頂く上は、私はずっと……」


「ミルフィーユさん、姫様がそう言っているのですから、楽にしていいと思いますよ」

「ハルト殿はもう少し女性らしく。ひとまず股を閉じなさい」


 俺はすでに椅子に腰かけていた。ただ、ついうっかり大股を開いていたので、呆れ顔のイオナ姫に注意されたというわけだ。


「姉上、ハルト殿には逆に、ミルフィーユ殿を見習って立ったままでいてもらいましょうか」

「そうですね。それもいいかも知れません」

「す、すみません! 行儀よくしますので!」


「ミルフィーユさんも、いざという時に体が硬直して動けなくなってしまってはいけませんから、おかけなさい」

「でも……」

「では命令です。座りなさい」

「は、はいっ!」


 上ずった声で返事をしてから、ようやく彼女は椅子に座る。この椅子は、部屋の入り口の左右で待機するメイド用に置かれているものだ。しかし座っているのに、まるで体が鉄で出来ているのかと思えるほど、ミルフィーユさんはガチガチである。


「ハルト殿、お茶を入れてくれますか?」

「お、お茶なら私がっ!」

「危ない!」


 フィオナ姫の要求に、今ようやく座ったばかりのミルフィーユさんが立ち上がる。まさに椅子を蹴るという勢いだ。だが、それがよくなかった。彼女は椅子の脚に自分の足を引っ掛け、よろけてしまったのである。ちょうど、俺に向かってダイブしてくる感じだった。


「大丈夫?」

「ご、ごめんなさい」

「ミルフィーユ殿、怪我はありませんか?」


「フィ、フィオナ殿下! 申し訳ございません」

「いえ、お気になさらなくていいのですが……それよりハルト殿」

「はい?」


「貴方、ミルフィーユ殿のどこを触っているのですか?」

「え? どこって……」


 むにゅ。


「あっ!」


 むにゅむにゅ。


「はぅっ!」


 あれ、この柔らかい感触はもしかして。俺はゆっくりと自分の手に目を向ける。


「ご、ごめん、ミルフィーユさん!」

「あっ、ハルトさん、今手を放されると……きゃっ!」


 この手に収まっていたのは、紛れもなくミルフィーユさんの胸だった。それに気づいた俺は慌てて手を放してしまったのだが、支えを失った彼女は見事に床にボディプレスを決めていた。


「ったぁ……」

「ミルフィーユさん、大丈夫?」

「もう! 胸は触るわ、急に手を放すわ、ハルトさん酷いよ」

「ごめんごめん」


 俺はそう言うと、彼女に手を差し出す。


「姉上、私の時もハルト殿はああやって胸を触ったんですよ」

「ちょ、ちょっと、フィオナ姫! 何を言い……あっ……」

「きゃっ!」


 ところが、フィオナ姫が変なことを言うものだから、俺はそちらに体を向けてしまった。つまりミルフィーユさんにしてみれば、掴まろうとした手がいきなり遠ざかったことになる。


 体勢を崩したままどうにもならなくなった彼女は、(わら)にもすがる勢いで俺の袖を掴んでいた。だが、それが新たな悲劇(お約束)を生む。


「うわっ!」


 当然、俺の袖には彼女の全体重が乗せられていた。そのため、今度は俺までバランスを崩してしまったのである。そして2人で倒れ込んだ次の瞬間、俺の目の前ゼロ距離の位置に、ミルフィーユさんの顔があった。


「!?」

「あら……」

「まあ!」


 これが伝説のラッキースケベというヤツなのか。いや、それを言うなら、さっき彼女の胸を揉んでしまった時のことだろう。どうせ都市伝説、実在するわけがないと思っていたそれは、確かに存在した。しかし、今のこの状況は――


「2人とも、いつまでそうしているつもりですか?」


 イオナ姫の声で、俺たちはようやく我に返ることが出来た。そう、俺とミルフィーユさんの唇が見事に重なっていたのである。慌てて離れたものの、俺も彼女も互いを見つめ合ったまま頭の中がパニックになっていた。


「あ、えっと、その……」

「もう……」

「もう?」


「もう、お嫁に行けない!」


「いや、お嫁に行けないって……」

「ハルトさん、どうしてくれるんですか?」

「あ、だからその……今のは事故だから……」


「事故……事故って、それで逃げるつもりなんですか?」

「に、逃げるつもりはないけど」


「赤ちゃんが出来たら、ちゃんと責任取って下さいね!」

「はい? あ、赤ちゃん!?」


 俺は耳を疑ってしまった。いくら病弱で、17年間の大半を家と病院で過ごしていた俺でも、どうやれば子供が出来るかということくらいは知っている。もちろんキスでは子供が出来ないことも、だ。


「そうですよハルト殿、責任を取りなさい」

「ハルト殿、姉上の(おっしゃ)られた通りです」


 姫様たちも知っているんだな。平静を装ってあんなことを言ってはいるが、笑いを(こら)えて顔中がヒクついてるよ。しかし、ミルフィーユさんは真剣そのもの、俺のことを涙目で睨んでいる。うん、その顔もすっげー可愛い。


「あ、あのね、ミルフィーユさん」

「なんですか?」

「その、赤ちゃんが出来るには……」


「ハルト殿、それは私から説明します。ミルフィーユさん、ちょっとこちらに」

「は? は、はい!」


 この後、2人の姫様たちから耳打ちされて、ミルフィーユさんの顔は茹でタコのように、見る見る赤く染まっていくのだった。

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