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「──本当だ! 7で割りきれた!」
「どおなっていますの!?」
「かかっ! 知りたいか! 教えてやろう!」
リリィが仕事に出向いて。
サクラと雑談していたのだが、長生きならではの雑学を教えてほしいと、セラがせびったのだ。
すると数字の雑学なら腐る程あると言われて、その内の1つを披露してもらったのだ。
「3桁の数字を2回繰り返してできた6桁の数字、それは必ず7で割りきれる。なぜか?」
「うん」
「考えてみるのじゃ。このやり方でできる、1番小さい数字はなんじゃ?」
「100を2つで、100100じゃありませんの?」
「うむ。それも正しいが、ここは001を2回繰り返してみよう」
「え? ずるくない?」
「気にするでない。で、できる数字はなんじゃ?」
「……1001、ですか?」
「うむ、1001じゃ。これは7の倍数なんじゃ」
「あ、わかった!」
「ほう、飲み込みが早いのう。そおじゃ。7の倍数にどんな整数を掛けようが、7の倍数であることに変わりはない。故に999999じゃろうが、347347じゃろうが、7で割りきれるんじゃ」
サクラはそう結んだ。
生きていく上では全く役に立たない知識だろうが、それでも銀髪の姉妹はためになったなァ、と頷いていた。
サクラは他にも雑学や、無駄知識、歴史の裏の真実からおばあちゃんの知恵袋的なものまで、色々な話をした。
その全てに姉妹は興味を示し、驚きの聞き上手さを発揮した。
「いやァ、楽しいのう♪ 普段あまり人とは話さんし、そなたらも聞き上手じゃし」
「てゆうか、単に桜さんの話が面白いだけだと思うよ」
「ですわね。ためになる話ばかりですわ」
そんな話をしていると、気づけばもう太陽が高い位置にある。時間を忘れて話し込んでいたようだ。
「あ、お昼ごはん、なんかリクエストがあれば──……食材ないや」
「す、すまぬ。昨夜、調子に乗った妾の所為じゃな……」
「えっと……外食にしましょうか?」
セラの提案に、ラピスは難色を示す。
「……んー……それはちょっと……」
「ん? 嫌なのか? 美味い店を知っておるぞ?」
「うん。……リリィのお弁当も作らなきゃだから」
「あ、そおでしたわね。でも、お店の料理をこっそり送ってもいいのでは?」
「初日から手抜きはやだ」
気分はすっかりリリィの妻だった。
それがわかったので、サクラとセラは柔らかく微笑む。
結局、今から食材を買いに行って、うちで作ることにした。
買って、戻って、作って、で、ちょうどお昼時になるだろう。
そうと決まればと、外出の準備を整える。といっても、着替えてマジックバッグを持つだけだ。お金はサクラが出してくれると言う。
ラピスもセラも、お小遣い程度にしかお金は持っていないので、ここは素直に甘えることにした。
外に出て、いざ出発! といった段になって、なにかに気づいたラピスが震えだした。
「…………ねェ桜さん」
「なんじゃ?」
「…………街まで、なにで行くの?」
「? そりゃ空飛ぶ絨毯じゃよ。リリィから預かっておるじゃろう?」
「………」
ラピスの目から、光が消えた。
表情の死んだ彼女を見て、サクラは慌てふためく。
「ど、どおしたんじゃ!? 死んだ魚のような目をしとるぞ!?」
「…………なんでもないよ」
「なんでもなくないじゃろ!? なんじゃ!? なんなんじゃ!?」
サクラは最早、軽く狂乱状態だ。さっきまで笑顔を見せていたラピスが、急に能面のようになれば、誰でもそうなるだろう。
面白かったのでずっと眺めていたかったが、ここらでセラは説明することにした。これ以上お昼ごはんが遅れてはいけないという判断だ。
事情をサクラに話す。
ラピス、高い所、苦手。
すると彼女は難しい表情を浮かべた。
「──…留守番してるか?」
