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リビングでイチャついていると、飲み物を取りに来たセラに見つかった。
「あ! なに羨ましいことしてますの! わたくしもまざりますわ!」
と言って突貫してくる始末。
その際、リリィは可愛いと言われ慣れていないと、ラピスが暴露。このことから姉妹で可愛い可愛いと連呼して、リリィを赤面させることになったのはご愛嬌である。
一頻りイチャイチャして、セラからなんの話をしていたのかと質問された。ラピスはそれに答える。
「えっとね、結婚したあとの呼び名の話とか、リリィの師匠の話とか」
「リリィ義姉さまの師匠! ちょっと興味ありますわね」
「ふふ、そのうち会えるわよ」
リリィは笑って答える。
その師匠に会える日を、ラピスとセラは楽しみに待つのだった。
体勢を変えてまだまだトークは続く。
今度はセラを真ん中にして、ラピスとリリィで挟むように座った。二人がけのソファーに、3人で並んで座っているためぎゅうぎゅうである。
だがそれがいいとばかりに、彼女たちは更に密着度を高める。
セラは二人の姉に挟まれて上機嫌だし、妹大好きなラピスももちろんご機嫌。そして最近シスコンに目覚めたリリィも、義妹の可愛さにうっとりしていた。
「ああ、セラもやっぱり可愛いわね♡」
「でしょ!? 世界一可愛いでしょ!?」
「世界一はラピスよ」
「世界一は姉さまですわよ」
「なんで!?」
セラの可愛さの布教をしようとしたラピスだったが、始まる前に呆気なく頓挫した。ホルンにも裏切られたし、いよいよ諦めるしかないかもしれない。
気持ちを切り替えてラピスは言う。
「それはそうとさ。リリィの師匠に、挨拶しに行ったほうがいいんじゃないかな?」
「あ、結婚するって? ……そおね。それもいいかも」
「思ったより早く、お師匠さまにお会いできそうですわね」
和気藹々とこれからのプランを話す。師匠のところに行くことは決定事項となった。
「手土産とかどうしよう? 甘いものは好きかな?」
「師匠は完全に子供舌ね。ケーキとか、クレープとか好きだったわ」
「姉さま姉さま。大福を持っていきましょう」
「セラが食べたいだけでしょ? でも、それもいいかもね」
「あたしも食べたい」
「中に苺を入れてくださいまし」
「だから手土産だってば」
手土産は苺大福に決まった。主に、リリィとセラの強いリクエストで。
「一つ、大きな大問題があるわ」
「なにその『頭痛が痛い』的な言い方」
「問題ってなんですの? リリィ義姉さま」
「…………師匠の家、遠い」
「………」
「どのくらいですの?」
「……絨毯で20時間」
「…………ほぼまるいちにち」
「姉さま! 気を確かに!」
「…………さすがに酷だから、もっとスピードが出るように改良するわ」
「……お願いします」
「わたくしからもお願いしますわ。姉さまの心の安寧のためにも」
移動手段を改良することに決まった。
ラピスの心労も、少しは減るだろう。
「失礼のないようにしなければいけませんわね」
「セラは、そのままでだいじょうぶよ」
「え? なに? わたしは問題あるみたいじゃん」
「姉さまはたまに口調が乱れますからね」
「最初はアイリスに敬語だったのに、うっかりタメ口になってたし」
「……気をつければだいじょうぶ。うん、意識して話せば」
「行く前に練習しますか?」
「まァ、師匠は細かいこと気にしないから、多分タメ口でも平気よ」
「最初にゆってよ、それ」
言葉遣いや礼儀の再確認もした。敬語があまり得意ではないラピスもいるが、無礼ではないのでだいじょうぶなはずだ。
色々と話し合い、空飛ぶ絨毯の改良が済み次第出発すると決めた。改良には最低でも5日はかかるとのこと。それまではいつものように過ごす。
ところで。
たったの5日で改良できるのに、どうして今まで改良しなかったの!? とラピスがキレたことを、一応追記しておく。
ちなみにリリィの答えは、「怖がるラピスが可愛いから」、だった。
ラピスが更にキレたことは、語るまでもないだろう。
夕食時。
今日のメニューはドリアだ。海鮮がたっぷり入っていて美味しい。
半分はバターライス、もう半分はケチャップライスになっており、食べる者を飽きさせない工夫が為されている。
美味しそうに食べる二人を見て、ラピスも嬉しくなる。
そのタイミングで、大事なことを訊いていないことを思い出した。
「そういえばさ。リリィの師匠の名前、なんてゆうの?」
「ん? ……ごくん。ゆってなかったかしら? 師匠の名前はサクラ・コンゴーよ」
「変わった名前でふわね」
「セラ、行儀悪い。……でも、サクラ・コンゴーか……」
食事の手を止めて、ラピスは考え込む。それを訝しく思ったリリィが彼女に訊ねた。尚、こちらは食事の手を止める気配はない。
「ラピスどおしたの? なんか引っかかる?」
「あ、うん。もしかしてリリィの師匠、東の島国の出なんじゃないかな?」
「え? …………遠いところから来た、とはゆってたけど」
「サクラ・コンゴーって珍しい名前でしょ? でも、『金剛桜』だったら、東の島国にありそうな名前になるんだよね。お師匠さん、黒髪だったりしない?」
「! よくわかったわね。その通りよ」
やっぱり、とラピスは頷く。
物識りという話だし、東の島国のことを訊いてみようと決意する。俄然会うのが楽しみになったラピスだった。
食事を終えてティータイム。今日はコーヒーだ。もっとも、ラピスとセラはカフェオレだが。
3人で並んで座り、まったりとくつろぐ。
ストローで飲みながら、ラピスはリリィに寄りかかる。不思議と、昨日よりも幸せな気がした。
「……えへへ♪」
「あら? なんかご機嫌ね」
「うん。なんかね、昨日より幸せだなァって思ってね♡」
「ふふ。そんなの当たり前じゃない」
リリィは笑う。ラピスはわからずに首をかしげた。
すると反対側からも笑い声が聞こえた。セラも笑っていたのだ。
「ふふ、姉さま。リリィ義姉さまの仰る通りですわよ。なにせ──」
セラはリリィに目配せする。リリィは頷いた。
「なにせあたしたち、昨日よりも今日のほうが、ラピスのこと好きだもの」
「──…あ」
「もちろん今日よりも明日のほうが好きだし、それは毎日更新されていくのよ♡」
「そおですわよ、姉さま。だから昨日より今日のほうが幸せなのは、当たり前のことです♡」
「……あはは、そおだね。確かにわたしも、昨日より今日のほうが、リリィとセラのこと好きだよ♡」
3人で柔らかく微笑む。
今日のカフェオレは、いつもより少し甘かった。




