第1話 真のヒロインと出会った?
「おはようございます、遥人さん」
「おはようございます……って……?」
「もうお忘れですか? アターナーです」
「あ、アターナー様?」
俺に多くのステータスや能力を授けてくれた、ランクSSRの女神様だ。俺、また死んだのか?
「そうではありません。転生された方は翌日から毎日1週間、デイリーガチャが引けるのです」
「え、マジっすか?」
「マジっす」
てことは、どうしようもなかった攻撃力や、他のステータスも底上げ出来るチャンスがあるってことか。
「Nは同じもの5つでRに、Rは3つでSRに昇格となります。ただ、SRは同じものを10回引かないと、SSR昇格にはなりません」
「え? デイリーガチャは1週間なんですよね?」
「最終日には2回引けます」
「いやいや、でも10回同じものを引くのは無理なんじゃ」
「デイリーガチャの次はウィークリーガチャがありますから」
「あ、そうなんですか?」
「ウィークリーガチャは3カ月間、その後はマンスリーで10連になります」
「けっこう引けるんですね」
「異世界ライフをエンジョイして頂くための、私発案のシステムなのです」
今度はアターナー様の発案か。女神ってけっこうヒマなのな。
「ヒマじゃありません!」
「もしかしてテロップ出てます?」
「はい」
「メニュー! あれ?」
「ここは神の世界ではありませんので、設定は変更出来ません」
「ありゃ」
「では、ガチャを引きますか?」
「まあ、はい」
「それでは、どうぞ」
彼女の言葉と同時に『1回引く』と書かれたボタンが現れる。ぶっちゃけこのタイミングで、攻撃力のRとかSRなんて期待してないけどね。ということで、早速ガチャを引いてみる。
果たして、予想通り光は青。しかも天使は1匹も飛んでいない。デイリーなんてそんなもんだよね。
「そうですね~。デイリーガチャはSSRの出現率が1/10万ですし」
「やっぱりね」
「出たのはNです」
「ですよね~」
「う~ん、これは……」
「内容は何なんです?」
「女子力、補正値+10ですね」
「は?」
女子力って。
「ちょうどいいじゃないですか。これから女子になるんですよね?」
「な、なりませんよ! てか、何で知ってるんですか?」
「ライフ情報ミヨネ屋でやってましたので」
「ミヨネ屋?」
「神界のテレビです」
「て、テレビ?」
「そこで転生者ウォッチャーってコーナーがあって、転生者がその後どのような生活を送っているか報せてくれる、ドキュメンタリーなんですよ」
やっぱりヒマなんじゃねえか。
「もう! ヒマじゃありませんってば!」
「ま、いいや。また明日のガチャを楽しみにしてますよ」
「はい、それでは」
「あ、ちょっと待って下さい」
「はい?」
「見てたんなら聞きますけど、ここのお姫様を攫った犯人って、誰だか分かります?」
「いえ、分かりませんねえ。ミヨネ屋でやってたのは、あくまで遥人さんのドキュメンタリーですから」
「そっか。攫われたのは、俺が転生する前の話ですもんね」
「それに、分かったとしてもお教え出来ないんですよ」
「決まりとかで?」
「そうです。察しがいいですね」
「お決まりですから」
お上手、と褒めてくれてから、アターナー様はすっと消えていった。
それにしても、女子力ねえ。しかも10ぽっちじゃ、むしろないのと一緒じゃねえか。そもそも女子力の最大値すら分からないんだし。
「ハルトさん、入ってもよろしいですか?」
そこへ、ノックと共に女の子の声が聞こえた。いけね、さっさと着替えねえと男だってバレちまう。
「ちょ、ちょっとお待ちになって。すぐに着替えますので」
うげっ。自分で言ってて気持ち悪い。声を裏返したくらいで通用するのかね。名前の方は別に男っぽくも女っぽくもないって言われたけど。
そんなことを考えながら、俺は慌ててメイド服を着込む。エリスさんは始めミニスカのヤツを渡そうとしたが、さすがに気持ち悪いからとアリアさんが止めてくれた。見るのは好きだが、俺がミニスカを履くなんて狂気の沙汰だよ。
「よし」
金髪のカツラを被り、ヘッドドレスを着けたら完成だ。デコピンの髪も金色だから、境目の違和感は全くない。それに彼の顔を知っているのは、お姫様たちの他には王様と、あとは数えるほどだそうだ。だから髪型さえなんとかすれば、女性と言っても通用すると言われた。もしかしてデコピンって、名前はアレだけど実はイケメンなのか。
「ハルトさん、まだですか?」
「あ、お待たせしてすみませんですわ」
「ですわ?」
「どうぞ、お入りになって」
そこで俺は息を呑むことになる。扉を開けて入ってきたのは、ミニスカタイプのメイド服を着ためちゃめちゃ可愛い子だったからだ。
サラサラ揺れるライトグリーンの髪は腰に届くほどの長さで、毛先はきれいに整えられている。加えて大きな瞳は長い睫毛の下で、少し潤んでいるようにも見えた。
「はじめまして。私はミルフィーユ・アラモードと申します」
そっか、この子がミルフィーユさんなのか。お菓子みたいに甘ったるい名前がよく似合っている。うん、悪くないぞ。
一つお辞儀をしてから上半身を戻した彼女の背筋は、気品を感じるほどにピンと伸びていた。腰からお尻のラインが実に美しい。と言うかそこはかとなくエロい。
エリスさんも可愛いかったが、この子も負けず劣らずだ。胸はエリスさんの方が大きいけど、ほどよいボリューム感にもたまらなくそそられるよ。
「は、はじめまして。私はハルト・サカシタと申します」
「これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、お願い致しますわ」
「あの、その語尾の"わ"は、お国のお言葉なのですか?」
「え? へ、変ですか?」
「あ、いえ、そうではなくて……お名前も珍しいから、外国から来られた方なのかと。それにお顔立ちもまるで殿方のように凛々しいですし」
「ま、まあ、そんなところですわ」
こうして俺は、2度目の人生で初の女装を体験し、運命の少女と出会ったのだった。
あ、最後のは希望ね、希望。ビバ、異世界!




