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それからはまったりと過ごした。
水着を着たからといって、泳がなくてはいけない決まりはない。
彼女たちは格好が水着に変わっただけで、あたかも家にいるかのように過ごす。人目がない無人島だからこそできる荒業だ。
砂浜に座って腕を組んだり、膝枕をしたり、後ろから抱きついたり。
効果音をつけるとしたら、キャッキャウフフだろう。
一通りイチャついて満足した彼女たちは、最後に釣りをすることにした。リンドブルムへのお土産にするのである。
リリィには釣りの才能がないので、おとなしく応援に回っている。銛で捕ってもいいが、帰り道を考えると体力を使いすぎるのもよくない。
なので彼女はおとなしく、ラピスの背凭れという大役を全うするのだった。
ある程度の量を釣り上げて、マジックバッグに入れる。お土産には充分だろう。
水着を魔法で乾かして、上に服を着る。面倒くさくなったのだ。
絨毯を拡げて、いつものフォーメーションで乗る。
「楽しかったわね」
「また来たいね」
「今度はホルンさんたちも一緒ですわ」
絨毯は空高く飛び、彼女たちは帰途に就いた。
2時間かけて行きにも寄った街に到着。遅めの昼食を済まして更に2時間。計4時間かけて、彼女たちは我が家に帰り着いた。
「ただいまァ」
「クルゥ」
おどけてラピスが言うと、留守番をしていたリンドブルムが返事をしてくれた。
「あ、リンちゃん。今日も可愛いね。はい、お土産だよ」
「クゥルゥ♪」
ラピスはとてとてとリンドブルムに近づき、首筋を撫でてお土産の海鮮も前に出す。10メートルを越える漆雷獣を可愛いと言えるラピスは案外大物なのかもしれない。
リンドブルムは世間で言われているイメージが嘘のように喉を鳴らして、海鮮に喰らいついた。
「美味しい?」
「クルゥ!」
「あはは、それはよかった」
リンドブルムはラピスに1番懐いている。大雑把にではあるが、彼女の言いたいことを察してくれるのはラピスが1番上手いからだ。
それを和やかに見守って、リリィとセラは家に入る。荷物を置いてセラは洗濯物を畳み、リリィはなんとなくそれを眺める。
「? なんですの? リリィ義姉さま」
「あ、いえ。…………それくらいならあたしもできるかしら?」
洗濯物を畳むことを言っているのだろう。
リリィの壊滅的な家事の腕を知っているセラではあるが、これならそうそう惨事にもならないだろうと考え、「やってみます?」と場所を譲った。
セラが座っていた場所に腰かけ、タオルを畳む。
──畳めた。
…………まァこれくらいはできるだろう。
とゆうか、タオルを畳めない人間がいるなんて想像したくもない。
「凄いですわ、リリィ義姉さま! ちゃんとできましたわね!」
「馬鹿にしてるでしょ! セラ!」
軽く腹を立てつつも、次の洗濯物を手に取る。ラピスのブラウスだった。
これは難易度が高いと、リリィはムムと唸った。
店に並んでいる形を想像して、まず袖を──いや、丈から……それともまずは半分に?
