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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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階下に降りたリリィとセラ。そこではアイリスが食事の準備をしていた。


「お邪魔してます。リリィ先輩、セラフィさん」


リリィは微笑んで片手を挙げ、セラは恥ずかしそうにうつむいた。


「……あの、アイリスさま。先日はホルンさんの件でいざこざもありましたが、わたくしも悪かったですわ。……ですので普通に話していただけると……」


その頼みに、アイリスは(かぶり)を振る。


「いえ。あの頃の自分は愚かでした。そのことを教えてくださったラピスさん、セラフィさんには感謝の念が絶えません。ですので礼儀を尽くすのは当然のことです」


アイリスははきはきと言った。服装はいつも通り和装だが、その立ち居振る舞いはまるで軍人のようだった。


セラは難しい顔で唸る。


「………。……わたくし、敬語を使われるの嫌いですの。王女時代を思い出してしまいますので。ですので、礼儀を尽くすとゆうなら、いつも通り喋ってくださいませんか?」

「…………そこまでゆうなら普通に話そう。ラピスさんにもそおしたほうがいいか?」

「はい。是非」


セラはホッとしてソファーに座った。リリィは義妹(いもうと)のそんな様子を楽しそうに見ている。


ホルンが用意して、アイリスが並べた料理を食べて、人心地つく。

だがそうなると、再びラピスのことが心配になってくる。食後のお茶も飲まず、二人はラピスの許へ足を向けた。


「待ってください」


だがそれを、アイリスが止める。


「ホルンに全て任せておけば安心です。それに病人というのは、部屋に誰かがいるだけで気疲れするものです。大人数で押しかけないほうがいいでしょう」


その意見は非常に頷けるものだった。

リリィとセラは、ラピスを心配する気持ちをグッと抑えて、アイリスの用意したお茶を飲むのだった。




「──…ホルン?」


ところ変わって寝室。

ホルンが服を脱がせて腋を入念に拭いていると、ラピスの目が覚めた。

眠そうな瞳にだるそうな仕種だが、意識ははっきりしているようだ。ホルンは柔らかく笑って声をかける。


「おはようッス、ラピスさま。まずはこれを飲んでください」


ホルンは水差しをラピスの口元に近づける。ラピスは力なく水差しを咥え、こくこくと水を飲んだ。


「……ふふ」

「どおしたんスか? ラピスさま」

「……わたしが……リリィにひろわれたときも……こうやってみずのんだなァって……かんがえてた」


弱々しい声で、なんとかそれだけを言うラピス。ホルンは「そんなことがあったんスね」、と相槌を打つ。


汗を拭く作業を再開し、拭き終わったら服を着せる。

「……ありがとう」と、ラピスはやはり弱々しく笑った。


コロンと横になり、ラピスは改めてホルンを見て首をかしげる。


「……あれ? ……ホルンがいる。……なんで?」


今更の疑問に微苦笑しながらも、ホルンは答えていく。

ラピスが風邪をひいて倒れたこと。看病のしかたがわからないと、セラの救援要請を受けたこと。すぐさま駆けつけて、今は自分が一任されていること。

ついでに、アイリスから聞いた肉体の最適化魔法の欠点──というより、抜け穴のことも話した。


「……そお……だったの。……きてくれて……ありがとう」

「いえいえ。ラピスさまのためなら、ウチはなんでもするッスよ」


ラピスの頭を撫でながらホルンは言うが、彼女は僅かに顔を(しか)めた。


「……なんでもするとか……ゆっちゃダメ。……わたしが……むちゃゆったら……どおするの……?」

「へへ。できないことはゆうもんじゃないッスよ、ラピスさま。ラピスさま、無茶とかゆえないじゃないッスか」

「……ゆえるよ。…………えっと……チキンカツが……たべたい」

「そのコンディションじゃ無茶ッス!」


すかさずツッコみを入れるホルンだった。──そうゆう無茶じゃねェよ。


それはさておき、ホルンは柔らかく話しかける。


「なんか食べたいものはないッスか? もちろんチキンカツ以外で」

「……ホルンのつくったおみそしるに……ごはんいれたやつ」

「味噌汁ご飯ッスね」


待っててくださいと言って、ホルンはもう一度ラピスの頭を撫でてから部屋を出た。




ホルンがリビングに戻ると、リリィとセラが詰め寄ってきた。


「ホルンさん。姉さまはだいじょうぶですの?」

「だいじょうぶッス。今からご飯作って持ってくッスよ」

「ありがとう、ホルンちゃん」


ホルンがキッチンに移動したので、リビングにいるのは再び3人になった。

そのうち二人はそわそわしている。

やはり心配するなと言っても無理があるのだろう。

そう考えたアイリスは、二人の気を逸らすために、二人が興味を惹きそうな話をすることにした。


「ところでお二人とも。最近、ホルンが一段と可愛いんですが、聞いてくれませんか?」


なんのことはない、惚気(のろけ)話である。

人によっては嫌がる──否、大半の人は嫌がるその話だが、恋は盲目と言うべきか、アイリスはそのことに気づかない。

そして幸いなことに、その惚気(のろけ)話は二人の気を惹くのに充分だった。


リリィはラピスと生活する上で、参考になればと思い。

セラは大好きなホルンの可愛い話に興味津々だった。


「是非聞かせてほしいわ」

「お願いしますわ」

「ではお話ししましょう」


アイリスは唇を舐めて語り始める。


「あれは3日前のことでした。その日自分は仕事だったんですが、少し王族の奴らがごねて帰りが遅くなってしまったんです。そうなる可能性はあったんで、ホルンには先に寝るように言っておきました。──帰り着いたのは日付が変わる頃。彼女を起こさないようにそっと家に入り、魔法で仄暗(ほのぐら)い照明を出しました。すると、その光景が自分の目に飛び込んできたのです」


そこで一旦お茶を飲むアイリス。

いいところで切られた二人は、続きを早く、と目で訴えている。すっかりアイリスの話術の(とりこ)になっていた。

アイリスは満足気に笑い、続きを語り出す。


「正直自分は、夜食の準備くらいはされていると思ってました。ホルンは優しいので。ですが彼女は、畳の間でうつらうつらと舟を漕ぎながらも、先に寝ることなく自分を待っていてくれたのです。自分が帰ったことに気づいたホルンは、眠い目をこすりながら『おかえりッス』とゆってくれました。それからやおら立ち上がると、自分に抱きついてきたんです。そして一言。ここ、見せ場です。……『アイリスさんの顔が見たくて寝れなかったッス』。……もしこの世に天使がいるのなら、ホルンの姿をしてるに違いありません♡」


長々と自慢気に語って、アイリスはお茶を飲み干した。

リリィとセラは、看板に偽りなしの可愛い話を聞いてほっこりしている。


リリィは、アイリスも大人になったわねェ、としみじみ思う。おまえはアイリスの保護者か、とツッコめる者はここにはいない。

セラはそのときのホルンのいじらしさを想像してニヨニヨしていた。その表情のまま、キッチンに立つホルンを見る。


「? なんスか?」

「「「いやいや、なんでも」」」


異口同音に喋る彼女らを、ホルンは不思議に思ったが、今はラピスが優先だ。小さな疑問は頭の隅に追いやり、土鍋をお盆に乗せて2階に行く。


その後ろ姿を、3人はやはりニヨニヨと眺めていた。

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