表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
90/433

90

ダイヤ──否、リリィの師匠、サクラ・コンゴーは、ラピスとセラの手を離して、二人に軽く頭を下げた。


「すまなかったな、ラピスにセラよ。そなたらのことは初めから知っておったのじゃ。偶然を装って近づいたこと、赦してほしい」

「──…は、はァ……」

「──…い、いえ……」


予想外すぎて、姉妹は簡単にしか返事をできない。

サクラはクツクツと笑う。


「リリィもすまなんだな。カンナを遣わしたのは(わらわ)なんじゃ」

「……なるほど。どうりでタイミングがいいと思いましたよ」


リリィは苦笑い。師匠の人柄をよく知っているが故だろう。


「腰を据えて話をしたいところじゃが、ここは人が多い。リリィ。空飛ぶ絨毯はまだ使っておるのかの?」

「いえ。今は飛行機という新しい乗り物を使っています」

「ほお、流石じゃな。では街外れまで()こうか。その『ひこうき』とやらを見せてくれ」


雑踏の中、サクラは一人でずんずん進んでいってしまう。

未だに呆けている姉妹の手を取って、リリィは師匠を追いかけた。




街外れまで行き、リリィが飛行機を懐から出す。大きさを取り戻したそれを見て、サクラは感嘆の息を洩らす。


「素晴らしい。研鑽(けんさん)は怠っていないようじゃな」

「恐れ入ります」

「特にこの翼がよいな。あってもなくても同じ効率じゃが、敢えてつける。そこがよい」

「ですよね。格好いいですもんね」

「然り。格好いいは正義じゃ」


リリィが師匠とよくわからない会話をしてる……。そんなことを思いながら、ラピスとセラはその光景を見つめている。


「おお、すまぬ。そなたらを置いてきぼりにしてしまったな。話は(わらわ)の拠点に向かいながらでよいか?」

「あ、うん。それでいいよ」

「姉さま!」

「あ」


思わず『ダイヤちゃん』に話すのと同じ口調で喋ってしまった。セラが慌てて窘めるも、覆水は盆に返らない。

ラピスは「……すみません」と頭を下げた。

しかしサクラは──


「よいよい。いつもの口調で構わんよ。『ダイヤちゃん』と話すのと、同じ口調で喋ってくれればよい」

「えっと……」

「まァ無理にとは言わんがな。好きにしてくれ」


リリィの言っていたことは本当のようだ。


──人間ができている。


ラピスとセラは改めて、リリィの師匠の人間性を理解した。




飛行機に乗り、一行は一路サクラの拠点を目指している。

サクラの家は街からかなり近く、このペースで飛んでいけば30分とかからずに到着するそうだ。そんなに近くて一般人に見つからないのかと、ラピスは心配になったが、そうそう見つかる心配はないらしい。

