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第6話 女装続行?

(つら)い思いをさせてしまいましたね。この通り、お詫び致します」

「そ、そんな、もったいない!」


 ミルフィーユさんをイオナ姫の部屋に連れてきたところだ。拷問される前にメイド服は脱がされたようで、そっちの方は無傷だった。それを着た今の彼女は、端から見たら普通のメイドである。ただし、下着は血だらけにされたので、彼女が今身につけているのは、文字通りメイド服のみだった。


 そんなミルフィーユさんに、イオナ姫とフィオナ姫が深々と頭を下げて詫びる。片やミルフィーユさんも恐れ多いとして、その場に平伏(ひれふ)していた。どうでもいいけどミルフィーユさん、ミニスカなんだからお尻見えそうだってば。


「ミルフィーユが怪しいとアミロ殿に伝えたのは、宮廷魔導師のザック・バラン殿だそうです」

「バラン殿でしたか。我が王国最高にして、最強の魔導師と言われているようですが……」

「姉上、私、あの方は信用出来ません」

「奇遇ですね。私もですよ、フィオナ」

「あの〜」


 そこで情けない声を上げたのは、何を隠そうこの俺だ。俺の股間にはアリアさんの剣が向けられており、ちょっとでも動けば男としての人生を捨てなければいけないことになりかねない。


「ハルト殿、どうされました?」

「ど、どうされましたって、アリアさんの剣が……」

「あ、アリア様! ハルトさんを斬るのはお(ゆる)し下さい!」


 ミルフィーユさん、ありがとう。


「それは出来ん相談だ。ハルト、(われ)の言葉を覚えておろうな。メイドに手を出したら……」

「て、手なんか出してませんてばっ!」


「では聞くが、我の腰を抱いたアレは何だ?」

「はい?」

「先ほど転移すると称して、我の腰を抱いたではないか!」


 あ、そう言えば無意識に。


「いや、あの場合は仕方なく」

「仕方なく、だと!? 貴様、仕方なくで我の腰に手を回したと言うのか!」

「ですから、あの時は急いでいて……」

「そんな理由でこの我の……」


「アリア、もうそのくらいで許して上げなさい。ハルト殿、アリアは男性と手を繋いだことすらないのです」

「なっ! 姫!」

「そ、そうなんですか?」


 アリアさんもきれいな人なのに。でもきっと、男としては近寄り難いんだろうな。何せこの気性だし。うっかり手なんか握った日には、腕ごと切り落とされるんじゃないかって思うよ。


「イオナ殿下、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 お、ミルフィーユさん、ナイスタイミング。これ以上アリアさんを(あお)ると、本当に俺は明日から女の子として生きなきゃならなくなりそうだ。


「許します。申してみなさい」

「先ほどから、まるでハルトさんが男性だと仰られている気がするのですが……」


「えっ? まさか気づいてなかったのですか?」


「え、ええっ!?」

「ミルフィーユ、お前どれだけ鈍いんだ?」

「だ、だって……お声には少し違和感がありましたけど、男性だったなんて」


 どうして胸やスカートの裾を押さえて俺を睨むのかな。


「確か下着姿のままでハルトに抱きついていたな」

「アリア様! 言わないで下さい!」


 そうですよアリアさん。余計なことは言わないで下さいよ。


「でも、どうしてハルトさんは女装なんか……?」

「貴女が衛兵に捕らえられた理由はご存じですね?」

「はい」

「それを調べるために、ハルト殿には城に住んでもらうことにしたのです」


「ただ、男子寮に空きがなかったので、仕方なく私とミルフィーユさんの間の部屋に住むことになったんです」

「そういうことでしたか……」

「大っぴらに、女子寮に男子を入れるわけにはいかんからな」


 そのお陰で私服まで女の子用のものしかないんですけどね。あと下着も。


「ミルフィーユ殿の傷を治してしまったことからも分かるように、ハルト殿の魔法には凄まじいものがあります。一瞬でオークの村を1つ、滅ぼしてしまうほどなのですから」


 言ったのはフィオナ姫である。ま、手加減出来ないだけなんだけどね。


「む、村を1つ……」

「でも、貴女に知られてしまった以上は、このままにしておくつもりはありません。ハルト殿にはすぐに女子寮から出て……」


「お、お待ち下さい、イオナ殿下!」


 ミルフィーユさんが突然、大きな声を上げる。


「私が黙っていれば、ハルトさんは出ていかなくて済みますか?」

「はい? ええ、まあ、済むと言えば済みますが……」

「彼が他の女の子たちに手出ししないよう、しっかりと見張りますから!」


「でも、貴女だってハルト殿に襲われる危険もあるのですよ」


 ちょっと待った。言うに事欠(ことか)いて酷いよ。


「その時は……私がちょん切ります!」

「み、ミルフィーユさん?」

「私、ハルトさんを信じてますから」


「ミルフィーユ、本当にいいのか? ハルトはフィオナ姫の胸や尻も触ったんだぞ」

「えっ!?」

「し、してませんてばっ! フィオナ姫、してませんよね?」

「酷い。あれは遊びだったのですね?」

「ハルトさん……」


 ミルフィーユさん、やめて。ジト目で見ないで。本当にそんなことしてないから。フィオナ姫もフィオナ姫だよ。嫌われてなさそうなのはいいけど、そういう(いじ)りは洒落になりませんから。


「と、とにかく、ハルトさんはこれからも変わらず私とペアで、よろしいですよね?」

「ええ、構いません」

「よかったぁ」

「ミルフィーユ、まさかお前……」


 彼女のホッとした表情に、ニヤニヤしながらアリアさんが何やら耳打ちする。


「そ、そんなこと……!」


 残念ながら俺には聞こえなかったが、ミルフィーユさんは真っ赤になって、そのままうつむいてしまった。


「ハルト!」

「は、はい!」


「敵はまたいつミルフィーユを狙ってくるかも知れん。お前が護ってやれ」

「分かりました!」

「そ、それとハルトさん」

「うん?」


「魔法、教えて下さいね」


 恥ずかしそうにそう言ったミルフィーユさんがあまりにも可愛すぎて、俺はその場で鼻血の噴水を噴き出すのだった。

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