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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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8

お米を買って、その帰り道。

スキンシップと称して、ラピスはリリィと手を繋いで歩いていた。当然のように恋人繋ぎである。

いきなり手を取られたリリィは最初こそ戸惑っていたが、すぐに受け入れて笑顔を浮かべた。

だが、未だに顔は赤いままである──ラピスの顔が。


「なんであなたのほうが照れてるのよ」

「だ、だって、リリィさんの手、すごいスベスベで綺麗だから」

「……褒めてくれるのは嬉しいけど、さすがに恥ずかしいわね。てゆうか、さっき、絨毯の上ではもっと密着してたじゃない」

「あれは高いとこ──……」


ラピスの動きが完全に止まった。

すれ違う人たちが怪訝そうにこちらを見てくる。


「……忘れてたのね?」

「…………わすれてた」

「えっと、帰りは飛ぶ前から目を瞑ってましょ。ずっとあたしに抱きついてていいし」

「…………うん、そおする」


明らかに歩く速度の落ちたラピスを引っ張るようにリリィは歩く。

やがて門番のロッゾがいるところに辿り着いた。尚、その頃には手を繋ぐだけではあきたらず、ガッツリと腕を組んで歩いていた。もしリリィの性別が違えば、誰もがカップルと思うことだろう。


「や、ロッゾくん、お疲れ」

「……連れの嬢ちゃんの顔色が(わり)ィが、だいじょうぶか?」

「ええ、2時間ちょいで治るわ。じゃあまたね」

「おう、気ィつけてな」


ロッゾに別れを告げて5分程歩く。

人の目がなくなったところで、リリィは懐から空飛ぶ絨毯を出した。


「さァ。ラピスちゃん、おいで」

「…………うん。…………できるだけつよくだいてね」

「わ、わかったわ」


ラピスの愛くるしさにクラっときながらも、頼みを了承する。

絨毯に乗ってラピスは目を瞑り、両手両脚でリリィにしがみつく。

準備は万端。いざ、絨毯は空へと飛び出した。


「あと2時間、我慢してね。なんなら寝ちゃってもいいわよ」

「…………おはなししてたい」

「そお? じゃあねェ、なにかあたしに訊きたいこととかない? 魔法のこととか、長生きと若さの秘訣とか」

「…………リリィさん、すきなひといる?」

「おっと、予想外の質問ね」


リリィは驚いた風にしながらも、寂しげに笑った。幸い、抱き合っているおかげで顔は見られていない。


「……今はいないわね。昔はいたんだけど、フられちゃって……」

「…………リリィさんをフるなんて、みるめがない」

「ふふ、ありがとね。でも仕方ないのよ。あたしの外見は変わらないのに、彼女はどんどん老いていくの。終いには顔も見たくないって言われちゃった」

「…………かのじょ?」

「あ、うん。そうよね、おかしいわよね。でも間違ってないわよ。あたし、女の子のほうが好きだから」

「…………ほんと?」

「ええ、ラピスちゃんに隠し事はしないわ。あ、でも相手の同意なく変なことはしないから、ラピスちゃんも気持ち悪がらないでくれたら嬉しいわ」

「…………わたし、リリィさんすきだよ」

「ふふ、ありがとう。あたしもラピスちゃん好きよ」

「…………うん。…………すきだよ」


それから無言のまま2時間が経過し、彼女たちは家に帰りついた。




「はあぁぁぁ…………ぁぁぁあっ」

「なにその変なため息」

「わかんない。なんか急にやりたくなった」

「! もしかしてそれ、記憶を失う以前(まえ)の、ラピスちゃんの癖だったんじゃないかしら? ここから芋づる式に記憶が──」

「いやいや、やだよそんな記憶の戻り方。格好悪い」


拗ねたようにラピスは言って、「着替えてくるね」と小屋に入っていった。

リリィも絨毯をしまうと後に続く。

ラピスが着替えている間にできることをやってしまおうと考えたリリィは、マジックバッグから食器を取り出し、棚に並べていった。

そこにメイド服に着替えたラピスが戻ってくる。


「わ! リリィさんが食器並べてる! だいじょうぶ? 手伝おうか?」

「……あのねラピスちゃん。いくらあたしでも、これくらいはできるわよ」

「あはは、ごめんごめん。ところでそれ、どうやってるの?」

「ん?」


ラピスが指差したのは、マジックバッグだった。


「中に入ってるもの、どおやって取り出してるのかな? って思って」

「ああ、これね。これは取り出したいものを思い浮かべながら手を突っ込めば、それが出てくるわ。やってみる?」

「うん!」


リリィからマジックバッグを受け取ると、ラピスは「……たまごたまご」と呟きながらバッグに手を入れ、中から卵を取り出した。


「おおォ~!」

「ふふ、いちいちリアクションが素直で可愛いわね」

「えへへ。あ、でもリリィさん。中に入ってるものがなにか忘れちゃったらどうするの? ひっくり返せば出てくる?」

「いいえ、その程度じゃ出てこないわ。そんなときは『解放(リリース)』って唱えれば──」


リリィの言葉に反応し、マジックバッグが輝き出すと、辺り一面に肉や野菜などの食材が散乱した。

幸い、潰れたりしてダメになった食材はなかった。先に卵を取り出したラピスのファインプレーと言えよう。


「………」

「………」

「………………」

「………………」

「………………すぅ」


息を吸い込むラピス。


「──リリィさん!」

「ごご、ごめんなさいィ!」


彼女たちの昼食は、まだ少し先になりそうだった。

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