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待ちに待った8の月の18日。
朝ごはんを食べて、出かける身支度をする。
ちなみにセラも一緒に行くことになった。
昨日、「お願いします! わたくしも綺麗な姉さまを見たいですわ!」と本気でお願いしてきたのだ。土下座で。水着で。
倒錯しそうなくらいマニアックだった。
まァそんなこともあって、ラピスとリリィはこれを快諾。
ただいま絨毯の上で、ラピスが覚悟を決めるの待ちである。
「もういい? ラピス」
「…………まって。…………セラ、もうちょっとくっついて」
「こおですの?」
「…………うん。…………いいよ」
「じゃ、行くわよ」
絨毯は飛び立つ。
こんなめでたい日であろうと、ラピスの怖がりは相変わらずであった。
「可愛いわァ、ラピス♪ これだから絨毯での移動は退屈しないのよね♪」
「…………リリィいじわるだ」
「すみません姉さま。わたくしもリリィ義姉さまに同意ですわ♪」
怖がるラピスを愛でていると、街に到着した。
リリィとセラにとってはあっという間だが、ラピスにとっては普通に2時間だ。
少し歩いて門に到着。いつものようにロッゾが出迎えてくれた。
「おう、リリィさん。ラピス嬢。セラ嬢。3人で来るのは初めてだな」
「や、ロッゾくん。お疲れさま」
「ああ。しっかし、随分と綺麗どころが揃ってまァ。……男どもに気をつけろよ?」
「だいじょうぶよ。いざとなったら撃退するから」
「ははっ、頼もしいねェ」
笑うロッゾに見送られ、街に入る。
ブライダルショップに向かう道中、リリィはセラに訊く。
「セラも男の人苦手なの? ずっと黙ってたけど」
「あ、いえ。冷たい言い方になってしまいますが、興味がないだけですわ」
──あ。と、なにかを察したリリィは黙って歩く。
シスコンは今日も平常運転だ。
ブライダルショップに到着。
受付で名前を告げると、今回は特に待たされることもなく別室に案内された。
「待ってたわよっ、リリィちゃん! ラピスちゃん!」
そこでは、相変わらずテンションの高いレイシアが待っていた。
初見のセラは若干面食らったようだ。ラピスの腕を掴んでいる。
「あら? そちらは?」
「は、はい! 初めまして! セラフィナイトと申しますわ! セラとお呼びください!」
ラピスに迷惑をかけてはいけないという思いと、レイシアのテンションの高さにあてられて、セラの声量が大きくなる。それは結果的に、レイシアに好意的に受け取られた。
「うんうんっ。元気があっていいわね!」
ソファーに座るよう促され、3人は並んで腰かける。
対面のソファーにレイシアが座った。
「ふふふふふっ。凄いのができてるわよっ。期待していいわっ」
説明を開始しようとするが、リリィがそれを遮る。
「待って、レイシアちゃん。あたしとラピス、それぞれ別室で着替えて、ここで初お目見えにしたいんだけど」
「あ、そおねっ。そのほうがサプライズ感が強くていいわっ」
そう言うと、レイシアはスタッフに命じてリリィとラピスを別の部屋に案内した。セラは一人取り残される。
サービスと言って出された紅茶を飲んで待つ。その間に、自分がスピーチを務めたい旨をレイシアに伝えた。彼女は笑顔でオーケーしてくれた。
スピーチについて詰めること20分。なんとか大まかな流れは決まった。あとはセラが原稿を考えるだけだ。
ちょうどそのタイミングで、彼女が待ち焦がれた人物が入ってきた。
「お待たせ。──あれ? わたしのほうが早かったんだ。──どお? セラ。似合う?」
セラは息を呑んだ。
言葉を尽くして姉を褒めたい。ありとあらゆる褒詞を用いて、姉を絶賛したい。
だができない。陳腐な表現になるが、そのあまりの美しさに言葉が出てこない。
ラピスの青みがかった銀髪に合わせた、同色のウェディングドレス。
決して華美ではなく、落ち着いた印象を与える作りだ。派手なだけのドレスとは比べ物にならないくらい、着る者の魅力を引き出していた。
また、うっすらと化粧も施されており、ともすれば幼く見えるラピスを、大人っぽく演出している。
透き通った氷のような色のドレスを着たラピスは、まるで氷の妖精のよう──否、氷の妖精ですら裸足で逃げ出す美しさだった。
世界中の美を集めて凝縮すればラピスになる──半ば以上本気で、セラはそう考えた。
自分の貧困な語彙では、この美しさを十全に表せない。
そこまで考えて、セラは万感の想いを込めて口を開く。せめて、自分の抱いた想いの100分の1でも届けと願って──
「──…きれい……ですわ」
「えへへ。ありがとう♡」
ラピスは嬉しそうに微笑む。
セラ、並びに周りで見ていた女性スタッフが撃沈した。
5分後。
セラたちはまだ放心している。
だが時は待ってはくれず、扉が再び開いた。
「お待たせ。……慣れてないから時間かかっちゃっ──」
リリィの台詞が途中で切れる。
部屋の中にいる、世にも美しい恋人を見て。
「……………」
ラピスもまた、言葉を失っていた。
リリィが身につけているのは金のウェディングドレス。かといってギラギラしているわけではなく、優しい色合いの金。
それはリリィの髪の色に絶妙にマッチし、1つの調和を造り上げている。
──美。
一言で言うならばそれだろう。
ラピスは本当にこの人が自分の恋人なのかと、改めて自問する程だった。
「…………リリィ……」
「…………ラピス……」
最早言葉は要らなかった。
恋人たちはゆっくりとお互いに歩みより、そっと抱き合う。
二人の体温が1つにまざり合い、幸せの絶頂を迎えたとき──まるでそうするのが自然のように、唇が重なった。




