第7話 金貨を燃やした?
「あ、そっか!」
フィオナ姫を抱きしめながら泣いていた俺は、大事なことを忘れているのに気づいた。そして――
「しゃららんら〜」
俺の呪文のセンスは置いといて、だ。ガチャで引いたRの能力、魔力消費1万であらゆる解呪、蘇生が可能、というのを思い出したのである。要するに、フィオナ姫を魔法で生き返られることが出来るというわけだ。
ちなみにこの蘇生、あらゆるとは言っても、肉体が残っていない場合はダメらしい。ちっとも『あらゆる』じゃねえじゃんと思ったが、蘇生した命が収まるべき器がないとどうにもならないということだ。
「あ……あの……」
「大丈夫ですか?」
「私、デコピン様の代わりにオークに殴られたのでは……?」
「そう、そして貴女は死んだ」
「え? え、ええ」
あれ、反応薄いな。普通は驚くところだぞ。ま、いっか。
「でも、俺が生き返らせたのです」
「そ、そうなんですか?」
やった! これで感激して、フィオナ姫はまた俺に抱きついてくれるはずだ。はず、だよな。
ところが彼女は、青ざめた表情で俺を睨んできた。
「あの、フィオナ姫?」
「ではあの、ガチャは?」
「はい?」
「私は死んで神様の許で、ガチャというものを引いたのです」
「ええ?」
「そうしたらきれいな光に包まれて……」
まさかフィオナ姫もあそこでガチャを引いたというのか。しかもきれいな光って、もしやレインボー? これはちょっと悪いことをしたような。
「どうしてくれるのです! 私、とっても楽しみでしたのに!」
「い、いや、申し訳ない……」
「あのきれいな光は、きっといい結果だったに違いありません! あの青いきれいな……」
「あ、青?」
「そうです! 透き通るような真っ青な光」
「一応確認ですが、その時天使は飛んでました?」
「天使、ですか? いえ、特にそのようなものは見えませんでした」
あー、なんだ。そりゃきっとNだ。でも、こんなところにガチャを引いた同志がいたとは驚きだよ。
「えっと、フィオナ姫。それは多分夢を見ていたのだと思いますよ」
「いえ、そんなことはありません。ほっぺをつねったら痛かったですから」
「俺と同じことを……」
「はい?」
「あ、いえ、こっちのことです」
そして、俺は彼女をしっかりと抱きしめる。
「それにしてもよかった。貴女が生き返ってくれて……」
「ちょ、デコピン様?」
「何も言わなくていいですよ。イオナ姫の許に帰りましょう」
「帰れるのですか?」
「もちろんです。俺は貴女を迎えにきたのですから。ですが、その前に」
やっておかなければならないことがある。シギンとギルギールが話していたのは、確かホープという村だったな。
「一カ所、付き合って下さい。てくまく……大地の精霊よ、我を導きたまえ! ラール!」
さすがにフィオナ姫の前で、てくまくまよこんはないよな。
それはいいとして、また転移先が変なところになっちまった。俺がイメージしたのは、オークの長老コイケ・ヤポ・テイトの家だったのだが、どうやら食卓の上に着地してしまったらしい。まさに彼が食べようとしていた魚料理は、俺とフィオナ姫の足の下で潰れて無残なことになっていた。
「どわっ! な、何者じゃ!」
「あ、ども、すみません」
俺はすぐにフィオナ姫と共にそこから飛び降り、潰した料理に蘇生の魔法をかけた。あらゆる蘇生が可能ってことは、別に相手が料理でもOKってことだろうからね。
しかしそれは大きな勘違いだったようだ。魚料理は元の生きた魚に戻り、ピチピチと跳ね回っている。ま、それはそれとして、だ。
「貴方がオークの長老、コイケ・ヤポ・テイトさんですね?」
「いかにも。はて、そちらの女性には見覚えがあるが」
「お久しぶりです。アークマイルドの次女、フィオナです」
「おお! フィオナ姫じゃったか! 久しいのう。大きくなりよって」
爺さん、どこ見て言ってる!
「で、この若僧は、姫の婿殿かな?」
「む、婿殿だなんて……」
両手を頬に当て、腰をクネクネさせながら恥ずかしがるフィオナ姫は、とにかく可愛い。
「初めまして、勇者です」
「も、もしやソナタが勇者デコピン殿か!?」
ちょっと違うけど、いちいち訂正するのも面倒だし、そういうことにしておいた。
「して、2人は何のご用かな?」
「実はですね……」
そこで俺は、オーク・ザ・ラットの差し向けた暗殺部隊が、長老を狙ってこの村の周囲に潜んでいる、ということを伝えた。
「なんと!」
「ラットはすでに殺しましたけどね」
「あのラットをデコピン殿が? 俄には信じ難いが……」
「それよりどうしますか? 暗殺部隊の方は俺が片付けてもいいんですが」
「デコピン殿、お気持ちはありがたいのだが、そのようなことをしてもらう道理が分からん」
「俺とフィオナ姫を殺し……あ、いえ、ワカバ村のオークには少々因縁がありましてね」
「そうか。だがそれには及ばんよ。敵がいると分かっていれば、このホープの戦士たちに任せればよい」
「そうですか。ところで、ワカバ村は滅ぼしても構いませんか?」
「うん? ああ、何か因縁があるのだったな。好きにすればいい」
「では。ちちんぷいぷい」
「ちちん?」
遠くの方で、雷が落ちたような爆音が聞こえたが、ここからは距離があるのだろう。気になるほどではなかった。現に、長老も気づかなかったようである。
「終わりました」
「なに?」
「あの村の辺り一帯は、巨大な隕石で潰れてなくなっていると思います」
暗殺部隊の帰る場所は、火の玉の魔法で焼き尽くしてやったよ。
「デコピン殿が……やったのか?」
「はい。それでは、俺たちはこれで」
「ま、待て」
「はい?」
「本当に、ワカバ村はなくなってしまったのかね?」
「ええ、跡形もなく」
「好きにしろとは言ったが……そうか……」
「では、行きますね」
そして俺が転移の呪文を唱えた時だ。長老がふと、小さなため息を漏らしながら呟いた。
「あの村には金貨数千枚があったのに……」
長老の言葉は、しっかりとフィオナ姫の耳にも届いていた。
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