第8話 1人にしないでね?
「SR被りですね〜」
「え? てことは……」
俺が引いた唯一のSR、それは魔力1千万だ。そいつが被ったのかよ。確かSRは同じものを10回引かないと、SSRに昇格にならないんだっけ。もっとも魔力量なんて、正直1千万でも1億でも大差ないような気がする。俺にとってはカス同然、がっかりだ。
「あ、でも待って下さい」
「何ですか?」
「これ、進呈OKですね」
「は?」
「ですから、人にあげられるんですよ」
「ま、マジっすか?」
「マジっす」
と言うことは、これをミルフィーユさんにあげれば、彼女の低い魔力値が一気に跳ね上がるのか。
「いえ、そうではありません」
「え? でも、人にあげられるって……」
「その前に思い出して下さい。私は、その人の人生を大きく変えてしまうことのないようなものだけ、と言いました」
「た、確かに。でも……?」
「ですからそれを他人にあげた場合、受け取れるのは、その人が元々持っていた魔力値の分だけです」
「元々持っていた魔力値? とすると、ミルフィーユさんにこれをあげても……」
「彼女の魔力値は100でしたね。それが200になるだけです」
要するに倍になるだけなのか。いや、倍になるというのもそこそこ人生変わると思う。ただ、彼女に関してはそもそもの魔力値が低いから、雀の涙も同然という他はない。
「あ、でも、例の魔導師のステッキで10倍になっているところにあげれば……」
「あのアイテムによる10倍はあくまで補正です。元々の魔力値は変わりませんから」
「何回かに分けて、というのは?」
「1度だけです」
「そうですかぁ……」
「そうですねぇ」
しかし待てよ。考えようによってはこれ、使えるんじゃないだろうか。俺はふと、あることを思いついた。
「まあ、遥人さん、なかなかの策士ですね」
「いやぁ、それほどでも……」
「褒めたわけではないんですが」
アターナー様は苦笑いしながら、また明日と言って消えていった。
「ハルトさん、おはようございます。入ってもよろしいですか?」
ミルフィーユさんだ。一応、誰に聞かれてもいいように、部屋に二人でいる時以外は、お互いに敬語を使うと決めた。それはいいとして、俺がこの世界に転生して3回目の朝を迎えたわけだが、その3回とも朝から2人の美女に会っている。
1人は言わずと知れたアターナー様だ。エル何とかというバカ女神、今はこの世界の魔王と同じ顔だが、アターナー様は清楚なので美人に見える。ということは実はあのバカも、素材としてはいいものを持っているのか。そう考えると、ケバい化粧さえなければ確かに美人かも知れない。
もう1人はミルフィーユさんである。俺が洞窟から脱出する時にイメージしたのは、この国で一番の美少女の近くに転移することだった。そしてお姫様の部屋に転移したわけだが、おそらくその対象の美少女とは、エリスさんだったのだろう。見た目だけの好みとしてなら、彼女もミルフィーユさんも甲乙付けがたい。
では何故、ミルフィーユさんではなくエリスさんの許に転移したのか。
これは俺の勝手な想像でしかないが、多分胸の大きさで、エリスさんの判定勝ちになったのだと思う。エリスさんの胸はEカップだが、ミルフィーユさんはCである。ステータスを見た時にチェック済みだ。ただし、俺は胸の大きさなんて気にしない。それに昨夜抱きしめた時のあの感触はたまらなかった。
その上、何かと女装させたがるエリスさんとは違い、ミルフィーユさんは俺をちゃんと男として見てくれていると思う。お、思いたい。
ま、そんなわけで、俺にとってのメインヒロインはミルフィーユさんなのだ。
「どうぞ」
「失礼します」
それにしても、何度見てもミニスカメイド服を着たミルフィーユさんは可愛すぎる。もちろん、彼女ならどんな服を着ても可愛いと思うけど、この組み合わせは鉄板だ。姿勢もいいし、腰からお尻にかけてのエロいラインも健在である。
欲を言えば、ブレザーとかセーラー服とか、高校の制服も着せてみたい。
こっちの世界にそんなものがあるのかどうかは分からないけど、絶対に似合うはずだ。メイド服にミニスカタイプがあるんだし、制服じゃないとしても、そんな服があってもおかしくないと思う。
でもそっか、なければ俺が魔法で生み出して、プレゼントすればいいか。きっと彼女は快く着て見せてくれるはずだ。よし、そうしよう。
ところで俺、昨夜あれを抱きしめたんだよな。
「そ、そんなに見られると恥ずかしいよ」
「え? あ、ごめん」
思わず見とれて、ガン見していたらしい。
「ハルトさん、聞いてるかな? 今日から私たち、イオナ殿下のお部屋に配置換えになったんだよ」
「配置換え?」
「ハルトさんは昨日からだから、配置換えって言っても実感ないかも知れないけど、他の場所でボロを出すよりその方がいいだろうってアリアさんが」
「なるほど。でも、イオナ姫たちにはアリアさんとエリスさんが付いてるんじゃないの?」
「2人は夜間の警護になるみたい」
そうか。単に身の回りの世話や給仕をするだけなら、24時間付いている必要はない。しかし敵がいつまた仕掛けてくるか分からない以上、姫たちは常に誰かが警護していなければならないのだ。かと言って、男の俺が夜中まで一緒にいるのはさすがにマズい。だから2交代にしたということなのだろう。
「私、殿下の身の回りのお世話なんて、ちゃんと出来るか不安で……」
「平気だよ。俺も一緒なんだし」
「うん。そうだよね。一緒だもんね!」
俺は最初があれだったから何とも思わないが、彼女にとって相手は自分の雇い主の娘であり、一国の王女である。恐れ多いと感じるのも無理はない。
「それじゃ、行こうか」
そう言って部屋を出ようとした時、ミルフィーユさんが俺のメイド服の袖をつまんで、ちょいちょいと引っ張った。
「どうしたの?」
「あのね……」
「うん?」
「わ、私を1人にしないでね」
「かはっ!」
その破壊的なまでの可愛いさに、俺が萌え死んだのは言うまでもないだろう。