第2話 ガチャ?
「今、ガチャって言いました?」
「言ったわよ。知らないの?」
「いや、知ってますけど……」
「発案者は何を隠そうこの私。名付けて転生ガチャ!」
ダメだ、この女神。
「ダメって、何がよ!」
「いちいち人の心を読まないで下さい!」
「仕方ないじゃない。君の頭の上にテロップが流れるんだから」
お笑い系の番組かよ。
「まあ、聞きなさいよ。この画期的なガチャシステムがどんなものか説明するから」
「はいはい、分かりました。聞きますよ」
「まず、最初のガチャで、君に能力を授ける神を引くの」
「え? 貴女がくれるんじゃないんですか?」
「私はまだゴニョゴニョ……」
「えっと、聞こえないんですけど」
「私は修業中だから、転生者に能力は授けられないの!」
「ああ、なるほど。神様にもランクみたいなものがあるんですね?」
「そうよ! 悪い?」
「いえ、別に……」
やはりこの女神は、見た目通りだってことだ。
「うるさいわね!」
「何も言ってませんけど?」
「と、とにかく! 最初に神を引く。これは分かった?」
「ええ、まあ」
「ただし、ハズレもあるの」
「ハズレ? ハズレるとどうなるんですか?」
「能力を授けることが出来る神を引けなければ、当然与えてもらえない」
「え? まさかそれって……」
「わ、私よ! 悪い?」
要するに目の前の女神様のランクはレアリティで言えばN、つまりゴミということだ。引きたくねえ。
「君、つくづく失礼ね!」
「俺、何か間違ってます?」
「ぐっ……」
「ま、貴女を引かなければ何とかなる、と」
「うるさい! 説明を続けるわよ!」
「へいへい」
「ガチャで引く神様には属性があるの」
「火とか水とか風とか?」
「違うわ。商売だったり学問だったり戦いだったり」
「ん? どういうことです?」
「例えば、商売の神様ならお金儲けね。そこで与えられる能力によって、大金持ちになるか貧乏生活を強いられるかが決まるの」
つまり学問の神様なら天才かバカか、戦いの神様なら強くなるか弱くなるか、といったところか。
「だいたいそんなところかしら」
他に神様にもレアリティがあるらしく、下はただのNかR、その上がSR、最上位がSSRとなるらしい。さらに、SSRだと与えられる能力値もハンパないということだ。本当にガチャじゃねえか。
「えっと、初回10連とかないんですか?」
「ゲームじゃないんだから、そんなものあるわけないでしょ!」
システムはまるでゲームそのものなんですけど。
「いいから! 分かったらさっさとガチャりなさい!」
女神様の言葉と同時に、何だかゲームのガチャ画面のようなものが現れた。ボタンには『1回引く』と書かれている。
「それを押した後、背景演出が虹色になればSSR確定。金色ならSR以上。青なら……以上」
「え? 青ならなんです?」
「わ、私以上よ!」
ゲームなら確定演出以外はほぼ、最低ランクである。それ以上が出るということもあるが、期待は出来ない。ということは、狙うはレインボー、虹色演出である。しかも俺の希望を満たすには、戦いの神様を引き当てなければならない。
だが待てよ。俺は高校生だったからゲームに課金はしたことがないが、社会人の課金者が言っていた恐ろしい言葉を思い出した。
『物欲センサー』
ガチャには漏れなく組み込まれていると、まことしやかに囁かれている恐ろしいセンサーである。欲しいと願ったキャラやアイテムは、そう簡単には出さないというシステムのことを指すそうだ。ま、そんなセンサーは現実にはないだろうけど、ここは神様の世界だ。あってもおかしくない。
「そんなものないわよ!」
「また、人の心を……ああ、テロップに出るのか。消せないんですか?」
「え? もちろん消せるわよ。メニューって言ってみて」
「メニュー」
「ほら、そこに『設定』っていうのがあるでしょ? そう、それを押してから『表示』ってところを押して……」
「この『テロップON』というのを押せばいいんですか?」
「そう。それを押すと『テロップOFF』に変わるから、そしたら『OK』ってところを押せばいいの」
先に言えよ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。出来るだけここに来た人間が分かりやすいように作ったのよ」
得意げに言っているが、要はゲームシステムをまんま真似ただけじゃねえか。しかし、本当にテロップOFFは有効らしい。心の中で考えていることはバレてないようだ。よし、ここは一つ、試してみるか。
「女神様、素晴らしい! 俺は心を入れ替えました」
「いきなりどうしたの?」
「転生して強くなりたいとか、女の子と仲良くなりたいとか、そんな図々しい考えは捨てます!」
「あら、偉いじゃない」
「俺は女神様を引きたい。ハズレなんかじゃない。女神様を引いて、能力なんかなくても新しい世界で強く生きていきたいと思います!」
「よ、よく言ったわ! それでこそ私が見込んだだけのことはあるわね」
本来物欲センサーには心で願っただけで感知されるが、ここは神様の世界だ。言葉に出すことで物欲センサーが働けば、この女神を引くことはないだろう。
「じゃ、引きますよ! 女神様が当たりますように!」
俺が願ったのは青い光の演出だ。これで金か、よければ虹色演出が見られるはずである。
そして、ボタンが吸い込まれるように消えると、上空に3人の天使が翼をはためかせて飛び回り始めた。直後、その背景が光りを放つ。果たして色は――
「あ、青……」
ガックリと肩を落とした俺は、優しく微笑みかける女神の姿を、生涯忘れることはないだろう。