87
ところ変わってラピスたち。飛行機の中にて。
二人組で向き合って、片方が片方の顔を触る。頬、首、耳、鼻、瞼、唇と構わず触り、赤面したら負けという謎の遊びをしていた。その際、触られる側は抵抗してはいけない。
なにが楽しいのか全くわからない。そしてルールもよくわからない。
一応追記しておくとこの遊び、意外と難しい。
普段から抱き合ったり、キスをしたりしている彼女たちだが、それと照れとは殆ど無関係なのだ。
例えばハグ。
これは互いの体温や柔らかさを堪能できるが、逆に言えばそれだけで、恥ずかしさよりは安心感を抱いたりするのだ。
例えばキス。
これは互いの気持ちが高まったときに自然と行う行為であり、そこには照れよりも大きな幸福感がある。
しかし、互いに見つめ合うこの体勢もそうだが、極端な接触面積の狭さ。これが照れに繋がっている。
触られる側はどうしたって、触られている部分に神経を集中させてしまう。それに伴うもどかしさ、抵抗してはいけないという縛りも、恥ずかしさを助長させる一因となっていた。
だがこの遊び、なにか彼女たちの琴線に触れるものがあったようで、かれこれ1時間はこの遊びを続けていた。暇なのである。
今勝負しているのはラピスとリリィ。リリィがラピスの顔を触る番だった。
右手でラピスの頬に触れ、さわさわと撫でる。この程度ではラピスは赤面せず、嬉しそうに微笑むばかりだ。
ここでリリィが攻勢に出る。ラピスの唇を重点的に攻めだしたのだ。
しかし、初めこそ照れがあったものの、この遊びを始めて1時間。彼女たちはある程度慣れてきていて、それはラピスも例外ではない。ただただ嬉しそうなオーラを増すだけで、赤面とは程遠かった。
──この時までは。
わずか1秒後、リリィが人差し指と中指を、ラピスの口腔内に侵入させたのだ。
「っ!?」
リリィは笑顔のまま、ラピスの舌を指で撫でる。得も言われぬ感覚が、彼女の全身を突き抜けた。
予想外の事態に、最早赤面どころではない。脳内はもうてんやわんやだ。
リリィの指を傷つけてはいけないので絶対に歯は閉じないのだが、それが却ってラピスを追い詰める。
止めるものがないのをいいことに、リリィは届く範囲の全てを撫でる。上の歯茎、下の歯茎、頬の内側、口蓋、舌、舌の裏。
ラピスの喉から「かひゅっ」という声が洩れた。
ようやく脳が現状を把握し、ラピスの顔が真っ赤に染まる。
彼女の負けが確定したので、リリィはそっと指を引き抜いた。
「ふふ。あたしの勝ちね♪」
妖艶に微笑んで、リリィは指を舐める。ラピスの顔が更に赤くなった。
「ズ、ズルいよリリィ! これはさすがに反則でしょ!」
「あら? そんなこと、誰も言ってないわよ?」
「いやズルいでしょ! ズルすぎるでしょ! セラもそお思うよね!?」
「ぅえ?」
セラに同意を求めると、彼女は指を2本立てて、それをラピスに向けた不自然な体勢で止まっていた。なにをしようとしたのかは明らかである。
「セラ!?」
「えっと……わたくしもやってみたいですわ」
「ええ……」
味方かと思っていたら普通に敵だった。げんなりと力が抜けてしまう。
しかしそこにリリィの待ったが入る。
「でも、次はラピスがセラを攻める番よ」
「まだ続けるの? これ」
「受けて立ちますわ!」
なんかセラが乗り気なので、これで終わりにしようと考えながらラピスは手を伸ばした。
頬を撫でる。満遍なくさすさすと。セラは当然、嬉しそうに微笑むだけだ。
次いで耳、首筋も順繰りに撫でていく。擽ったそうにするも、赤面には至らない。
ここでラピスに悪戯心が芽生える。
『セラもやってみたいってゆってたし、わたしがやってもいいよね』と。
唇に手を近づけて、親指でなぞる。セラがなにかを期待するような顔になった。その期待に応えようと、ラピスは指を2本、唇を割って突っ込んだ。
このまま舌を撫でてやろうと、悪戯心全開で考えているラピス。だが次の瞬間、彼女が予想もしなかったことが起こった。
セラが、積極的にラピスの指を舐めてきたのである。
「っ!?」
驚いて、反射的に手を引こうとする。しかしその手はセラの両手にしっかりと掴まれていて、引くことはかなわなかった。
「セ、セラ! ぅく、ん、やっ!」
セラはチロチロとラピスの指を舐める。唇で挟み、まんべんなく、それこそ爪の間まで丹念に舐めた。いや、それはもう、『しゃぶった』や『ねぶった』と言ったほうが正確だ。
「や、やめ! ひぅ!」
擽ったさと気持ちよさから声が我慢できず、ラピスは色っぽく悶える。その顔は既に真っ赤に染まっていた。
ぷは、と言ってセラはラピスを解放する。とても満足そうだ。
「ふふ。わたくしの勝ちですわね♪」
「だからズルいでしょ! なんなのさっきっから!」
真っ赤な顔でラピスは叫んだ。怒っているというより、ただ恥ずかしいだけだろう。
ぷんすかと『怒る振り』を続けるラピスに、リリィとセラは微苦笑して謝る。
「ごめんなさい。ラピスがあまりにも可愛いから♡」
「すみません。姉さまが可愛すぎるのでつい♡」
「反省してないでしょ! もお!」
謝りかたが悪かったらしく、ラピスは『怒る振り』を続ける。
ラピスは引っ込みがつかなくなっているだけだと、彼女たちもわかっているのでうまく話の舵を取ることにした。
「ごめんごめん。どおしたら赦してくれる?」
「わたくしたち、なんでもしますわよ」
目を反らして、ラピスは囁く。
「…………キスしてくれたら……赦してあげる」
ズキューン! という音が、リリィとセラの胸から聞こえた気がした。
彼女たちは衝動のままに、ラピスに抱きつく。
まずはリリィが、彼女に唇に己の唇を重ねる。きっかり10秒後、リリィは唇を離す。
すると今度はセラが、優しくラピスの頭を包み、自らの唇を姉のそれに重ね合わせた。またしても10秒後、唇が離れる。
ラピスは恥ずかしそうにはにかむ。それに釣られて、リリィとセラもはにかんだ。
「え、えへへ。赦してあげる♡」
「ありがとう♡」
「ありがとうですわ♡」
…………この3人、喧嘩とかするのかなァ?
そんなことを思わせる一幕だった。




