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第3話 プレゼントしたのは?

◆◇◆◇


「どうしたミルフィーユ、随分と嬉しそうじゃないか」


 ハルトとペアになってから2日目の仕事を終えたミルフィーユは、浴場でアリアに声をかけられた。というのも、まるで躍っているかのように浮かれていたからである。


「あ、アリア様! 見て下さい、これ!」

「うん? 何だそれは?」


「ハルトさんから頂いたんです!」

「ハルトから?」

「はい!」

「何に使う物なんだ?」

「えへへ、それはですね」


 コソッと耳打ちされたアリアは、信じられないというような表情を浮かべる。


「お前、それって……!」


「はい。お店では絶対に買えないものだそうです。なんでもハルトさんのお国のものだとか」

「いや、それにしても……」

「ご自分には必要ないからって、私に下さったんです」

「アイツ、何を考えて……」


「私も最初はお断りしたんですけど、受け取らないとパンツを脱ぐとまで言われて」

「よし、ちょん切ろう」

「ちょん切る? 何をですか?」

「い、いや、何でもない」


 その時のアリアの瞳は怒り、というより喜びに(あふ)れているようだった。だが、ミルフィーユはそんなことに気付きもしない。彼女はハルトからの贈り物に、ひたすら有頂天になっていたからである。時はその日の朝に(さかのぼ)る――


◆◇◆◇


「おはようございます、遥人(はると)さん」

「アターナー様、おはようございます!」

「デイリーガチャのお時間ですよ〜」

「待ってました!」


 デイリーガチャは残り6回。レアリティの高い能力やステータスは望み薄だとしても、やっぱり楽しみなのは間違いないのだ。


「と、その前にアターナー様、知ってたら教えてほしいんですけど」

「何でしょう?」

「人に魔法を教えるには、どうしたらいいんですか?」


「う〜ん、そうですね〜。遥人さんはイメージを思い浮かべながら、適当な呪文を唱えれば魔法を使えますよね?」


 適当なって……


「はい」

「でもこの世界の人たちはそうではないんです」

「と、言いますと?」


「魔道書という物がありまして。そこには魔法の原理とか、術式などが書かれているんです。それを理解して、マスターする必要があるんです」


「難しいんですか?」

「日本でお医者さんになるのが難しいのと同じくらいですかね」


 金がかかる上に、学ぶのも難しいのか。とすると、教えるのも簡単ではなさそうだ。


「ちなみに魔道書って高いんですか?」

「高いと言うより、数が極端に少ないんです。まずお店で買うのは不可能ですね」


 アターナー様によると、魔導師の中には自ら魔道書を書いて、それを売ったりする人もいるらしい。魔道を(きわ)めるにはお金がかかるからだそうだ。ただし値段については、魔導師の知名度によってピンキリということだった。


「なるほど。ガチャで出ることってありますか?」

「ミルフィーユさんへのプレゼントを考えているのですね?」

「ええ、まあ」


 この女神様は本当にテレビ好きのようだ。


「コホン。アイテムとしてあることはありますが……」

「あ、あるんですか!?」

「ランクはSSRです」

「え、SSR……」


 出現率は1/10万かよ。それは期待出来ないな。


「売れば一生遊んで暮らせるどころじゃないほどの大金になりますから」

「それでもやっぱり引きたいなぁ」

「がんばって下さい!」


 彼女がそう言うと、例の如く『1回引く』と書かれたボタンが現れる。俺は願いを込めて、ボタンをゆっくりと押し込む。果たして結果は――


 青、しかも天使は飛ばず。その時俺は重大なことを忘れていたのに気がついた。それは、物欲センサー。あのバカ女神、エルピスが心血を注いだという、忌々(いまいま)しいシステムである。


「あら〜。あ、でも喜んで下さい、遥人さん」

「はい?」

「出たのは(レア)ですよ」


「はいはい、どうせ今まで引いたヤツの被りかなんかでしょ?」

「いえ、違います。これは……」

「何なんですか?」


「珍しいアイテムを引きましたね」

「珍しいアイテム?」

「はい。魔導師のステッキです」


「何ですか、それは?」


 ハッ! もしや魔導師の、と言うからには、他人に魔法を教えることが出来るアイテムとか。それなら魔道書じゃなくても、今の俺が欲しい物と遜色はない。ミルフィーユさんとイチャイチャしながら、彼女に魔法を教える姿が目に浮かぶ。


「あの、そういう(よこしま)な考えは捨てた方が……」

「テロップ見ないで下さいよ」

「見たくて見てるわけではありません! それに、残念ながらこれにはそんな機能はありませんから」

「そうなんですか?」


 何だよ、期待させておいて。しかしそうすると、その魔導師のステッキとやらには、どんな使い(みち)があるというのだろう。


「これはですね、使った者の魔力値を10倍に引き上げるアイテムです。ただし、レアリティは固定なので、複数引いてもSRにはなりません。また、10回使うと壊れます」


「魔力値を10倍に?」

「しかも非売品。どこにも売っておらず、魔物を倒してもまずドロップしません」


 はずれメタルの剣に関しては、装飾品として持っているオークを倒せば手に入る。しかしこの魔導師のステッキは、持っている魔物がいるのかどうかさえ分からないほどの希少アイテムということだった。まさかこれもレアリティの設定ミスとかじゃないだろうな。


「いえ、それはないようです。単に魔力値を10倍に引き上げるだけですし、10回使えば壊れてしましますので。そもそもこの世界の人族の魔力値は、高くてもせいぜい千か2千といったところですから」


「それじゃミルフィーユさんの魔力値100というのは……」

「魔法使いとしての適性はほぼ、ないに等しいですね」

「でも、このアイテムを彼女にプレゼントすれば!」

「10回だけ人より少し魔力値が高くなります」


 それなら迷うことはない。これは彼女への贈り物として使おう。


「それはいいですけど遥人さん?」

「はい?」


「出所に関しては、遥人さんのお国の物とか、そんなことにしておいて下さいね」

「あ、分かりました。ガチャのことは内緒なんですね」

「そうです。まあ、言ってしまったところで信じる人はいないと思いますけど」


 要するに、俺がミルフィーユさんにプレゼントしたのは、この魔導師のステッキだったのである。だが、この後俺は、嫌というほどアリアさんに追いかけ回されるのだった。

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