なぜなら近いというのは『空を飛べば』の話なのだ。地を行こうとすれば、崖やら谷やら激流やらが行く手を阻み、簡単には辿り着けないとのことだ。


「とゆうわけじゃ。納得したかの?」

「うん。よくわかったよ」


魔法で色を変えていた髪を、元の黒に戻しながらサクラは説明を終えた。


結局ラピスは敬語をやめた。やっぱり慣れなかったのだ。サクラが許可している以上、無理に敬語を使う必要もない。


「──では改めて」


サクラが場を仕切り、声をあげる。全員が彼女に注目した。


(わらわ)がリリィの師匠、サクラ・コンゴーじゃ。気軽にサクちゃんと呼んでくれ」

「無理だよサクラさん。馴れ馴れしいし」

「ラピスよ。そなたも充分馴れ馴れしいぞ? いい意味でな」


ニカッとサクラは笑う。釣られてラピスも笑った。

その様子を、セラは驚嘆して見ている。


「……流石は姉さまですわ。コミュ力が半端じゃありません」

「やっぱりこうなったわね。気さくな師匠とフレンドリーなラピスだものね」


リリィと話してる間にも、ラピスはサクラと距離を縮めていく。

セラが流石と言って(おのの)くのも無理はない。


「サクラさんって東の島国の生まれなの?」

「おお! よくわかったな。かつては『大和』と呼ばれておったが、確かにあの国出身じゃ」

「じゃあ『サクラ・コンゴー』じゃなくて、『金剛桜』なんだね」

「その通りじゃ。……嬉しいのう。発音もしっかりしておる」

「えへへ。わたし、東の島国好きだから♪」

「そおかそおか。自分の国を好きと言ってもらうのはいいものじゃ♪」


ラピスはサクラと東の島国談義を初めてしまう。ああなったらしばらく止まらないと、リリィとセラは知っているので放っておくことにした。

サクラの家に着く頃にはもっと仲よくなっていることだろう。


セラはリリィの脚の間に座り、彼女に(もた)れかかる。いつもはラピスとしている体勢だ。

リリィは少し驚いたが、抱きしめて受け入れる。そのまま、気になったことを訊いてみる。


「セラ、ちょっとジェラシー?」

「んー。……わかりませんわね。姉さまが楽しそうなのは素直に嬉しいんですけど……」

「けど?」

「…………笑わないでくださいましね?」

「? ええ」


躊躇いながらも、セラは口を開いた。


「………。……サクラさま、見た目が幼いので、妹ポジションが脅かされそうでモヤモヤしますの」

「………………ぷっ」

「! 笑わないでくださいってゆったじゃありませんの!」

「っ……ごめん。でも、くっ……あまりにも、あまりだから……ふふ」

「もお! だから言いたくなかったんですわ!」

「ごめんごめん。でも心配ないわよ。当たり前だけど、ああ見えて師匠、あたしより歳上だから」

「…………そおなんですわよね。魔女って不思議ですわ」

「ちなみに、正確な年齢は本人も憶えてないそうよ。10000は確実に超えているそうだけど」

「途方もないですわね」


セラは自分が小さいことに拘っているような気がして、ふゥとため息を吐いて気持ちをリセットする。


ラピスとサクラはまだ楽しげに話している。セラは少し、それが羨ましい。自分には、姉の半分も社交性がないと自覚しているからだ。

あんな風に、誰かとすぐに仲よくなるなんて無理だ。リリィのときも、ホルンのときでさえそうだった。


無論、サクラと仲よくしたい気持ちはある。会うのが楽しみだと言った気持ちにも嘘はない。

だがいきなりは無理だ。

事前に情報──というより、為人(ひととなり)を知っておきたい。

この考え方自体がよくないとわかってはいるのだが、生まれ持った性分はそうそう変えられなかった。


リリィにサクラのことを訊ねようと、口を開く。と──


「──セラよ。少し(わらわ)と話をせんか?」


その前に、サクラが話しかけてきた。機先を制された形だ。

目上の人に誘われては、嫌と言うわけにもいかない。礼儀が芯まで染み着いているセラは、リリィから離れて微笑を浮かべる。


「わたくしでよければ喜んで」

「かかっ、固いのう。まァよい。(ちこ)う寄れ」


セラはサクラの側まで移動する。口火を切ったのは、やはりサクラだった。


「ラピスには悪いことをしたの。すぐにでもリリィと話したかったじゃろうに、(わらわ)が引き留めてしまった」


ラピスを見ると、楽しそうにリリィとスキンシップしている。双方ともに幸せそうだ。


「そんなことはないと思いますわよ? 姉さま、サクラさまと話せて楽しそうでしたもの」

「そおかの? 妾も楽しかったから、そおだと嬉しいんじゃが」

「わたくしの姉さまを見る目は確かですわよ。信じてくださいまし」


自信満々にセラは断言する。

サクラは、「では信じてみるとするかの」と微笑んだ。


「セラのシスコンは有名な話じゃからな」

「? わたくし、そんな世界規模で有名なんですの?」

「なにをゆうておる。アレキサンドライト王国の二人の美姫(びき)の話は、魔女界隈では有名じゃぞ?」

「…………美姫?」


サクラはニヤリと、悪戯っぽく笑った。


「のう? セラフィナイト元第二王女よ」

「!!」

「詳しく話してもよいが、そろそろ我が家じゃ。──それについて、ラピスに一つ相談がある」

「ん? 呼んだ? 桜さん」


リリィに後ろから抱きしめられながら、ラピスは反応する。ちょっと目を離した隙に、密着度がめちゃくちゃ上がっていた。


「……いや、今はなにもゆうまい。お客さんに頼むのも心苦しいが、頼みがあるのじゃ」

「なに?」


サクラはもにょもにょと口元を歪めて、気まずそうにその『頼み』を口に出した。


「──…掃除を、手伝ってほしいのじゃ……」

「………」


やっぱりリリィの師匠だなァ、と、ラピスは盛大にため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