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風呂からあがって、あとは寝るだけ。ちなみにベッドはない。畳の部屋に布団を直敷きだ。
──が、ここで小さな問題が発生した。
今言い争っている彼女たちは大真面目なのだろうが、端からみれば些細な問題だ。
すなわち──
「ラピスの隣はあたしです! 師匠!」
「なにをゆうか! そなたは毎日一緒に寝ておるじゃろうが!」
「当たり前です! あたしの婚約者ですよ!」
「じゃから、なにも盗ろうとしとるわけじゃないんじゃから、今日だけ譲ってくれてもよいじゃろう!」
「ダメです!」
「わたくし、できるなら姉さまとサクラさまの間で寝たいですわ」
「今日だけなんだから、わたしも桜さんの隣がいいな」
「ぬゥ! あっちを立てればこっちが立たずか!」
「師匠の希望をガン無視すれば解決です」
「いやじゃいやじゃ! 妾はラピスとセラに挟まれて寝る! たまには師匠孝行せい!」
「するとセラの希望が通らないね」
「あ、いえ、無理にとは言いませんわ」
「ダメよ! セラが可哀想でしょ!」
…………うるさい。
本当に、単にうるさかった。
この家が街中になくてよかった。もし街中にあれば、両隣の住人から間違いなく苦情がくるだろう。近所迷惑、というやつだ。
やいのやいのと言い合っていると──
「あれ? ちょっと待って。これ別に、争わなくてもいいんじゃない?」
と、唐突にラピスがなにかに気づく。
そして説明しだした。
「リリィ、わたし、桜さん、セラの順で寝れば解決じゃない?」
「……セラの希望が通らないわね」
「いえ、だいじょうぶですわ。明日姉さまに甘やかしてもらいますので♡」
「要領がよいのう、セラよ」
ようやく、寝るポジションが決まった。…………寝るポジションってなんだ。
ともかくあとは寝るだけなのだが、ラピスたちからしてみれば、今は旅行中。つまり、夜更かしも旅行の醍醐味といえるだろう。
そして更に、ここには普段会うことのないサクラがいる。訊きたいこと、話したいことは山程あった。
「桜さんはさ、彼女とかいないの?」
「いや、普通は彼氏と訊くところじゃろ、それ。……おらんよ。いたこともない」
「え? 本当ですの?」
「ああ。……なんとゆうか、多分妾には恋愛感情がないんじゃと思う。男も女も、好きになったことがないのじゃ」
「師匠のそおゆう話、聞くのは初めてですね」
「そおじゃな。そもそも、妾を好きになるとゆうことは、そいつ絶対にロリコンじゃろ? 普通に気持ち悪いわ」
「あ、あはは……」
渇いた笑いを洩らすラピス。同様に、リリィとセラも笑っていた。
「でも、好きな人がいないって想像もできませんわね」
「ほう。なんでじゃ?」
「だってわたくし、物心ついたときから姉さまが大好きだったので」
「ふふ。セラは筋金入りのシスコンね」
「それで言えば、わたしの初恋ってかなり遅いかも」
「! 相手は誰!? あといつの話!?」
「? リリィだけど」
「………………」
「……ここからでは見えませんが、リリィ義姉さまが真っ赤になってるのはわかりますわ」
「照れておるのじゃよ。愛いやつじゃ」
「桜さん、なんか娘を見るような目してるね」
「そおかもしれんな。歳は4000以上離れておるが、リリィは娘のようなものじゃ」
「そおゆう『好き』はあるんですのね」
「そりゃあの。もちろん、ラピスとセラのことも大好きじゃぞ。娘が増えた気分じゃ♪」
「あ、そおゆう『好き』を入れていいなら、ホルンが最初かな。セラは妹だから別枠として」
「ホルン? 誰じゃ?」
「ラピスとセラの親友ですよ。目下のところ、あたしの最大のライバルですね」
「ほお。面白──」
「「あァあああああああ!?」」
楽しくお喋りに興じていたら、急に銀髪の姉妹が叫んだ。そしてガバッと起き上がり、マジックバッグを取りに行った。
「なんじゃなんじゃ?」
「なにか思い出したみたいですね」
慌ててバッグを引っ掴み、手を突っ込んで門手鏡を取り出す。それに付随して、封筒が2つポトリと落ちた。
「あちゃあ、やっぱり来てたかァ……」
「大分お待たせしてしまいましたわね。申し訳ないですわ……」
姉妹は沈んだ表情で宛名を確認して、1つをリリィに渡した。
残った1つを、ラピスとセラは肩を寄せ合って読んでいる。
リリィは今渡された封筒に視線を落とした。隣からサクラが、ずいっと覗き込んでくる。
「なんじゃ?」
「アイリスからの手紙ですね。あっちはホルンちゃんからみたいです」
「ほう。アイリスか。懐かしいのう」
封を切って、リリィも手紙を読みだす。彼女の腕の間から、ひょこっとサクラが顔を覗かせた。一緒に読みたいようだ。仲のいい師弟である。
──読み終わった。
徹頭徹尾、1から10まで、ピンからキリまで、全部惚気話だった。
「「………」」
絶句する二人。無理もない。
なにせ、2行に1回は『可愛い』と書いてあるのだ。
確かにリリィは、ホルンとのエピソードを聞きたい的なことを書いた。だが、限度ってものがあるだろう。なんだ? 便箋5枚分って。
「──…あー。……アイリスにも彼女がおるんじゃな」
気を取り直すように、サクラが殊更明るい声を出す。リリィはこれ幸いと、それに乗っかった。
「──ええ。それがホルンちゃんです。今ラピスとセラが手紙を書いてる相手ですね」
「なるほどのう。……確かに、あの二人の様子を見るに、相当仲がよさそうじゃの」
姉妹はキャッキャと相談しながら手紙を書いている。非常に楽しそうだ。
しばらく待って、ラピスとセラは手紙を書き終わる。それを封筒に容れて、門手鏡に突っ込んだのち、布団に戻ってきた。
「ごめんごめん。お待たせ」
「すみません。お待たせしましたわ」
謝りながら、元いた位置に戻る。
リリィはラピスを抱きしめ、サクラはセラに抱きついた。
「リリィ?」
「……やっぱり、ちょっと寂しい」
「…………ごめん」
「ラピスは悪くないわ。あたしこそごめんね。……しばらくはこおして、焼きもち妬くと思う」
「──うん」
「……で、サクラさまはどおしましたの?」
「ノリじゃな」
「……ノリ、ですの?」
「うむ。言い替えればなんとなくじゃ」
「………。……まァいいですわ」
気にしないことにして、セラはサクラの頭を撫でる。リリィもラピスに甘える。
旅行中でも、サクラがいても、結局はいつも通り、イチャイチャと過ごすことに変わりなかった。