試行錯誤していると、ビリッ、という不穏な音が手元から聞こえた。
「「あ」」
リリィとセラの声が重なる。
──ラピスのブラウスのネックの部分が派手に裂けていた。
「どど、どおしますの!? それ! 姉さまのですわよ!」
「おち、落ち着きなさいセラ! こおゆうときこそ魔法の出番よ!」
魔法が活躍する規模が小さすぎる。
リリィの手元が光り、そのままブラウスのネックの部分を包み込む。光が晴れたとき、そこには無傷のブラウスがあった。
「……ふゥ」
「い、今のは?」
「時間遡行魔法よ。対象の時間を最大で5分巻き戻すの」
「……なんてスケールの小さいでたらめ……」
そこにラピスがやって来る。
「あー! リリィなにやってんの!? 危ないから触っちゃダメでしょ!?」
「あたし別に小さい子じゃないわよ!?」
リリィを半ば追い出すように立たせて、その場にすっぽりと収まる。そしててきぱきと手際よく洗濯物を畳んでいった。
「リリィが触ったらわたしのブラウスとか破きそうだからね。家事はわたしがやるから、もう触っちゃダメだよ?」
「わわわわわかったわ」
まるで見ていたかのように言うラピスに、動揺を隠してリリィは頷いた。
間違えた。動揺を隠しきれずに頷いた。
こてんと可愛らしく首をかしげたラピスだったが、特になにも言わずに、メイド服に着替えるために自分の部屋へ向かった。
メイド服を着たラピスは、旅行で溜まった衣服の洗濯を始める。セラが自分もやると言ったが、いいからいいからと、なぜか取り合ってくれなかった。その理由はすぐに判明することになる。
洗濯をしてくれる魔道具──通称洗濯機を稼働させている間はすることもないので、リビングでお茶を飲んだり、スキンシップをしたりして過ごす。
そこでラピスが唐突に言った。
「あ、そうだ。リリィとセラ、服脱いで」
「「…………え?」」
意味がわからずに問い返す。
いや、意味はわかるのだ。ただ、なぜそんなことを言われるのかがわからないだけで。
そんな彼女たちにラピスは説明を加える。
「その下まだ水着でしょ? だから脱いで」
「え、えっと……」
「な、なぜですの? 姉さま」
あれ? なんで伝わらないんだろう? と思いながら、ラピスは更に説明を追加した。
「だから、さっきわたしとリリィで勝負したでしょ? 赤面がうんちゃらってやつ」
「ええ、したわね」
「で、リリィ負けたでしょ。ボロボロに」
「……ええ、負けたわね」
「わたしが負けたら、寝るまでの間水着で過ごすって言ったでしょ? だったら逆に、リリィが負けたんだから寝るまでの間水着で過ごしてもらわないと」
「…………」
「まさかノーリスクで勝負に乗ったわけじゃないよね? そんなことしないよね?」
ニヤニヤと笑うラピスはまるで小悪魔のようだった。
リリィは観念して服に手をかける。
そこでセラの声があがった。
「待ってください姉さま。わたくしは勝負に乗ってませんわよ。なぜわたくしも脱がなきゃいけないんですの?」
「セラはついで」
「ついで!?」
「うん。それに実質負けみたいなもんでしょ? 鼻血我慢してたし」
「っ!?」
「さ、思い切って脱いでみよう。時間をかければそれだけ恥ずかしいよ」
理もなにもない、完全な勢い押しなのだが、セラはそれに呑まれてしまった。
リリィと顔を見合わせると、真っ赤になって服を脱ぎ始めた。
リリィとセラが水着姿になる。
水辺でもなんでもないところでするこの格好は、予想以上に恥ずかしかった。
「ふわァ! やっぱ可愛いね♪」
「…………あんまり見ないで」
「…………恥ずかしいですわ」
ラピスは彼女たちが脱いだ服を、洗濯場に持っていってしまう。もう逃げ場はなかった。
ラピスは紅茶とクッキーをテーブルに置いて、洗濯物を干しに行く。
紅茶とクッキーは、部屋に戻らないでね? という暗黙のメッセージだろう。
それを察したリリィとセラは、おとなしく紅茶を飲み、クッキーを食べる。
…………なんだかとっても落ち着かなかった。
ラピスが戻ってきて、リリィのむき出しの太腿に頭を乗せる。非常にご満悦そうだ。
「ねェリリィ。ちょっと相談があるんだけど」
「この格好で?」
「うん。ちょっと真面目な話」
「この格好で!?」
真面目な話をするには世界一向いていない服装だろう。水着。
「えっとね。結論からゆうと、うちも土禁にしたい」
「アイリスの家みたいに?」
ラピスはうんと頷く。
「そうするとお掃除が楽になるんだよね。お掃除は好きだけど、やっぱりこの家、一人でやるには広いから」
「それなら全然いいわよ。むしろ、今まで気が利かなくてごめんね」
「んーん」
リリィに髪を撫でられて、ラピスは気持ちよさそうに目を細める。
セラが微笑んで話に加わる。
「姉さまの好きな、東の島国の文化に近づきますわね」
「ね。……そのうち畳も欲しいなァ」
「アイリスの家にあったやつね。あたしもあれ欲しいわ」
それからも彼女たちは、これからの生活に思いを馳せて、様々なことを話し合った。