「…………いく」
「はァ、仕方ありませんわ。姉さま。わたくしにずっと、抱きついていてくださいまし」
「…………ん」
一切の躊躇いなく、ラピスはセラに抱きついた。『姉の威厳』という言葉は、彼女の辞書には載っていないようだ。
ちなみにセラは、ラピスは可愛くてこそだと思っているので、威厳などむしろないほうがいいと思っている。威厳のない姉を、彼女は尊敬していた。
……ややこしいな。
絨毯を拡げて、サクラを先頭にして乗る。ラピスは既に、両手両脚でセラに抱きつき、目を瞑る万全の体勢を取っている。
「姉さま。覚悟が決まったら合図してくださいまし」
「…………ちょっとまってね」
「はい」
「………。…………おっけ」
「サクラさま。出してください」
「了解じゃ」
かくして一行は、空を飛んで最寄りの街を目指した。
空の上にて。
わずか30分の短いフライトだが、それはラピスの救いにはならない。もう高いというのがダメなのだ。高さを認識しないように、目を瞑ってセラにしがみつくも、怖さが減るわけではない。単に、恐怖を紛らわせているに過ぎない。
だからラピスはセラにしがみつくのだ。
少しでも、恐怖が軽くなるように。
「──…失礼を承知でゆうが、今のラピス、ヤバいくらい可愛いのう」
「わかりますか? そおなんですの。怖がってる姉さま、ちょっと危ないくらい可愛いんですのよ♡」
にもかかわらず、外野は暢気な会話をしている。
文句を言いたいラピスだが、そんな余裕はないので、今は口を噤むしかなかった。
30分は意外と長い。それが手持ちぶさたな時間なら尚更だ。
「……暇じゃのう」
「そおですか? わたくしは姉さまを可愛がるのに忙しいんですが」
「む。なら妾も」
「ダメですわ! いくらサクラさまでも、それは許可できません!」
「ええー」
「『ええー』じゃありませんわ。サクラさまは、妹ポジションを脅かしそうなので、絶対にダメです」
「そんな理由じゃったのか!?」
妹ポジションを守るため、セラは一層強くラピスを抱きしめる。
これはこれで可愛らしいので、サクラは銀髪の姉妹を眺めて暇を潰す。
「まァよい。そなたらを見ているだけで目の保養になる」
「あの……じっと見られると恥ずかしいんですが……」
「よいではないか。暇なのじゃ」
「ではなにか、お話ししませんか? 上の空にお相手しますので」
「なかなかゆうようになったのう、セラ。よいことじゃ」
「…………セラ」
戯れのような話をしていると、今まで置物のように黙っていたラピスが、不意に口を開いた。
「どうしました? 姉さま」
「…………さくらさんをこまらせちゃ、ダメだよ」
「あ、はい。すみません」
「………」
今度はサクラが黙り込んだ。
セラは疑問を浮かべる。
「サクラさま?」
「──可愛え」
うっとりと、サクラは呟いた。次の瞬間、テンション高く叫んで、ラピスの頭を撫でくり回した。
「可愛すぎじゃろラピス! なんじゃこの愛くるしさは! もう1回! もう1回喋ってくれ!」
「…………やだ」
「ふわァ♡ 可愛えのう! 嫌がる仕種も最高じゃ! リリィのやつ、いい嫁さんを見つけたのう!」
「………」
次はセラが黙り込む番だった。この絨毯に乗ると、沈黙を強いられるなにかがあるのかもしれない。
というより、サクラはこんなにはっちゃける人だったのか、とセラは思った。
未だにテンション高く、サクラはラピスを構っている。抱きしめているのは自分なのに、微妙に疎外感を感じる程だ。
「…………さくらさん、うるさい」
「ああ! その素っ気ない反応も可愛えのう!」
「…………まわりのじょうきょうをはあくしたくないから、はなしかけないで」
「長文を喋るとめちゃくちゃ可愛え! もっと喋ってくれ!」
「…………まちについたらおこるからね」
移動時間は、こうして賑やかに過ぎていった。




